第37話 除夜

 ―――クリスマスが過ぎ、大晦日を迎えた。丹菜はコタツに入って背中を丸めている。


「大晦日の正しい過ごし方の正解をやっと知ることが出来ました。コタツです。コタツに入ってミカンを食べる。これが正解だったんですね?」


「―――そのとおりだ」


「あと少しで今年も終わりです―――最後に一つ正吾君にお願いしたいんですけどいいですか?」


「―――なんだ?」


「―――年を越す時、手、繋いで貰っていいですか?」


「―――いいよ。どうした?」


「今年、こうして正吾君と知り合う事が出来ました。この正吾君との関係が来年も続きますようにって……願掛けですね」


「―――そうだな。なかなかロックな発想だ」


「ふふふ。出ましたね、ロック」


 クリスマス以来、それほど距離が縮まった訳では無いが丹菜とのこの関係に満足している自分がいる。

 ここから先への進展を望んでいながらも、現状に甘んじている……へたれと罵られても仕方が無いか……。


 ただ、俺は「葉倉丹菜」にどんどんハマっていってる。その度合いは日々更新中だ。彼女の魅力が日々溢れてきている。そんな感じだ。


「―――カウントダウンが始まったな。あと一分で来年だ。ほら、手、貸して」


「来年もいい年だといいですね」


「―――いい年になるさ」


 ・

 ・

 ・


 十二時を過ぎたので俺はコタツから出て、丹菜に向かって正座した。


「明けましておめでとう御座います。本年も宜しくお願い致します」


 俺は丁寧に手をついて挨拶をした。丹菜も俺に合わせて挨拶をした。


”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

”ピコン”

 ・

 ・

 ・


 そして丹菜のスマホの着信音が鳴り続ける。みんな一斉に「あけおめッセージ」を送信しているようだ。丹菜は不特定多数の女の子とかなりの数のIDを交換している。着信音が止まらない。


 俺のスマホも二回ほど着信音が鳴った。メッセージを見ると写真付だ。


「―――あいつら……俺達への当てつけだな。なぜイチャついてる写真を送ってくるかな。正月早々めでたいよ」


 それぞれの写真は「空と芳賀さん」「大地と陽葵」がカップルで写っている。空の写真は日中撮ったやつだな。流石にこの時間、一緒に居ることは出来ないよな。大地は今撮った写真か……。


「正吾君返信しないんですか?」


「なんだか丹菜とツーショット写真送れと言われているようでな」


「―――そうですね。私達の写真送ってみます? でも、こうして二人で居る事はみんなに内緒ですし……」


「―――俺はどっちでもいい。俺はあいつらに知られて困る事は何も無い。だから丹菜が思うとおりに動けばいい」


 丹菜に両親が居ない事を知られると色んなリスクがある。最悪、強盗めいた事が起こるかも知れない。

 メンバーには教えてもいいとは思ったらしいが、「同情の目」で見られる事が嫌だという。だから今は内緒にしている。


「―――御免なさい。今は未だ内緒でお願いします」


「分った。なら、俺達は普通に返信しよう」


[正]あけましておめでとう。本年も宜しく。新年早々当て付けのようなメッセージ有り難う

[丹]あけましておめでとう御座います。本年も宜しくお願い致します。ホントになんで新年早々悲しくなるような写真送るんですか!

[陽]ゴメンゴメン。メッセージまとめただけで大した意味は無いから

[芳]御免なさい。私達も同じだから


 暫く、女子だけでメッセージのやりとりをしていた。男共は……俺は画面を閉じていた。


 ・

 ・

 ・


「正吾君、私達も写真撮りませんか? プリクラ以外で一緒に写真撮ったこと無かったです」


「―――確かにな。それじゃあ、一緒に撮るか」


 丹菜は俺に寄りかかるように寄り添った。俺はスマホをかざして写真を撮った。


 ”―――パシャ”


 いい写真だ。丹菜は写真を見てニヤニヤしている。

 ところで今夜は朝まで起きているつもりだろうか? 明日初詣に行こうと思っているのだが……初詣は明後日行っても問題無い。その辺の予定は丹菜に合わせるか……。


「今夜は何時まで起きてるつもりだ? ここで寝るのは無しな。それ以外なら俺は俺が寝るまで付き合うぞ」


「何ですかその『俺が寝るまで付き合う』って。正吾君の限界は何時なんですか?」


「―――多分、二時だな」


「間もなくじゃないですか! だったら寝ましょう。明日……いや、もう今日ですね。今日、初詣行きたいですし……一緒に行ってくれますよね?」


「―――愚問だ。一緒に行こう。だから俺を起こしに来てくれ」


「起こしに来るの面倒だから一緒のベッドで寝たいんですけどいいですよね?」


「それだけは駄目だ」


「どうしてですか?」


「―――俺だって男だ。何するか分らん」


「私は何されてもいいんですけど……。ニヤ」


「―――勝手にしろ。俺はソファーで寝る」


 俺がそう言うと、丹菜は渋々自分の部屋に戻って行った。


 ・

 ・

 ・


 ―――翌朝。俺は約束の時間より二十分は早く準備が終わった。そして優雅にリビングでコーヒーミルクたっぷり砂糖三杯を嗜んでいると丹菜が約束の時間十分前に部屋に入ってきた。


「おはよう御座います。早いですね」


「―――五分早く行動すれば、五分長く楽しむことが出来る―――持論だ」


 単に楽しみで早く準備してしまっただけなのだが……咄嗟に出たウソだが、自分でも中々いい事を言った気がする。


「朝ご飯どうしますか?」


「行きながらなんか食べるか……正月でもどっかやってるだろ?」


「そうですね。いざとなったらコンビニでいいですね」


「だな。今日は思いっきり手を抜こうか」


 俺達は少し遅い時間だが、神社に出かけた。

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