第24話 闘争

 ―――俺たちはステージに静かに上がった。


 皆ローブを羽織りフードを被って、仮面を付けている。


 異様な様相のグループの登場に会場は少しどよめいている。


 皆ステージに上がるといつものように、セッティングを始めた。

 丹菜がマイクに向かって「あー、あー」と言っているが……何をやってるんだ? 


 ”ピパン♬ポポピン♩ピ・パ・ピピンパ♪……”


 陽葵がキーボードを軽快に叩き始めた。会場の響めきは一際大きくなった。そして……


 ”ドゥフ・ドゥフ・ドゥフ・チャッ♪ドゥフ・ドゥフ・ドゥフ・チャッ♪……”

 ”ボンボボン♬ボンボボン♬ベンべベン♪ベンベベン♩……”


 ドラムとベースの音が出た。だけど、まだ音合わせをしているだけだ。そこに俺が……


 ”ギョイ――――――ン♩ギュイリュ♬ギュイギュイギュイギュイギュワ―――♬


 ―――ギターを軽く走らせる。いい感じだ。皆準備万端なようだ。


 丹菜は俺達の音を確認すると、掌を会場に見せながら腕を上にあげ――――勢いよく振り下ろした!



 ”―――――ガッ!”


 その合図に ”ピタッ” と音を止める。


 いつもなら直後にドラムがスティックでリズムを叩き始めるのだが――――


 丹菜は一旦、後ろを向き皆の顔を見た。丹菜と目が合い俺は頷く。皆も頷いていく。準備はいいようだ。丹菜は正面を向き大きく息を吸い込んだ……


「ス――――――――――――………・Hhhhhhiiiii――――――――――――――――――――――――……」


 今回は丹菜の声ホイッスルボイスからの始まりだ!


 丹菜の声が体育館内に甲高く響く中…… ”―――カッカッカ・ドゥクドゥン♪


 ”ティロティロティロティロティティロロ♪ティリラティリラティリラティリラ♬ウィウィウィウィビー……”


 前奏が始まった!丹菜の声は途切れない!


 ―――――――――――――――hhhhhhhhiiiiiiiiiii♬”


 約四十秒、丹菜の声は会場内に響き渡った。


「♬―♪♩―♪♬♪♩―♩―――♬………」


 会場は、丹菜の初ライブの時同様、シンと静まっている。丹菜の声に聴き入ってしまっている。


 そんな中、会場から一言、声が上がった。


「おい!こいつら、ハイスペックスじゃねー?」


 その声がキッカケで、皆我に返ったようだ。


「♫♫♫♩―♫♫♫♩―♫♫♫♩―………」


「ほんとだ! ハイスペックスだ。あの映像のまんまだよ!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」


 会場のボルテージが一気上がった! 最高潮だ! いきなりの熱気に俺のテンションも駄々上がりだ! 丹菜の声も一つ上がった。この熱気に声を上乗せしてきた!


♫♬♫♬―♩―♪―♬♪♩♩――♪♫♬♫♬―♩―♪―♬♪♩♩――♪……」


 サビに入った。今回は陽葵のコーラス付だ。そして再び、あの時の……丹菜が初めてボーカルをやったあのライブの時のボルテージが再び再現……いや、今回は観客が湧いている!あの時以上にヒートアップだ!!


 そして―――俺のソロに入る直前、キーボードが奏でた最後のワンフレーズが俺の耳に障った。その障りが何故か俺への挑戦状に感じ、陽葵に目をやると―――陽葵の口元が俺を挑発するように笑ってやがる! こいつ、ライブ中に俺にケンカバトルふっかけてきやがった! はっは―――買った!!


 先行俺!

”♪――♬―♪♬♫―――♩♩――♫♫”


 まずは序の口、簡単にトレースできるだろ?

        ”♪――♬―♪♬♫―――♩♩――♫♫”


 しかし同じ楽器同士でテクニックの応酬はたまにやるが、ギターとキーボードとなんて初めてやるし初めて聞くぞ!


”♩♫♩♫――♩――♬♬―♩―――♫♫”

          

 うっひょ―――! それギターでやれって?


           ”♩♫♩♫――♩――♬♬―♩―――♫♫”


 俺は陽葵の演奏を夢中で追いかけた。逆に俺の旋律を陽葵に追わせた。

 なんか、ある意味バカップルだな。あとで大地に謝っとくか?


”♫♬♫♩―♩♫♩♬♬――♬♩♬♪♪♪――♪♪――♬”

    ”♫♬♫♩―♩♫♩♬♬――♬♩♬♪♪♪――♪♪――♬”


 ギターの旋律を陽葵が追いかけ、キーボードの旋律を俺が追いかける。


 仮面からかすかに見える陽葵の目がギラギラしている。―――ん? 横から妙な殺気が……やべ、丹菜だ!


 丹菜の目が怒ってる―――そうだ、今、ライブ中だった! 俺らどの位バトってた?


「AH―――――♪ah――HI―――♩FU・fu―――♬……」


 丹菜が「声」でバトルの仲裁に入った。


 ・

 ・

 ・


 そして曲を元に戻して、一曲終わった―――。


「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――!!!!!!!!」


 このメンバーになって、まともに一曲弾いた試しがないような気がするが……気のせいか? 


 一曲終わり、会場からは色々な声が聞こえてきた。


「ハイスペックスって、うちの学校の生徒だったのか?」

「って事は、あのギター、トゥエルブか?」

「マジかよ。トゥエルブこの学校の生徒なの?」

「でも、トゥエルブこの学校で見たことある奴いるか?」


 皆俺の事を話し始めた。予想どおりだ。そして、俺は、ライブでも動画でも顔を出してるからな。ここで顔を出しても何も問題は無い。

 それに俺が顔を出すと、俺に注意が集まるから他のメンバーへの影響も少ないって訳だ。


 と言うことで―――。


 俺は被っていたフードを取り―――そして、そのまま仮面を外した!

 丹菜が俺を見て「何やってんの―――!」って顔をしているが、問題無い。




 ロックだぜ。

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