第46話 接吻

 ———俺は学校から直接バイトに来ている。


 しかし……今日は酷い目にあった。まさか、丹菜があそこまで暴走するとは思わなかった。俺も参ってたが丹菜はもっと参っていたんだろうな。

 そう言えば、丹菜の告白に対して、俺は「スキスキ」とは言ったが、ちゃんと気持ちを話していない。帰ったら、俺の気持ちをしっかり伝えよう。


 丹菜は二日ぶりに俺の部屋だ。今頃ベッドに潜っていると思うが……二日ぶりだ、全裸で潜ってたらビックリだが……悪くない……寧ろそうであれ!


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 バイトも終わり、いつもどおり「帰る」のメッセージを送信する。

 この「帰る」の一言がいつもと違う。何だろう? 送信ボタンを押した瞬間、彼女の笑顔が脳裏を過ぎった。


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 ” ———ガチャ”

「ただいま」


「おかえりなさい♪ 早くお風呂とご飯と私にしましょう♡」


 あ――― ……新婚気分てこんな感じなんだろうか?


「おいおい、せっかちが過ぎるぞ。それに丹菜はまだ頂かないよ」


「そうなんですか? 残念です」


「まずはご飯お願い」


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「ご馳走様でした」


「お粗末さまです」


「やっぱり美味しいな。学食のおばちゃんに悪いが正直、丹菜の料理の方が素直に美味いって思ったよ」


「ふふふ。ありがとう御座います」


 俺は食事が終わると、コタツから出てコタツの隣に正座した。

 その行動に丹菜も釣られたのかコタツの隣に正座した。


 俺は改めて丹菜に自分の気持ちをハッキリ伝えた。


「それでな、丹菜の告白の返事、ちゃんと言ってなかったから今言うけどいいか?」


「はい」


 俺は丹菜にゆっくり話した。


「俺も丹菜の事が大好きです。これからも一緒にいて下さい」


「はい♡」


 元気に返事をすると丹菜は勢いよく俺の首に飛びつくように抱気ついてきた。俺も丹菜を抱きとめた。

 そして丹菜は俺の膝の上に跨り、俺の顔を両手で押さえて、唇と唇を思いっきりくっつけてきた。

「キス」と言う上品な行為ではない。なので「くっつけた」だ。丹菜の唇が俺の唇をレイプする。今まで押さえ込んでいた感情を一気に唇でぶつけてきた。舌も入ってきている。俺もその気持ちに応えるように、丹菜の体と頭をホールドして彼女の唇を貪った。


 どのくらいの時間キスしていか……。


 ちょっと落ち着き、最後に「チュッ」っとして丹菜は俺の膝の上から離れた。


「食器洗わないとな」


 俺はそう言って立ちあがろうとした瞬間、コケた。


「いてっ」


 正座している脚の上に丹菜が座ったから脚が痺れたようだ。


「大丈夫ですか?」


「———大丈夫。足痺れた」


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 ———就寝時間になった。


 食器を片付けて、丹菜は一度部屋に戻って一通りの事をしてまた俺の部屋に戻ってきたんだが、戻ってきてからは、す―――とベタベタイチャイチチュッチュチュッチュばかりしていた。丹菜がくれたチョコも「あーん」から口移しからとにかくイチャつきの限りを尽くしたと思う。おっぱいは揉んでいない。


「今日一緒に寝ちゃだめですか?」


「だーめ。明日も学校だし、今夜一緒に寝たら朝まで寝ないと思う。だからダメだ」


「———寝なくていいのに……」


「俺の毛布やるからこれで我慢しろ」


「しょうがないです。これで我慢します」


「私の毛布要りませんか?」


「———大丈夫だ。俺がいない間にベッドに入ってるんだろ? 毎晩丹菜の匂いするからそれで十分だ」


 そうやら図星だったようだ。丹菜の顔、耳まで真っ赤だ。

 

「それじゃあ、おやすみ———チュッ」


「おやすみなさい。しょうくん」


「———ん? ちょっと待て。今なんて言った?」


しょうくんって……だめですか?」


「———いや、ダメじゃ無い……ダメじゃ無いけど……学校ではやめてくれよ」


 丹菜が俺に言って欲しい言葉ランキングTOP1の「しょうくん」をこの耳で聞くことが出来るとは……俺は今、猛烈にキュン死したい。


「それじゃあ、改めておやすみなさい。チュッ」


 ・

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 ———翌日。


 ―――唇が妙に心地よい……ん? 丹菜、キスしてる?


「……おはよ」


「おはようござます」


 丹菜の笑顔が目の前にある。朝はこうじゃなきゃね。


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 今日から遠慮無く丹菜と手を繋いで登校だ。堂々と手を繋げるって最高だが……男共の視線が痛い。電車の中で丹菜は気兼ねなく密着してくる。いつも抱き寄せたいなって思っていたが今日は遠慮無く丹菜の腰に片手を回した。


 駅から出て学校に着くまでの間、いつもなら女の子が数人寄って来てたが、今日は俺と手を繋いでいるから誰も寄ってこない。


 教室に入る時も今日から丹菜と一緒だ。教室に入ると陽葵に丹菜らしからぬ挨拶をした。


「陽葵おっはーよー♪」


 ご機嫌以外の何者でもない。


「おはよう丹菜。今日はいつもと違って挨拶が弾んでるね」


「だってしょうくんと手、繋いで来たからね」


「正くん?」


「おい、やめろ!」


「正吾君顔赤いよ」


「丹菜、それは学校では言わない約束だろ?」


「え? 私約束してないですよ? ちょっと戻って読み返してみて下さい。『分かった』って書いてませんから」


「そう来たか……分かった。それじゃあ、俺は『葉倉さん』って呼んでやる」


「ごめんなさい。『丹菜』でお願いします」


「わかればよろしい」


「それじゃあ、『正吾』でいいですか?」


「それならいい」


 ふと陽葵に目をやると、陽葵が呆れてる。


「———家でやれ」


 周りの奴らも呆気に取られてる。


「葉倉さん……めっちゃ可愛いじゃん」

「昨日の御前への告白は夢じゃなかったのか……ガックシ」

「御前後でボコろうと思ったけど、あんな葉倉さん見たらそんな気も失せるよ」

「葉倉さん、ホントに正吾のこと好きなんだな」

「正吾君あんなに面白い人だったの?」 

「爆ぜろ!このリア充がッ!」


「皆さん、正吾取っちゃダメですよ。いじめてもダメです」


「「「はいはい」」」


 結局丹菜はこの後「正吾」とも「しょうくん」とも呼ばず「正吾君」に戻ってしまった。

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