第34話 小堀 空
俺の名前は「
友達のツテで彼女と毎朝一緒に登校する仲にはなったが「友達」かと言われると、ちょっと微妙な感じだ。
彼女を紹介された時、俺は「実はバンドをやっている」と明かした。しかもバンドのリーダーだと言ったら彼女は驚いていた。
―――ある日、俺は思いきってその好きな人にライブのチケットを渡した。ライブはクリスマスイブの日に行われる。
そして彼女は友達でもあるバンドのメンバーに駅からライブハウスへ案内して貰った。そして控室まで連れてきてもらい、俺は彼女へ秘密を明かした。
俺達のバンドが、今、学校内で騒がれているバンド「ハイスペックス」であることを。
彼女はバンドのメンバーが、自分が知るクラスメイトが三人も居て驚いていた。
そして、俺達がステージに上がる時間になった。
俺は今、ステージへ上がろうとしている。
フロアーには観客が沢山居る。今日は簡単に数える事が出来ないほどの人数だ。
彼女は一番後ろにいるが、それでも人混みに紛れて見つけるのは一苦労だった。
俺達はステージに上がった。俺達が登場するとフロアーから色んな声が聞こえてきた。
「やっとハイスペだよ」
「今日もニッピとノンノノの衣装可愛いね」
「あの子達、いつも顔がよく見えないんだよな」
「あれ? 今日、マイクスタンド一本多くね?」
俺達を楽しみにしていた人もいて、なんとも嬉しい限りだ。そしてフロアー後方にいる意中の彼女。その姿を見た俺のテンションはいつにも増してハイな状態だが、今はグッと押さえている。
俺達はステージに上がるといつもどおり、セッティングに入った。
そして、いつもそのセッティングが早く終わるキーボードが音を出して状態を確認する。
”♫♩——♬♫♪—♪—♬♩———……“
今日も軽やかな旋律に、聞き慣れているはずの俺も聴き入ってしまう。相変わらず「凄い」の一言だ。
”ドゥッ♪ チャ♬ ドゥッ♪ チャ♬ ドゥッ♪ チャ♬……“
そしてキーボードのリズムを無視してドラムが鳴り始める。いつものパターンだ。
一旦、キーボードは音を止め、そしてドラムのリズムに合わせて再び音を奏で出す。
“ボボッボ・ボ・ボボッボ・バッボン、ボボッボ・ボ・ボボッボ・バッボン……♩”
“ジャ、ジャジャ、ジャ♩—ジャ、ジャジャ、ジャ♬———
大体、俺とトゥエルブは同じくらいにセッティングが終わって、音を出し始める。今日もお互いセッティングはバッチリだ。
少しして……静観していたニッピは手が高々と上げ―――勢いよく振り下ろす!
”———ピタ!“
俺達はそれを合図に音を止める。
数秒……静寂な時間がほんの少し流れる―――。
”———ドゥルドゥッ♬ ドゥルボッ♩ ボルドゥッ♩ ドゥンッ♫———“ 一曲目はベースから始まる渋い出しだ!
「♫♪♬——♪♫♪—♩—♬♫♫———♩—……」
前奏から続いてニッピが入る。
サビ、ギターソロ、キーボード、今日は皆大人しい。いつもと違って大人しい。今はそれでいい。いや、普段からそうしろよ! しかし久々に普通に演奏している事に違和感を覚えるのは気のせいだろうか?
尤も、このメンバー、普通に弾けばいいのに何故か暴走する。なんだかんだでバカなんだ。改めてじっくり自分らの演奏を聴くと、メチャクチャ上手いよな? 皆に呑まれ無いようにしないと……。
今日は一組三十分の時間を貰っているから五曲歌う予定だ。
・
・
・
そして、早くもライブ後半。曲は四曲目に入った。
俺が、ハイスペックスを結成したのは、高校一年に入学して間もなくだ。大宮楽器店に行ったとき、二階からドラムの音が聞こえ、その時、同じクラスの大地と会い、そして大地が陽葵を誘って三人から始まったのがハイスペックスだ。後に、正吾と丹菜が加入してハイスペックスが完成した。
四曲目は、結成当初に作った曲だ。曲は大地と陽葵の事を歌にしたラブソングなのだが、実は大地はその事を知らない。後から加入した二人も知らない。曲調はアップテンポでメジャーコード中心の明るい曲だ。
久々に披露する曲だ。このメンバーでは初となる。
この歌には「セリフ」のパートが在るのだが、いつもは陽葵が大地に向けて密かにメッセージを発していた。しかし大地はその事を知らないし、陽葵が言うセリフは毎回違う。
今回は、そのセリフを俺が
彼女にはステージに上がる前に、俺の言葉を聞くように伝えてはいたが……。
そして、曲は台詞前のパートに入った。
「いつも好きな人の隣を歩く♬ 肩がコツンとぶつかれば♪ 弾けて離れるのは一瞬♫ 再び惹かれあう引力に……♩」
当時の陽葵と大地の事を歌詞にしたんだが、今は、俺と彼女に当てはまる。次のフレーズのあと―――演奏が止まる。
「———溢れる気持ちを彼女の耳元でそっと囁く♫」 ————ジャン!“
———シンと静まる会場。俺は彼女に指を差して一言呟いた。
「———好きです。同じ気持ちなら右手を俺に」
辛うじて見える彼女の表情は「私に言ったの?」 って顔だ。明らかに戸惑っている、
曲はそのまま二番へ。
メンバーからは、ステージからの告白はドン引きされるからやめろと言われたが、ここはリーダーの権限でゴリ押しした。
愛花ちゃん、ステージ上がる時に言った「俺の言葉聞いて」を意識してくれてれば……気付くかな?
「(同じ気持ちなら右手を俺に見せるか差し出すかしてくれるはず)」
俺は彼女の行動を待った。すると、彼女は右手を俺に見えるように高く上げてくれた。さっきの言葉に応えてくれたんだ!
そして再びセリフのパートへ……。
「———ありがとう。これからも宜しく!」
その直後、間奏に入ったが———
メンバーの皆、彼女からの答えを知り、さっきまでと打って変わって、全員狂ったように音を走らせ始めた。しかも全員笑顔だ。有り難う! 皆祝福してくれている。
俺は今までに無いテンションでベースを奏でた。一心不乱に音を走らせた。ベースなのにリズムを刻まず、今の気持ちをメロディーに乗せ、表現した。ギターソロなんてクソ喰らえだ! トゥエルブ! 今回はお前がリズム刻め! 俺の意思が伝わったのか、トゥエルブはギターの低音でリズムを刻んでベースの代わりをした。有り難う!
俺のパフォーマンスに観客も盛り上がっている。てか、いつまでソロやりゃいいんだ?
ニッピがいつか時のように、
メンバーから祝福されている。
そして、予定していた五曲目だが、四曲目のソロが長すぎて、入ることが出来なかった。
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