第49話 春風

 ―――今年のバレンタイン。丹菜が俺に告白したことで学校中が騒然となり、大勢の男共が涙を流したことから、この年のバレンタインデーは「涙のバレンタイン」として語り継がれる事になる。


 そして、懸念されていたその他大勢からの俺への攻撃だが、今、丹菜の笑顔が絶賛大好評だ。見ていて癒やされるらしい。と言う事で、俺に何かあると丹菜が泣くのでちょっかいは出せなくなったようだ。

 それから、丹菜から俺にベタベタイチャイチャするもんだから、完全に丹菜が俺に惚れ込んでいると分かり、誰も丹菜を奪い取ろうともしない。

 因みに、教室内での丹菜は、前、横、後ろのあらゆる方向から俺に抱きついて来る。そして膝の上に座ったり、とにかく節操が無い。家族が居ない事に対する不安の表れなのかも知れないと思い、俺は抵抗すること無く、されるがままになっている……と言うより、俺もまんざらじゃ無かったりする。

 クラス内では俺達の甘々な空気に当てられ、体が甘い食べ物を受け付けなくなり、ダイエットに成功したと言う声が女子から聞こえてきた。イチャついた甲斐があったというもんだ。


 ―――そしてホワイトデー。


 特に事件もなければ面白い話もないので割愛するが、俺がホワイトデー直前の休みの日に、丹菜にビーフシチューを振る舞った。

 付け合わせの野菜で、ブロッコリーとカリフラワーを間違えるという盛大なミスをしたが、丹菜は「気にすることじゃない」と慰めてくれた。

 しかし、俺があの皿に必要としたのは「白」であり「緑」じゃなかったんだよ。だって「ホワイトデー」だろ? 「白の日」だからな。

 その日の晩、丹菜は落ち込む俺をベッドの上で優しく慰めてくれた。俺の愚息を良い子良い子沢山してくれた。―――ここで俺は白い物を沢山出した。ホワイトデーだ。三日分は出たと思ったが、翌日普通に復活した。


 ———春休みに入り丹菜は直ぐ、二泊三日で叔父さんの家に行った。俺は留守番だ。その間、特に何事も無く、料理もある程度作れるようになったので、作っては丹菜に写真を送っていた。ウザくなかったかな?

 この間にも実家の様子を見てきたり、マンションの方の部屋の掃除をしてみたり、充実した一日を過ごした。

 帰ってきた丹菜は、向こうでの事を沢山話してくれた。彼氏が出来たことも報告したようで、GWか夏休みに遊びに連れてこいと言われたそうだが……なんか、ご両親に会うようで今からドキドキしている。俺、ヘタレだからな。

  

 今週末は俺の誕生日。そしてたった二日だけ丹菜と同い年になり、その後丹菜の誕生日を迎える。なので二人で誕生日のお祝いは「同じ歳になったよ記念」と言う意味で4月1日にすることにした。


 お互いに誕生日プレゼントを交換(?)したが、クリスマスプレゼント同様、また物が被った。物はネックレスだったのだが、またブランドが一緒で、レザーネックレスで飾りが男性っぽいか女性ぽいかの違いだ。



”ユーガットメール♪”


二人でお祝いしていると、俺のスマホに一通のメールが届いた。


[正吾誕生日おめでとう。4月4日、そっちに行く 大吾]


俺は丹菜にメールの内容を伝えた。


「丹菜……4月4日、俺の両親が来るってさ。どうする?」


「自然体でいいんじゃ無いですか? 食器類とか、結構ペアな物だらけですし、隠しても隠しきれないと思います。それに陽葵の例もありますから」


「そうだな。別に怒られるようなことは……してるな。そっち方面の痕跡だけ重点的に確認するか」


「ふふふ。ですね。でも確認の前に……♡」


 ・

 ・

 ・


 ―――翌日の昼少し前。俺達はいつものように俺の部屋のリビングでくつろいでいた。すると……。


 ” ―――ピーンポーン”


「ん? なんだろう? 丹菜、何か買ったか?」


「いえ、特には……」


 ” ―――ピーンポーン”


「―――はい」


『おう! 正吾、元気してたか?』



 インターホンのモニターには親父がとお袋が映っていた。

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