第19話 彼氏

 ―――ゲームセンターで、丹菜と「感謝のデート」をしていたら、大地と陽葵に会って、四人で楽しんでいたら、高瀬が声を掛けてきて丹菜のテンション下がった。

 と、前回までのあらすじを早口で述べる。


「葉倉さんと……希乃さん?……何してんの?」


 今日の陽葵は「オシャレモード全開」だ。 

 高瀬はいつもと違う陽葵を見て、一瞬見惚れたようだ。


 高瀬の質問に、陽葵がサラッと答えた。


「え? ダブルデートだけど……見て分んない?」


「え? ……デー……ト?」


「そう、デート」


 大地はクラス違うから高瀬を知らない。


「―――誰?」


「クラスの……席が近所の子」


「ふーん。こんにちは」


 高瀬は大地君を見て陽葵に戸惑いながらも伺ってきた。


「―――彼は……希乃さんの……」


「あ、彼氏です」


 大地は高瀬が言い終わる前に食い気味に答えた。二人の付き合いは学校では内緒にしている。今日は大地も学校とは違ってオシャレに決めている。学校で会ってもパッと見では分らない。


 そして、今度は、高瀬の矛先は丹菜に向いたようだ。


「……えっと……その人は葉倉さんの……」


 丹菜はその質問に、すかさず万遍の笑みで俺を見た。俺も笑顔を返した。

 多分、「私に話しを合わせて」って言ってるんだろう。

 そして、彼女は俺の左腕にしがみついてきたが、俺はそれを躱して、彼女の腰に手を回して抱き寄せた。

 彼女は一瞬ビックリしたようだが、彼女も俺の身体を両腕で抱きついて頭を胸にくっつけてきた。悪い、演技とはいえかなり嬉しい。


「ドモ、初めまして。丹菜の彼氏です」


「もう、先に言わないで下さい」


 上目遣いで俺を見てくる丹菜はメチャクチャ可愛い。それ、毎朝電車やって欲しいかな? 


 丹菜の言葉に俺は「ゴメンゴメン」と謝った。すると高瀬の後ろにいた二人が俺をジッと見ている。


「あれ? この人、トゥエルブじゃね?」


 おっと、バレてしまった。芸能人じゃないから別に気にしなかったけど、案外こう言うのってバレるもんなの?


「マジだ。スーパーギタリストのトゥエルブだ! すみません。あのー……握手して貰って良いスか?」


 握手って、俺の手汗にそんな価値は無いんだけどな。ま、減るもんじゃないし、


「え? いいよ」


 と快諾して、高瀬の友達(?)二人と握手をした。


 高瀬は、目が点になっていた。

 そして丹菜は、高瀬にお願いした。


「高瀬さんにお願いなんですけど……私達に彼氏がいること皆には内緒でお願いします」


 陽葵もお願い……というか脅迫だな。


「絶っっっっっっっっっ対内緒だよ! もしバラしたら……いや、匂わせるような発言でアウトね。もし、彼氏の話し学校で出したらどうなるか分ってるよね? トゥエルブのファン全員であんたの事フルボッコしに行くから宜しく!」


 おいおい! 俺のファンって、そんなに過激で野蛮なの?


 陽葵は高瀬にそう言うと、今度は後ろの二人に万遍の笑みで別のお願いをした。


「後ろのお友達も、高瀬君がやらかした時はフルボッコ協力お願いしまーす。それと、トゥエルブに彼女いることも内緒で」


 彼女の笑顔って、俺も参るほど結構な破壊力を持っている。二人は弾んだ声で、


「任せて下さい!」


「こいつは俺達が黙らせますんで!」


 と応えてくれた。高瀬に見えないように親指立てておどけている。結構ノリがいい奴らのようだ。高瀬には勿体ない奴らだ。


 彼らは、ゲームセンターを後にしたが、興奮しているせいか、彼らの話し声が良く聞こえた。


「やっぱ、トゥエルブさんの彼女もメチャクチャ可愛かったな。あの二人、超お似合いじゃん!」

「まさに『そこにシビれる!あこがれるゥ!』の体現だな」


 かなり大きな声で既に「トェルブの彼女内緒」って約束が反故にしているが、気にするほどの事じゃない。

 ただ、丹菜が「超お似合い」と言われてか、なんだか嬉しそうに俺を見つめている。まんざらでは無いのかな?



 彼らが去り、俺達もバカップル大地と陽葵とゲームセンターで別れた。


 ゲームセンターを出た後の予定は全く無い。


「どこか行きたいところある?」


 と聞いてはみたものの。時間は五時だ。


「あれ?そう言えば、今日の夜のバイトはどうしたんですか?」


「勿論行くよ。でも、7時半からだからまだ余裕があるんだよ」


「だったら……有名どころの甘い何かを食べてみたいですね」


「甘いのいいね」


「正吾君甘い物好きなんですか?」


「あぁ、好きだよ。クレープは結構目が無いかな」


「意外ですね」


「それじゃあ行こうか」


 俺達は、スマホで色々検索して、パンケーキを食べに喫茶店に入った。

 店のお客は女の子だけで、男の俺はちょっと居心地が悪かった。周りの子達は、男の俺が店に居ることが変だったんだろう。チラチラ俺をみてはヒソヒソ話しをしていた。俺と同じように彼女と来てる男……はいないようだ。


 パンケーキを食べて、俺はレストランのバイトへ行った。


 今日、フリとはいえ、丹菜の事を彼氏と言ったが……俺の中では無しでは無い。大体、彼女、性格とか振る舞いとか完璧すぎるだろ。俺では釣り合いが取れん! もっと精進せねば。


 ―――しかし、抱き寄せた時の身体に触れた部分の温もりが、感覚としてまだ残っている。それに細いくびれ……ヤバい。


 ・

 ・

 ・


 ―――夜、バイトが終わり、部屋へ帰るといつものように丹菜がいつものように出迎えてくれたが……顔が赤いか? ちょっと上気しつつもすっきりした顔をしている。


 そして寝る時間になり、ベッドに入ると……ん? なんか丹菜の香りがする……昨夜の残り香かな? 悪くないけど―――ちょっと今夜は勘弁だな。


 その日の夜、俺は悶々としていた―――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る