第29話 引力

 ———まだ期末テスト前のある日の昼休み。


 ———いつもの場所屋上で食事の後、教室に戻ろうと廊下を歩いてた。すると「1-D」の教室の前で、珍しく空と大地が話をしていた。


「―――珍しいな。二人してどうした?」


「ちょうどいいところに来た。ちょっと聞きたい事って言うか相談って言うかあるんだけどさ」


 空からの相談……される事はあるが、大した中身じゃない事が大半だ。しかし、今回はちょっと違うようだ。


芳賀愛花はがまなか」さんって正吾のクラスにいるだろ?」


「―――いるな」


「何とか彼女とお近づきになりたいんだけど……なれないかな?」


 芳賀愛花はがまなか」身長165㎝くらいの綺麗系女子だ。クラスでも人気があって気がつくと物事を仕切ってたりして、クラスの中心にいる人物の一人だ。


「だったら陽葵と丹菜に話せば直ぐだぞ?」


「え?」


「彼女の席、俺の目の前だし、芳賀さんの隣は陽葵だ。ついでに陽葵の後ろの席は丹菜だ。で、あいつら三人仲良しだ」


 空の顔が少し明るくなった。


「何だ? 芳賀さんが気になるのか?」


「俺、十月から生活美化委員になってさ、その委員の活動に芳賀さんも一緒にいるんだけど、彼女、周りに対して色々と気が効くんだよ。最初は『いい子だな』くらいに思ってたんだけど、なんか気付くと目で追っかけてて、最近惹かれてる事に気付いた」


 空から「あの子可愛いな」程度の話しはたまに出てはいたが、ここまで真剣なのは初めてだ。


「まあ、芳賀さんをそう言う目で見てたんなら正解だな。彼女はいつもクラスの中心にいるような子だ。お前の見立てに間違いは無い。ただ、彼氏がいるかどうかはわからん。大地達みたく内緒って事ともあるからな」


「そうだよなぁー、綺麗な子だし……彼氏いてもおかしくないよな」


「確かにあの子綺麗だよな。」


 大地も同意する程、実は芳賀さん一学年の間では有名人だ。ついでに陽葵も有名人である。


「空と並んだら『美女と野獣』だな。性格だけ見たらお似合いのカップルになるな」


 ここはそれとなく丹菜達から芳賀さんに聞いて反応を見るという事にした。


 ・

 ・

 ・


 ———俺の部屋。


 バイトから帰ってきてドアを開けると甘塩っぱい、いい香りが部屋から漂ってきた。その香りがスイッチとなり、俺の胃袋は急激に受け入れ態勢に入る。ハラヘッタ


 今日の夕飯はスキヤキだ。言わずとも分かると思うが……美味い!


 食事をしていると丹菜が今日の昼休みの事を話してきた。


「昼休み、芳賀さんから相談あったんですけど……聞いて驚いてください」


「———芳賀さんが相談って珍しいな」


「芳賀さん、空君が気になてるそうです」


「ぷっ!」


 俺は吹き出した。芳賀さんが空にって事以上に、タイムリーな話しすぎてちょっと驚いてしまった。でも、俺からの話が早くなった。


 まず、丹菜が話す前に俺の方もネタ出ししよう。


「———前振り無しでいきなりだな。悪いが今の話ちょっと横に置いといてくれ。俺からも報告がある」


「———何ですか?」


「昼休み、空から相談受けた。『芳賀愛花』が気になるって」


「ぷっ!」


 今度は丹菜が吹き出した。丹菜もタイムリー内容に吹き出してしまったようだ。因みに吹き出た物が俺の顔にちょっぴり掛かった。丹菜が済まなそうな顔をしているが問題ない。ご褒美だ。


 俺は空が芳賀さんに惹かれた理由を説明した。


「なるほどですね。何だかんだでお二人お似合いですね。芳賀さんも言ってました。委員会活動で集まって活動してると、空君が一年生まとめて指揮取ってたりしてて、彼のリーダーシップぶりに惹かれたって」


「それじゃあ、やる事は一つだな」


「そうですね。勉強会でいいでしょうか?」


「そうだな。場所は……大地のスタジオか? テーブルあったよな?」


「ところで大地君はこの事知ってるんですか?」


「知ってる」


「なら善は急げです」

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