前のエピソード――第35話　聖夜

　———スーパーで買い物をして部屋に着いた、今から二人でパーティーの準備だ。

　今日は、念願の「二人並んでキッチン」をやる。二人、エプロン姿でキッチンに立っているだけなんだが……なんでこんなにウキウキする？

　俺は隣に立つ丹菜を見下ろすと、丹菜は俺を見上げる……丹菜は凄く嬉しそうだ。ニコニコしている。

　最近、俺はレストランでの仕事の内容がウェイターに加え、仕込みもするようになった。なので、包丁の使い方もある程度覚えた。

　早速、丹菜はそれを期待してか、俺に「鶏肉を切れ！」と指示を出た。

「鶏肉切って貰っていいですか？」

「はい。わかりました」　ﾌﾟｯ

「では、このもも肉を、この位の大きさに切って下さい」

　丹菜は、一つ肉を切って見せた。なるほど。このくらいの大きさに切ればいいんだな。

「はい。わかりました」　ﾌﾟｯ

　どうも俺がこの返事をすると丹菜は笑うようだ。

　俺は華麗なる包丁捌きを丹菜に披露した。丹菜は微笑ましい表情で俺を見ている。なんだか「温かい目」だ。俺は肉を均等に、丹菜が切って見せた例と同じ、一口では頬張るのが少し困難な大きさに切り刻んだ。―――完璧だ。

「はい。できました」　ﾌﾟｯ

　―――やはり、この返事をすると丹菜は吹き出す。何が可笑しいのか分らないが、そんな事はどうでもいい。肝心なのは丹菜が笑っていることだ。

　丹菜は俺が切った肉に粉をまぶして油が入った鍋に次々入れていく。

「次はタマネギとピーマンを粗々なみじん切りに切って下さい」

「はい。わかりました」　ﾌﾟｯ

　よし！　丹菜の笑顔頂きました。

　俺は指示どおり、タマネギとピーマンを粗々なみじん切りにしていった。

　スーパーで売ってるガスコンロのグリルの入るサイズのピザに、後乗せで色んな具材をトッピングしていく。チーズも増し増しだ。具が大きいと、乗り切らないので食感を感じる程度の大きさにみじん切りにするのがポイントらしい。

「―――凄いな。宅配ピザ頼むよりこっちの方がいいな」

「宅配ピザはちょっと豪華すぎます。私はこのサイズでこうやって食べる方が好きですね」

「あ、俺、ピザにはトマト絶対欲しい派なんで、トマト乗せて欲しいです」

「大丈夫です。プチトマト買ってきてます。半分にカットして載せましょう」

「ありがとう御座います。」

　・

　一通りの料理が出来て、テーブル（コタツ）に並べられた。

「メリークリスマス！」　”―――カチャン”

　シュースが入ったコップで乾杯だ。

　俺は早速唐揚げに手を伸ばし、一口で頬張る。

「―――美味い！」

　俺はテーブルに並べられた料理を一口食べては「美味い」を連呼した。本当に美味い。美味い食べ物に対して「美味い」以外の言葉は無い！　俺はパクパク食べた。丹菜は俺のその姿を見て、凄く嬉しそうな表情をしている。

　・

　食事中、会話も弾み、料理も殆ど食べ終わった。かなりの量があったが、俺はペロッと平らげた。

　―――タイミング的には今かな？

　俺は徐にテーブルの上に紙袋を置いた。クリスマスプレゼントだ。

「―――これ」

「え？」

「クリスマスプレゼント」

　流石に恥ずかしくて丹菜を直視出来なかった。

「……ありがとう御座います。いつの間に準備したんですか？」

「―――知らん。サンタが俺に預けたんだ」

　クリスマスプレゼントはサンタが夜中に持ってくるもんだ。そう思ったが、今は時間的にはまだ早い……が、まあんな事は小さい事だ。

　そんな事を思いながら丹菜に目をやると、彼女の目は大きく見開いていた。俺からのプレゼント、本当にビックリしているようだ。

　俺がプレゼントを渡したタイミングで丹菜も紙袋をテーブルに置いた。

「私からのプレゼントです。受け取って頂けますか？」

「―――有り難う。勿論受け取ります」

　俺は丹菜から貰った紙袋の中を覗いている。

　本来、クリスマスプレゼントは明日の朝、開けてるものらしいが……

「「開けていい？」」

　同時に同じ言葉が口から出た。

「「……ぷっ」」

　お互いに吹き出す。俺は丹菜に答えた。

「開けていいよ」

「―――それじゃあ、私のも開けて下さい」

　二人一緒に紙袋から包装されたリボンが付いた箱を出す。

　俺が紙袋から取り出した箱は細長い形をしていた。

　因みに、俺が丹菜にあげたプレゼントも細長い箱だ。

　丁寧に包装紙を剥がして中の箱を取り出す。

「ん？この箱って……」

　箱を開けると、中には時計が入っていた。

「お？　この時計、リクソンの時計じゃないか！―――はは。こう言う偶然あるんだな」

「―――ふふ。ホントだ。―――いいですね、こいう偶然」

　俺は彼女から貰った腕時計を左手に嵌めた。

　彼女は俺が上げた腕時計を左手に嵌めている。

「腕時計」というだけであれば、それまでなのだが、互いにプレゼントした腕時計のメーカーが「リクソン」なのだ。

　このメーカーのデザインの特徴として、ヘッドが大きく、女性用のデザインは「大きくて可愛い」感じで、男性用のデザインは「大きくてゴツい」感じだ。

　以前、俺はパソコンでこのサイトをマジマジと見ていた事があった……もしかして、それを見て俺が欲しいと思って丹菜は選んでくれたのかな？　俺は、丹菜へのプレゼントと思ってサイトを見ていたんだが……。このメーカーの腕時計は欲しかったけど持っていなかったのでこのプレゼントは自分で思っている以上に嬉しかった。

　俺は腕に嵌めた時計をかざして、角度を変えては見入っていた。大満足だ。

　丹菜も満足げな表情で時計を眺めている。ハズレでは無かったようだ。よかった。

「なんだか、さりげなくペアウォッチですね」

「―――そうだな。ナイスロックだ」

　うーん……自分で言っててなんだが、何だその「ナイスロック」って。思わず口から出たが、言葉の意味は俺自身良く分っていない。でも、彼女は納得した顔をしている。

　伝わったのか？