第18話 笑顔

 ———丹菜と二人でゲームセンターに来たら、偶然、陽葵と大地に会った。


「―――あれ、陽葵ちゃんと大地君ですよね?」


「―――そうだな。一声掛けるか?」


「そうですね。気付かないふりするような仲では無いですし」


 俺達は、陽葵と大地に声を掛けた。


「―――あ、丹菜ちゃんと……ふーん、正吾君、こんにちは」


 二人の目が……なんか含んだ笑顔だが……ま、言いたい事は大体分る。それを否定しても揶揄されるだけだ。


「二人で珍しいね」


「ああ、丹菜が『Seekerライブハウス』に遊びに来てな。でも今日は『DJ祭り』だったから帰るってんで、一緒に店を出て来たわけだ」


「そっか、それでデートな訳だね」


「―――まぁ、そうなるな」


 そう答えて、丹菜の顔を見ると、ちょっと驚きながらも嬉しそうな表情をしている。


「折角だし、四人でプリクラ撮ろうよ」


「ちょっと待て、それはロックじゃ無いな」


「なんで?」


「空が居ない」


「……そうだね。ここに彼が居ないのに四人でプリクラはロックじゃ無いね」


「今度、五人集まった時な」


「じゃあ、今日は二人で撮るんだ?」


 丹菜とプリクラ……俺は良いが、丹菜は……どうなんだ?


「―――撮る?」


「私は二人で撮る気満々でしたから……撮りたいです」


「―――分った……でもこいつら居るとなんか照れくさいな」


「陽葵ちゃん、やり方教えて下さい。最初に陽葵ちゃんと撮りましょう」


「あ―――、これだったら大丈夫。途中まで私が操作するから、正吾君、撮る瞬間私と入れ替わって。いい?」


「わかった」


 陽葵は、お金を入れて―――。


 カーテンの隙間から丹菜と陽葵はモニターの前で色々設定している姿が見える。少しすると―――。


「―――はい、正吾君入って」


 俺と陽葵は入れ替わった。


 プリクラの機械は何かアナウンスしている。


 ”画面のポーズを真似しよう♪”


「え? これ真似しなきゃ駄目なの?」


「面白そうです。真似しましょう」


 丹菜に促され、機械に言われるままのポーズをとって行った。


 ”ウサギさんのポーズ……3、2、1 パシャ”


「え?何? マジ? うわっ」


「ふふふふふ……楽しいですね」


 俺が普段やらないようなポーズ……というか、冗談でもこういう可愛いポーズは取らない。でも、照れくさいが、今日は丹菜を喜ばせると決めた! 丹菜が喜ぶなら全力を尽くす!


 ・

 ・

 ・


 ―――だんだん慣れてきた。……よし!


 ”ネコさんのポーズ………”


「にゃん♬」


  やべ、本気になりすぎて声に出た。でも、丹菜凄く笑ってくれてる。可愛いな。


 "セクシーポーズ………"


「(セクシー……よし!こうだ!)」


 俺は親指咥えてお尻突き出した。これが俺が思うセクシーポーズだ!


 "最後は自由に…”


「えい!」 ”パシャ”


 最後、丹菜が俺の身体に抱きついてきた。


 初プリクラだったが、丹菜は終始笑っていた。こんな笑顔は一緒にいて初めて見た気がする。よかった。「にゃん」とか口走ったが、言った自分を褒めたいと思う。


 機械から出ると、陽葵と大地がお腹を抱えて笑いを堪えていた。どうやら、カーテン?の隙間から俺達の様子が見えてたようだ。ついでに丹菜はまだ笑っている。


「あ―――、もうダメ!あははははははは……」


「正吾、お前、なんだよ『にゃん』って」


「うるせぇ! 思わず声に出たんだよ!」


「それじゃ、何か? セクシーポーズの時、心の中で『うふん』とか言っていたのか?」


「―――ロックだろ!」


 実際俺は心の中では「うふん」ではなく「あはん」と言っていた。やっぱり、心の底から全力を出さないとな。今日は丹菜が笑ってくれればそれでいい。

 俺は丹菜の笑顔に凄く満足な気分になった。これからも沢山笑顔にしたい。純粋に単純にシンプルにそう思った。

 

 そう思って丹菜を見たら、俺の袖を掴んで、目をウルウルさせながら俺を見つめている。目をウルウルさせながらも表情は凄く嬉しそうだ。

 何だろう? このやるせないような捕まえておきたいようなこの衝動。


 丹菜に対してそんな気持ちでいると、横から聞き覚えのある声が聞こえた。


「あれ? 葉倉さん? ここで何やってんの?」


 振り向くと高瀬が二人の男を連れて立っていた。肩にはギターケースを背負ってる。


 また面倒な事言い始めそうだ。

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