正体を隠して生活してる俺の隣に住んでる美少女とカラオケ行ったらとんでも無い才能の持ち主だったからバンドのボーカルに誘った。

第15話 衝突

　———文化祭の準備が始まった。

　グループは全部で８つである。そして作業は、「衣装・小道具」、「パネル・看板」、「セット」、の大きく分類して三つだ。

「衣装・小道具班」で二つのグループ。「パネル・看板班」に三つのグループ。「セット班」で三つのグループが担当することになった。

「皆何やりたい？私はセット作りたいかな。絵は苦手だし、衣装は針とかミシンは勘弁。どう？」

　最初に提案して来たのは芳賀（はが）さんだ。

　彼女はクラスの中では中心的人物で、何かのまとめ役とか気が付くとそんな立場に立たされたりする。その事を彼女自身、苦にしてる様子も無い。ついでに容姿もそれなりで、クラス内での人気も高い。

「私もセットで」

　陽葵が同意した。

「俺はパネルがいいな。デカい絵、ちょっと描いてみたいかな？」

　高瀬もやりたい事を推して来たが、発言のあと爽やかな笑顔で丹菜に何かをアピールしてる。丹菜はうざそうな顔をしている。

　丹菜はその視線に気付かない振りをして俺に話しかけてきた。

　話しかけるキッカケとしては申し分ないか。

「しょ……御前君は何がいいですか？」

　俺に話しかけた丹菜はなんか嬉しそうな顔をしているが―――おいおい。危なく名前で呼ぶところだったんじゃね？　陽葵もなんか笑ってるぞ。

「俺か？———多数決で数の多いところでいいよ」

　ぶっちゃけ作業に拘りは無い。

「それじゃあセットで決まりですね。私もセットに一票です」

　全てのグループが作成する物も決まって、皆一喜一憂している。

　やりたい事に一喜一憂と言うより、周りの反応を見ると「葉倉さんと……くそ」「高瀬君だ……やった」なんて声が聞こえてくる。作業内容よりメンバーで一喜一憂してるみたいだ。

　俺達のグループって、容姿的にはレベルが高い。うちのグループと作業したがっている奴が多いみたいだ。

　そうそう、肝心のバンド活動についてだが、文化祭の準備は主に放課後に行われる。なので文化祭が終わるまでは、ライブは休止だ。約二週間ちょっと……あっという間だろう。日曜日は練習する。

　ついでに言うと、文化祭でステージが準備されるが、ハイスペックスは演奏するつもりは当然無い。高瀬のバンドは出るらしいが……バンド名なんだった？

　俺はバイトを休む訳には行かないので、放課後の活動には時間に限りがある。丹菜も家の事を自分でやらなくてはならないのでそんなに遅い時間までは残れない。

　出来る事をやるしか無い。

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　文化祭の準備が始まって、一つ変化があった。

　丹菜と陽葵が、朝、教室で俺に挨拶をするようになった。

　丹菜はマンションで、朝、俺を起こしてくれるから別に挨拶の必要無いんだがな。ま、彼女なりのパフォーマンスなんだろう。

　文化祭の準備が始まって二日程経ち、丹菜の生活に負担を感じたので一つ提案してみた。

「晩御飯、暫くはいいよ。自分の家の事でも結構時間潰すだろ？　俺も帰り遅いし…な？」

　丹菜はなんか納得していない表情をしている。

「大丈夫ですよ。時間削れてるの勉強時間だけですし、それに私、成績はトップの方ですから。削れたところで余り問題ありません」

　マジか！　なんか天然要素満載の丹菜が「成績がトップの方」という事に驚いた。今度の期末テストはちょっと勉強教えて貰おう。

　と言う事で、俺の申し出は一蹴された。

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　そんなある日、ちょっとした騒ぎが起きた……。

「それじゃあ、俺、バイトあるから御免」

　俺がいつものように帰ろうとした時、高瀬がそれを制してきた。

「ちょっと御前待てよ。お前、皆で文化祭成功させようって頑張ってるのに何で先に帰るんだよ！　そんなにバイトが大事なのか！」

　こいつは馬鹿か？　「バイトが大事なのか！」って大事だから行くんだろ。大事じゃなければ何しに行くんだ？

　高瀬の一声に教室がシンと静まった。

　俺は入り口で立ち止まり、高瀬に呆れた目で直視した。と言っても前髪で良く見えないだろうけどな。そして俺は高瀬に一言吐いた。

「———大事だ。大事だから行く。俺の代わりにバイト行ってくれるなら、俺はここに残る。俺が今日稼ぐバイト代、お前が出すならここに残る。それが無理なら黙ってろ。黙らねえなら物理的に黙らせる」

　それだけ言って教室を出て行った。

　当然、後ろから追いかけてくるような事は無く、追いかけて来られてもバイトの時間に遅れるだけだから勘弁ではあるのだが———。

　翌日から俺に話しかけてくる女が増えたんだが……丹菜に聞いたら「ロックな事言ってるからだよ」と言われた。自分でたまに使う言葉を他人に使われると全然意味が分からないな。何だ？「ロックな事」って。

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　———その日の夜。

　高瀬の事を思い出したら腹が立ってきた。

「高瀬の奴、正義の押し売りやめろって。俺を目立つようなことさせやがって」

「正直、あの人苦手です」

　俺は、何となく高瀬が次に取りそうな行動が目に浮かんだ。

「多分明日、皆の前で俺を悪者にするような発言をするか、意味不明に謝罪する筈だからその前に釘刺しておきたいな」

「悪者にする発言はなんとなく分りますが、謝罪はなんでですか？」

「ああ言う奴って変に正義感かざす奴が多い。その正義感で『俺、悪い奴に対しても謝れるまれる男だから』ってのをアピールしたがるもんなんだよ」

「なんかイメージ出来ますね」

「だから陽葵と二人で抑えてくれないか？　『御前って目立つの嫌いだから関わるな』とか何とか言ってさ」

「分かりました。やるだけやってみます」

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　———翌日。

　……丹菜達が行動する前に高瀬は動いた。

　朝、俺が席に着くと、後から高瀬が教室に入って来た。高瀬は自分の机にカバンを置くと、真っ直ぐ俺の元に来て、大きな声で謝罪した。

「昨日はゴメン！　御前がそんなに生活が大変だなんて知らなかったんだ！　すまん。俺にできる事なら何でも協力するから気軽に頼ってくれ！」

　やっぱり馬鹿だ！　何、人を勝手に貧乏人にしてんだ。実際大変だけど大声で言っていい事じゃねーぞ！

　俺はホントに頭にきた。高瀬の胸ぐらを掴んで壁に押しつけた。

「俺がいつ生活に困ってるなんて言った。お前が勝手にそう思ってるだけだろ。それに今、協力するって言ったな？　協力してくれるなら、俺と一緒にバイトして、お前の稼ぎ全部俺にくれよ。それが出来なきゃ黙ってろ！　軽々しく協力するなんてほざくな！」

「―――くっ」

　バカの極みだ。こいつは殺しても死なねー奴だ。だから安心して殺せる。

「金輪際俺に構うな。構う権利がある奴は自分の時間を俺にくれる奴だけだ。それが出来なきゃ黙ってろ」

　そう……俺にとやかく言えるのは今は丹菜だけだ。

　周りの女どもは何やらヒソヒソ言い始めている。どうやら高瀬の行動に対して賛否両論になってるようだ。

「高瀬君優しくて素敵」派と

「高瀬無神経だね」派だ。

　高瀬……次は「ボッチを気にかけてる俺いい奴」アピール来そうだな。———三回生まれ変わって来い！