第25話 反省

 ―――文化祭で俺がトゥエルブとして顔をさらして二曲目に入った。


 会場の視線は、殆ど俺に集まっている。


 仮面はしているが、他のメンバーの正体がばれる可能性はかなり低くなった。


 二曲目になり、俺も陽葵も落ち着きを取り戻した。丹菜も変にヒートアップする事は無かった。


 二曲目が終了して、三曲目に入ろうと思ったが、一曲目のバトルのせいで時間がかなり削られてしまったようだ、面目ない。なので三曲目の演奏をすること無く、二曲目が終了した瞬間、俺達はステージ正面の階段を駆け下り、体育館を走って後にした。


 ・

 ・

 ・


 ―――俺達は体育館の裏にいた。直ぐローブを脱ぎ、いつもの五人に戻っている。当然俺は髪を下ろしている。


 俺は陽葵とのバトルでの興奮を思い出し鳥肌が立っていた。


「いやー……楽しかったな」


 そう呟くと、丹菜の目がみるみるつり上がってきた。怒りがこみ上げて来ているようだ。


「楽しかったじゃ無いですよ! 何二人でバトル始めてんですか! 仕掛けたのはどっちですか!」


 そう言うと、陽葵が申し訳なさそうにゆっくり右手を小さく挙げた。


「陽葵! 何、正吾君を挑発してるんですか!」


「ごめんなさい……なんかテンション上がっちゃって……」


「正吾君も正吾君です。売られたケンカなんで買ってんですか! タダだからですか! バトルするなら時と場所と楽器を選んで下さい! 反省しないなら今夜ご飯抜きにしますよ!」


 ――――――あ、なんか余計な一言言ってないか? 大丈夫か? 今、周りを見たら逆に気付かれそうだから確認出来ないが、雰囲気を察するに誰も気が付いて居ないようだ。


 すると、後ろから高瀬が声を掛けてきた。


「―――あ、みんなここに居たんだ」


 グッドタイミングだ。話しをうやむやに出来そうだ。


「皆ありがとう。本当にありがとう」


 俺はバカ高瀬に人差し指を一本立てて一言言った。


「貸し一つだ。そのうち返して貰う」


「―――分った。君達が困ったとき、必ず力になるよ」


「それでいい」


「しかし、君たちが今話題になってる『ハイスペックス』だと思わなかったよ」


「最初に言ったとおり、内緒な。お前は何も見ていない。俺らはあの場にいなかった」


「分ってるよ。俺はこの後、記憶喪失になる予定だから安心して。だけど、借りだけは覚えとくよ。絶対返す」


「しかし、葉倉さんの彼氏が御前君だったとは思わなかったよ」


 おっと! そう言えば、こいつの中では俺と丹菜は付き合ってる事になってるんだった。あの時は、丹菜の彼氏は「学校の外の奴」って感じだったから良かったが、流石にここまでバレたら正直にウソだったと言わないと、後々面倒な話しになるかも知れないからな……だけど、なんで丹菜も陽葵も大地も嬉しそうな顔して俺を見てんだ? 凄く期待を感じるんだが……。


 まあいい、俺は俺のロックを貫くだけだ!


「すまん高瀬、あれはウソだ。俺とこいつはまだ付き合ってない」


 ”―――ビシッ!” 「痛ぇ!」


 丹菜が突然俺のふくらはぎを思いっきり蹴ってきた。


 ”―――ガッ!”  「あがっ!」


 続けて陽葵が俺のスネをツマサキで思いっきり蹴りやがった! スゲーいてー! 俺はスネを押さえて蹲った。


 顔を上げると、丹菜と陽葵が「キッ」と俺を睨んでいる。


「痛てぇよ! 何すんだよお前ら」


「知るか! へたれ! お前のロックはそんなもんか!」


 激怒した陽葵はそう吐き捨てると、丹菜と二人、その場を去った。


「―――くっそ! あいつら何なんだ?」


「正吾……お前、ホントに鈍すぎるのにも限度があるぞ」


「なんだ? 何がどうしたんだ?」


「空には後で説明するよ。なあ、高瀬君よ、早速だけど貸し……近々返して貰うことになるかも知れないから―――その時は頼むね」


「―――はは、彼女も大変だね。その時が来たら貸しとか関係無く協力するよ。君達が言うまでは静観してるから安心して。ただ、少しくらい匂わせてもいいのかな?」


「さじ加減……だな。彼女の行動に合わせて俺らも滲み出していくか」


 なんか、俺を差し置いて話しが勝手に纏まったようだ。

 そして大地が何か思い出したようだ。


「そう言えばさっき丹菜ちゃん『今夜のご飯抜き』とか言ってたけど、あれはなんだ?」


 やっぱり聞かれてたか……ここは白を切るしか無い!


「俺には何の事だかさっぱりだよ」


 よし!


 ・

 ・

 ・


 ―――後夜祭。


 俺と丹菜は並んで最後のキャンプファイヤー(っていうの?)を眺めていた。


「ちょっとトラブルが在りましたけど、楽しかったですね」

「そうだな。まさか学校でライブやるとは全く予想しなかったよ」

「あれ、正吾君一人でギター弾くだけでも良かったんじゃないですか?」

「そうなんだけど、俺一人よりは、皆で助けた方がロックだと思ったんだよ」

「そうですね。皆で助ければロックですね。って、全然意味分りませんよ」

「そう? 実は言ってる俺も良く分って無いんだけどな」




 なんだかんだで楽しい文化祭が終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る