第33話 自己紹介

 芳賀さんは、前髪を上げている俺を見て戸惑っている。


「———トゥエルブです。宜しく」


 俺はトゥエルブとして普通に挨拶をした。


「ども、初めまして。―――で、正吾君は?」


 芳賀さん本当に気付いていないようだ。回りをキョロキョロして御前正吾を探している。


 俺は彼女に気付かれないようすかさずカチューシャを外して、再び挨拶をした。


「———芳賀さんこんにちは」


「ん? あれ?」


 芳賀さん、「キツネにつままれた顔の正解はこうです」って顔で俺を見ている。ついでに瞬きのスピードが16ビートだ。早い。


「ふふふ。正吾君何ふざけてるんですか。芳賀さん混乱してますよ」


「———すまん」


 俺は再びカチューシャで髪を上げた。


「———なあんだ、正吾君だったんだ。正吾君ってメチャクチャカッコよかったんだね―――って、ん―――? あれ? さっきトゥエルブって……あれ? 正吾君……トゥエルブ……トゥエルブってハイスペ……じゃなくて、え? ハイスペックス? なんで? はぁ? ちょっとまって! ハイスペックスって……え? そうなの?」


 みんなニコニコしている。勿論、俺も笑っている。この皆のニコニコは芳賀さん歓迎の意だ。

 空が改めて芳賀さんに紹介した。


「俺達が『ハイスペックス』です。改めて、宜しく!」


「―――うそ……それじゃあ、あの声って……」


「私です。ハイスペックスボーカルの『nIPPiニッピ』こと『葉倉丹菜』で―す」


 丹菜は立ち上がり足を広げて左手は腰へ。そして右手を目元で横ピースした。開いた指の間から目を覗かせている。何だそのポーズ。ウィンクがまた可愛い。


「それじゃあ、あのメチャクチャ攻撃的なキーボードが……」


「私がキーボード担当『ノンノノ』こと『希乃陽葵』でーす」


 陽葵も丹菜と同じキメポーズだ。真顔なのがまた可愛い。お前もそれやるなら俺も……。


「―――ギターの『トゥエルブ』こと『御前正吾』でーす」


 流石に恥ずかしくて芳賀さんを直視しては出来なかった。俺は座りながら顔をそらしてポーズした。

 ポージングする事がルールになったらしい。大地も座りながら手だけ同じポーズだ。


「ドラムの『Dai×2ダイダイ』こと『大宮大地』でーす」


 そして、最後に、


「ハイスペックスリーダー、ベースの『Sky』こと『小堀空』でーす」


 空も同じポーズだ。真顔で芳賀さんを見ている。いや、キメ顔だな。


「うそ……ハイスペックスって……マジ? ……じゃあ、あの文化祭の時のあれも、あんた達だったの?」


 俺達はニコニコしながら無言で頷く。

 芳賀さんは両手を口に押さえて「信じられない」って顔をしている。なんか、目がうるうるさせて、何故かノンノノ陽葵を見ているが……。


「ヤバい。私メッチャファンなんだけど……ノンノノ……あとでサインして♡」


「私なんか―――い!」


「だって、文化祭で生で見た時の、ノンノノの狂気的なあの演奏っぷりが凄く格好良くて……」


 確かに陽葵が演奏するときって動きがやばい。なんか殺気立った感じなんだよな。ピアノ弾く時もそうなんだろうか?


「芳賀さん、ゴメン。私達サインなんて準備してないよ」


 陽葵がそう言うと、みんな頷いた。


 ・

 ・

 ・


 ”———コンコンコン“


 雑談のあと、丹菜が発声練習を軽くしているとドアがノックされた。


「時間でーす。準備お願いしまーす」


 スタッフが呼びにきた。


「それじゃあ、ここから一人になりますけど、大丈夫ですか?」


「ありがとう。後ろの方で楽しませてもらうよ」


 すると、空が一言。


「四曲目、俺の言葉、ちゃんと聞いてて」


「———分かった。頑張ってね」


 空君は後ろ向きで芳賀さんに見えるように小さくガッツポーズをしてステージへ向かった。


 俺達四人は空を先頭にステージに向かった。その状況はまるで、空がリーダーである事を誇示しているかのようだった。

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