第23話 救済

 俺、丹菜、陽葵、大地、空が体育館の倉庫に集まった。倉庫はステージとは反対側、客席の背中側に位置している。高瀬もいる。


「高瀬、前倒しの交渉はどうだった?」


「OK貰ったけど、一組だけどうしても時間の調整が取れなくて……」


「出演表持ってるか?」


「これだけど……」


「―――最後はクラブ系のライブか。なら問題ないかな?」


「俺ら集めてどうかしたのか?」


 空がキョロキョロ皆の様子を伺っている。


「まず、みんなに集まって貰ったのは他でもない。俺らでこいつの穴埋めをする。皆協力してくれるか?」


 空がちょっと驚いている。


「え? 穴埋め? 何、この人出ないの?」


 空は高瀬を見た。高瀬はキョトンとしている。俺達が「穴埋め」することに驚いているようだ。


「このバカ、バンドで申請したんだけど、メンバー他の学校の連中で、ステージに上がれないって今頃知ったんだよ」


「なんと! 申請書に書いてあってよね?」


「こいつは自分の事しか考えないバカだからな。人の都合とかルールは見えないように脳みそ出来てんだ」


 俺はここぞとばかりに「バカ」を連呼した。実際バカだしな。このくらい言えば少しは反省……しないか? バカだから。 


「俺らの出演時間は何時になる?」


 高瀬は出演表を見て答えた。


「———三時十五分です」


「あと一時間半か―――結構あるな。高瀬、ギターとベース借りれたか?」


「うん、軽音部に使ってないのがあるって……」


「それ今、持ってきてくれ」


「うん、わかったよ」


 高瀬は走って倉庫を出て行った。


「ねぇ、まさかこの格好で出るの?」


 陽葵がちょっと慌ててる。


「丹菜、例の占い」


「―――あ、D組の演劇で使ったローブですね」


「それ。今日、演劇見て昨日の占い思い出したよ。今、これがまさにその時なわけだ」


「あの占い師、凄いですね」


「なんだよその占いって」


 丹菜はその占いの内容を説明した。


「―――それ、占いじゃなくて予言だろ!」


 大地が占いの内容にツッこんだ。

 俺もちょっと興奮気味に思わず話してしまった。


「だよな、普通、二人の今後を占ってくれって言ったら、二人の将来的な事話すよな? それを翌日の午後の状況の結果が出るって……」


「ちょっとまて、お前ら、何気に二人の将来占って貰おうとしてたの?」


「―――ん? すまん、急に耳鳴りがして良く聞こえなかったんだが……」


 やぶ蛇だった。丹菜は俺をニヤニヤしながら横目に見ている。なんだか嬉しそうだ。


「ところでローブあるか?」


「ほい、ここのダンボールに」


「お? 仮面もあるな。しかも目元だけ隠すタイプだ。これも借りよう」


「俺、顔出して弾いて駄目?」


 空が聞いてきた。空は目立ってなんぼの男だからな。


「そしたら『あいつら誰だ!』ってお前のところに質問殺到するから駄目」


「駄目か……」


 空が肩を落とす。


「そう言えば、他のバンドを前倒しで出演させたのってなんでですか?」


「俺ら先に演奏したら、後の連中、自信無くすぞ」


「確かに」


 陽葵が納得した。




 すると高瀬が戻ってきた。


「———ハァハァ……持ってきたよ。ハァハァ」


 持って来たギターとベースは、ちょっと薄汚れて傷だらけだが、肝心な部分がしっかりしているから全然問題ない。ベースも大丈夫のようだ。弦も最近張り直したっぽいな。


 俺と空は、チューニングを始めた。


「うん、問題無いね」


「中々いいギターだ。ちょっと欲しいかも」


 なんとなく手に馴染む。俺と相性のいいギターのようだ。


 高瀬は俺の顔を不思議そうに見ている。


「君……この前ギター持ってきてたけど、やっぱり弾けたんだね」


「―――ああ。飾りなわけねーだろ」


 ホントにこいつ、頭ん中お花畑で出来てんな。


 しかしこのギターほんと弾きやすいな。とにかく今は触りまくって、手に馴染ませるしか無い。空も同じくベンベンやってる。アンプに繋いでいないから軽い音でちょっと物足りないが……。


 そして時間が来た。

 俺達はローブを羽織、仮面をつけて、皆に気付かれないように壁際をスルスルっと走ってステージ袖に入っていった。


 俺はステージに上がる前に最後に一言、高瀬に忠告した。


「高瀬、お前、今から見る事、起こる事、俺達の事、絶対誰にも言うなよ。言ったら学校中の奴らから信頼と信用、無くすようにお前にしむけるからな。いいな?」


「―――う、うん。わかったよ」


 空が気合いを入れた。


「よし! それじゃあ行くぞ!」



 俺達は、静かにステージに上がり、それぞれのポジションについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る