第38話 気持

 ―――お正月。俺達は電車に乗って初詣へ出かけている。今日の行程はかなり歩く。丹菜はそれを踏まえて今日の服装は動き安いようにパンツルックでハーフコートだ。電車での行き先は繁華街とは反対の方向になる。


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「やっと着きました。以外と遠かったですね」


「―――電車に揺られて三十分か。立ってなければそれなりなに楽しかったかな」


「そうですね。なんか朝の通学とそんなに変わんなかったような気がします」


「ははは。確かにな」


 電車内は初詣に行く人などで意外と混雑していた。

 俺達は駅を出て街並みを見た。


「ほんのり潮の香りがしますね」


「―――そうだな。港町だからな。で、神社はどっちかな?」


「こっちですね」


「それじゃあ、まずは腹ごしらえだな」


「そうですね。結構お腹が空きました」


 俺達は、神社に向かいながらどこかお食事処があるか探したが……やっぱり今日は正月なのでどこも休みだ。仕方なくコンビニで肉まんとピザまんを二個ずつ買った。


おいひーへふへ美味しいですね


ほひほんへははははへほ飲み込んでから話せよ


「ふふふ。正吾君もですよ」


 駅から神社まで三十分。ここからなら二十分くらいか? 結構歩くな。今日の天気は空気は冷たいが、晴れててて日差しが暖かい。この季節にしては心地よい天気だ。

 神社は小高い丘の上といった感じの場所にあり、道中、住宅地を歩く感じだ。道路は駐車場の空き待ちの車で渋滞している。人もかなり多い。


「神社って、結構上の方にあるんですね」


「あそこからだと海が見えそうだな」


「海ですか♪ 早く行きましょう♫」


 丹菜は「海」というワードに興奮しているようだ。そんなに海が見たいか? 彼女は俺の腕を取って、足早に、目の前の人を追い抜きながら坂道を上がっていた。


「おいおい、そんなに急がなくても神社は逃げないって。後半疲れるぞ」


「大丈夫です。さっき肉まん食べましたし」


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 ―――十分後。


「……はぁ……はぁ……はぁ……疲れました。引っ張って下さい」


「ははは。だから言ったろ。ほら、もう少しだ、頑張って」


 今度は俺が丹菜の手を引っ張りながら歩いた。


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 ―――十分後。


 俺達は鳥居を抜け、境内の広場に着いた。目の前には十数段の階段があり、ここを登れば拝殿だ。


「―――やっと着きました。あ、後ろ見て下さい。海が見えますよ」


「―――いい眺めだな」


 俺と丹菜は暫く海を眺めていた。結構遠くに見える。歩いて行けなくは無さそうだが……ここからだと一時間以上掛かりそうだ。

 丹菜が突然、俺の袖を引っ張った。


「あそこに今年の干支の絵馬があります。みんなあの前で写真を撮ってるみたいですね」


「俺達も撮るか?」


「はい♪」


 その絵馬は高さ2m以上ある絵馬で、そこには今年の干支が大きく描かれていた。

 その絵馬の前では写真を撮るために数組のカップルや家族が並んでいた。順番が来ると後ろの人にカメラを渡して撮影をお願いしている。

 俺達も写真を撮るため列に並んで待っていた。そして目の前の人の番が来て、男が俺達にカメラを預けようと振り返った瞬間―――。


「―――え? 葉倉……さんと……おっと」


「―――あ、高瀬さん」


「うそ、葉倉さんと……誰?」


 なんと、目の前に居たのは「高瀬玲央名たかせれおな」とクラスの女の子だった。

 高瀬は俺を見て言葉を濁した。と言うのも、高瀬の隣に立っていた女の子はクラスの子「佐藤」さんだ。高瀬は俺との「内緒」と言う約束をしっかり守っている。

 ただ、今回は佐藤さんに顔を見られた。高瀬に問題は無い。完全な事故だ。


「次が待ってる。まずは写真撮ろう」


 高瀬が促し、俺達はそれぞれに写真を撮り合ってこの場を一旦離れた。


「明けましておめでとうございます」


 三人で新年の挨拶を交わした。俺は佐藤さんに対してあくまで「学校の人ではありません。お二人とは初めてお会いしました」のていで黙って会釈だけした。


「まさか、こんなところで会うなんて全然思わなかったよ」


「そうですね。ビックリしました。まさかお二人が五分以上目の前にいたなんて。ところで高瀬さんと佐藤さんはお付き合いされてるんですか?」


 佐藤さんが答えた。


「―――うん。クリスマスで……。モジモジ」


 高瀬も照れてるような気不味いような複雑な表情をしている。


 佐藤さんが丹菜に聞いて来た。


「葉倉さんこそ、この人……彼氏さんですか」


 丹菜は俺を見ている。佐藤さんの「彼氏さん」の言葉に対し、ゲームセンターでの事と文化祭での事で簡単に「彼氏」と言えなくなってしまった。


「———どうなんですかね……彼氏だったらいいんですけどね!」


 丹菜は俺を睨んだ。文化祭の時もだが、この話しになると丹菜は俺を睨む。なんだかやるせない気持ちだ。丹菜に対して申し訳無い気持ちで一杯になった。


「葉倉さん、今、彼を攻略中だっていうから……って、これ、彼にも内緒だったね。御免」


「もー、高瀬さん内緒って言ったじゃ無いですか」


 高瀬……ナイス援護射撃だ。丹菜の機嫌が良くなった———って、流石の俺も


 丹菜は俺をチラ見している。やっぱり期待するよな?

 今度は丹菜から佐藤さんに質問だ。


「佐藤さんここまで歩いて来たんですか?」


「はい。玲央名君支えてくれるし全然平気」


「佐藤さんは高瀬さんとどうやってお近づきになったんですか?」


「クリスマスイブに3対3でパーティーやったんです。翌日、彼から連絡があって……」


「おい、それは言うなって」


 佐藤さんと、高瀬がイチャつき始めた。そして佐藤さんが俺達にお願いしてきた。


「葉倉さんお願いなんだけど、玲央名れおな君との事はみんなに内緒で……」


「勿論ですよ。私の事もお願いします」


 高瀬を狙っている子はかなり多い。そんな奴の彼女だなんて知られたら何をされるか分らない。でも、彼女にちょっかい出す奴いるのか?


「じゃあね、そのうち彼のこと教えてね」


「はい。そのうち教えますね」


 いや、教えなくていいよ。そんな事を思いながらも俺達は高瀬達と別れて神社の拝殿へ向かった。

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