第14話 動画
———月曜日。
いつものように通学中、電車の中で丹菜と密着……悪くは無いが心臓に悪い。
教室に入ると、朝からみんなスマホの画面から”ジャカジャカ“と音を出している。どうやらMY TUBEにアップされたハイスペックスの動画を見ているようだ。
この動画はハイスペックスとしてアップしたもので、俺のチャンネルのものでは無い。と言うかトゥエルブチャンネルはハイスペックスに俺がメンバー入りした事で一時休止中とした。休止と言っても動画を見る事は出来る。それに個人的にアップする事はあるかもしれないが、今は考えていない。
今後、ライブの動画とかはハイスペックス専用のチャンネルから配信する事にした。広告収入はみんなで山分けだ。因みに同じ事やろうとしてる学生が居たら、税金とか扶養とかの手続きがあるから親に一言相談しよう。
なので、今みんなが動画を観てくれるのは凄く有難い。他のメンバーは小遣い稼ぎだろうが、俺は生活がかかってるから切実だ。
席に着くと、丹菜と陽葵が話しをしている。話しは途中から聞こえていたが、どうやら動画の話をしているようだ。
「———大丈夫なんですか?」
「カメラ固定で大地一番後ろでよく見えないし、空も俯いて弾くからそんなに見えないみたいだね」
「トゥエルブだけですね。ハッキリ顔見えてるの」
「はは。そうだね」
俺は二人の話に聞き耳を立てながら、ライブでのソロパートを思い出していた。今思い出しても鳥肌が立つほどヒートした。
すると二人の会話に割り込んで来る奴がいた。陽キャ高瀬だ。
「———何々? ハイスペックスの話してんの?」
その声にふと丹菜に目をやると作り笑いで黙ってる。陽葵がため息を小さく吐いて仕方なく高瀬の相手をしてる。
前から思ってたが、この二人、高瀬の事が嫌いなようだ。
「———あー、……うん。高瀬君は動画見たの?」
「見た見た。十回は観たよ。君達は見たの?」
「ええ……まぁ……」
こいつら観る以前に観られる側なんだよな。
「彼ら凄いよね、俺もギター弾くんだけど、トゥエルブって言うの? 凄いテクニックだよね。あんなギター聞いた事無いよ」
ほう。お前もギター弾くのか。でも今の話の中で「俺ギター弾く」って情報要らないだろ。さり気無く自慢してんなぁ……。
「あとボーカルの子も声綺麗だよね。ニッピだっけ? ギターソロで声被せてぶっ飛んでたし」
あれは過去最高の演奏だった。「俺の中のステージが一つ上がった」って感じたね。丹菜は「邪魔してごめんなさい」って謝ってたが、邪魔どころか陽葵も俺と同じ事言ってたし、次もお願いしたいくらいだ。
「キーボードの子……あの子も凄いよ。あれアドリブでしょ? 彼女も天才だよね」
陽葵、居心地悪そうだ。しかし、こいつ本当にバンドやってていいのか?
「そうだ! 今度よければ僕らのライブ見に来てよ。って、そう言うの好きそうじゃ無いよね」
「はは…。高瀬君バンド組んでんだ」
「まあね、『
「……アハハ、うん、機会があったらね。教えてくれてありがと」
俺達が拠点としているライブハウスは「
しかし滑稽だ。本人目の前にしてハイレベルなこいつらを評論してるんだ。可笑しくて堪らない。
俺は笑いを堪えるのに必死だった。暫く窓を見て肩を震わせていた。
・
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———日付は変わって、ある日のLHRだ。
———先生が一言。
「———間も無く文化祭だ」
文化祭である。実行委員の選出、クラスでの出し物決定の過程など、全部話を端折るが、実行委員はくじ引きで決めた。実行委員にはこの物語には全く関係ない人物が選ばれた。そして出し物は「お化け屋敷」に決定だ。これもどうでもいい。
肝心なのは次だ。
実行委員の手際がよく、話は既に制作の段階に入った。くじ引きで決めたとは言え、今日中に制作の段取りまで組んでしまうとは、偶然適任者を選出したようだ。
実行委員は黒板に座席を書き、五人一組になる様に丸で囲んで話を進めた。
「それでは黒板に書いたとおりにグループを作って下さい。グループ間のトレードは各々に任せます」
俺のグループは、座席が後ろ三人の俺、丹菜、高瀬。そして俺の前の席の
この組み合わせ———丹菜と陽葵が普通に絡んで来そうだが……不自然じゃないからいいか。ただ、面倒そうな男が一人いるけどな。
早速丹菜が、さり気なく、そしてある種の意思を感じる声で、俺に一言話しかけて来た。
「宜しくね、御前君」
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