第44話 暴発
———今日はバレンタインデーだ。
朝、目が覚めてスマホを手にした。もしかしたら彼女からモーニングコールが来るんじゃ無いかって期待した。しかし、そんな電話は来なかった……当然だ。俺から「関わるな」と言ったんだから、電話なんで絶対来ない。仕方がないので彼女の写真に「おはよう」を言う。
朝食……昨日と同じく一人で朝食をとる。今日は丹菜の写真を見ながら食べてみた……虚しくなるだけだった。そして昨日と同じく登校する。
通路に立っていると丹菜が玄関から出て来た。
「おはようござます」
「おはよう」
エレベーターが降り切るまでのわずかな時間の会話を楽しむ。
「昨日はお昼ご飯何処で食べたんですか?」
「食堂だよ」
「そうですか。お一人で食べてるんですか?」
「そうだな」
「今日も食堂ですか?」
「だな」
「分かりました。ありがとう御座います」
丹菜は「ありがとう御座います」と言った。なんでお礼を言ったのかが分らない。
そしていつものように電車に乗る……今日は昨日以上に密着してきた。もうダメだ、抱きつきたくて仕方がない———取り敢えず匂いで我慢だ。
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俺がいつもどおり丹菜より少し遅れて教室に入ると、丹菜と陽葵が上機嫌に会話を弾ませてた。
「もうね、隠すのやめたんだ」
「え? 大地……君……ですか?」
陽葵の声が教室中に響いた。
「そ、私と1-Dの大宮大地と付き合ってること内緒にしてたのやめたんだ!」
そう言えば、廊下で大地とそんな話しになってななんて思い出した。
そして、陽葵の言葉を聞いたクラスの全員が一瞬金縛りになり、驚きの声が上がった。
「ええええぇぇぇ!」
「彼氏いたの?」
「マジかよ! 告る前に失恋したー!」
これで陽葵への告白は無くなると思うが……。
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———そして昼休み。俺は食堂で今日も一人寂しくメシを食っていた。
「はぁ……」
今日は生姜焼き定食だ。作ってくれたおばちゃんには悪いが丹菜の作った料理の方が美味い。
メシを食べ終わる頃、廊下がなんか騒がしい……大勢の人が歩くような足音が聞こえてきた。食堂の入り口の方に目をやると、丹菜を先頭に、足音どおり、大勢の人が丹菜の後ろに見える。丹菜はテーブルエリアの入り口付近で立ち止まり、キョロキョロしている。そして俺を見つけると大股で真っ直ぐ俺の元へ……そして目の前に立った。周りを見ると凄い人の数だ。この人達、丹菜が連れてきたの?
「に……葉倉さんどうした? って、何この人の数!」
「正吾君、『葉倉さん』って何ですか? いつも『丹菜』って呼んでくれるのに、なんで学校では『葉倉さん』なんて、よそよそしいんですか! 学校でもいつもように『丹菜』って呼んで下さい!」
この声の張り、完全に周りの人にアピールしている。丹菜の声が食堂に響く。彼女の言葉に少し騒ついているようだが、そんな事はお構いなしに彼女は話を続けた。
「正吾君、これ、私からのチョコレートです。一度しか言わないのでしっかり聞いてください!」
丹菜は更に声を張り上げた。食堂にいる全員に自分の気持ちをぶつけているようだ。
「私、葉倉丹菜は御前正吾の事が大好きです! 私といつも一緒にいて下さい!」
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