第16話 日常

 俺は毎朝、丹菜に身体を揺すられて起こされる。


「———おはよ」

「おはようございます」


 朝、目を覚ますと、いつも丹菜の可愛い顔が目の前にある。最高だ。

 

 寝起きに彼女をみるとほっとする。彼女からふとした時に「儚さ」みたいなのを感じる時がある。目の前でふと消えてしまうんじゃ無いかと。だからなのかいつも「彼女の為に」って思ってる自分がいる。


 彼女は俺が起きるともすぐリビングへ戻る。


 ———七時。二人で朝食を食べる。


 テーブルはダイニングテーブル……では無くコタツだ。

 今は季節では無いでのコタツ布団を掛けていないが、時期がくれば当然、コタツ布団を掛ける。コタツの「人間をダメにする魔の力」を彼女は体験したことが無いらしい。楽しみにしているようだ。


 冬になったらやっぱりみかんと鍋だな。早く食べたいものだ。


 朝食を食べ終わったら、俺が食器を洗うのだが、その間に彼女は身支度の仕上げをする。俺が歯磨きとかの身支度が終わる頃、彼女の準備も終わる。彼女の歯ブラシとか化粧道具は俺の部屋に置いてある。それってどうなんだ?


 ———七時四十分、二人で一緒に登校する。ただし、マンションを出るまでだ。


 マンションを出ると、俺が先を歩き丹菜が数メートル後ろを歩く。いっそ、一緒に歩いても良いのだが、彼女に良くない噂が立つのは忍びない。


 そして最寄りの駅に着くと、俺はさり気無く丹菜を待つ。そして一緒にホームに入り、同じ列の前後で並んで電車を待つ。電車に乗る時は、彼女は必ず俺のジャケットの裾を掴んで離れない様にする。電車に入れば、いつも向かい合って立つ。


 初めは離れて乗ろうとしていたのだが、過去に痴漢にあいかけた話しを聞いてしまったら側に居るしか無い。それで彼女を守れるなら安いもんだ。


 電車に揺られ密着すること十分。理性を保つのもなんとか慣れた。駅を出て学校へ。今度は丹菜が俺の先を歩く。すると、徐々に彼女に話しかけてくる子が現れ、彼女は数人の女子の囲まれ学校まで行く。そしてそのまま教室に入る。


 俺が教室に入る頃には丹菜と陽葵と何か話し始める時だ。


 そして、俺はいつも黙って席に着いていたのだが、今では―――。


「御前君おはよう」

「御前君おはようござます」

「うす」


 最近では彼女たちに挨拶をされるようになった。


 ・

 ・

 ・


 ———お昼休み。


 俺は屋上で一人弁当を食べる。雨の日は、屋上への階段最上段で弁当を食べる。

 実は、この屋上、鍵が掛かっているのだが、ちょっとしたコツで、鍵が無くても錠が外れるのだ。錠を掛けることも出来る。これは俺だけの秘密だ。


 ・

 ・

 ・


 授業が終了して、放課後、今は文化祭準備で皆残っている。五時半になると俺はバイトがあるので学校を出る。


 先日、高瀬と一悶着有ったお蔭で、気兼ねなく帰れるようになった。奴は気に入らんが、この件に関してはちょっと感謝している。複雑だ。


 丹菜も家での仕事が忙しい。なので六時に帰っていると聞いたが……身体は大丈夫なんだろうか? 丹菜と関わるまで俺は結構辛かった。でも今は楽だ。今まで感じた俺の辛さが今、丹菜の負担に移ったと言う事だろう。ちょっと彼女が心配だ。


 夜のバイトは、ちょっとお高いレストランでウェイターをやっている。なので学校の奴らが個人的に客として来る事は無い。来ても親と来るだろうが、そこそこ裕福じゃ無いと来れないようなレストランだ。なのでクラスメイトと会うことはないし、俺が俺だとバレる事はまず無い。


 バイトは八時迄だ。帰る前には、丹菜に「帰る」ってメッセージ送り、彼女が夕飯を作るタイミングを知らせる。


 ———九時前、玄関を開けると、いつも良い匂いがする。今日は、生姜焼きかな?


「お帰りなさーい」


 と、スウェット姿の丹菜が出迎えてくれる。そしていつも笑顔だ。癒やされる。


 ご飯を食べ終わると、並んで食器を洗う。やめてくれと思う反面、正直、好きな時間でもある。そのうち一緒に料理を作りたい。


 そして、食器洗いが終わると俺の部屋では何もすること無くなるので、丹菜は自分の部屋に戻っていく。


 その後、俺は宿題をやって、ギターを弾いて、寝るのは十二時前なのだが―――。




 しかし、今日は金曜日……明日は休みだ。―――疲れていたのかな? 彼女は食器を洗い終わってから、珍しく二人がけのカウチソファーに座ったと思ったら―――。


「Zzzzzz………」


 寝息を立て始めた。


 困った。


 ”―――パシャッ”


 寝顔の写真を撮った。なんだかいつも写真を撮られている気がするから、このくらいばちは当たらんだろう。


 ”―――ツンツン”


 ホッペをツンツンした。お肌サラサラで柔らかい。なんかチューしたい気分になるな……でも、それをやったら「ロックじゃ無い」からしちゃダメだ。


 そのうち起きるだろう。俺は風呂入ってくるか……。


 彼女に毛布を掛けて俺は風呂に入った。


 ・

 ・

 ・


 風呂から上がったが、全然起きる気配は無い。


「ZZZZZzzzzzzz……」


 寝息も若干、いびきになっている。疲れてるんだな。


 レディーをソファーで寝かせるのはロックじゃ無いので、俺は彼女をお姫様抱っこで自分のベッドへ……軽い。そして、華奢だ。


 彼女をベッドに降ろしたら、抱っこした時に掴んだのだろう。彼女は俺の服の胸元あたりを掴んで離さない。


 寝てる奴の力じゃないぞ。全然離そうとしない。

 暫くすれば手を離すだろうと、ベッドに一緒に横になっていたが―――


 ・

 ・

 ・


 ―――目を覚ますと、丹菜が俺の顔をツンツンツンツン触っていた。サラサラの指先で顔を触られると気持ちいい。

 

 「―――おはよ」

 「―――おはよう御座います」


 はにかんだ笑顔の彼女の表情は、最高にロックな朝を感じさせてくれた。

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