正体を隠して生活してる俺の隣に住んでる美少女とカラオケ行ったらとんでも無い才能の持ち主だったからバンドのボーカルに誘った。

第12話 暴露

　———日曜日になった。俺の部屋の掃除だ。

　昨日、俺がバイトに行ってる間、丹菜がある程度片付けてくれたが、捨てて良いものとか、片付ける場所なんかが分からなかったので半分以上、物を寄せて終わっている。

　殆ど服が多いかな？　

「———それでは、大掃除始めます」

「はい、宜しくお願いします」

「寝室は自分でやって下さい。あと、下着類の洗濯とたたむのも自分でお願いします」

「はい、分かりました」

　なんか、俺の返事が返事をする度、丹菜が笑いを堪えるような表情をしている。なんか変か？

「それと、こっちに寄せた物は捨てるか売るか片付けるか判断して下さい。手に取って、一ヶ月以上使った記憶がないものは捨ててしまっても何にも差し支えがないので、思い切って捨てて下さい。『いつか使うかも』って思う物は殆ど使う事は無いので、リサイクルショップに売りましょう」

「はい、分かりました」

「…………ﾌﾟｯ」

　だから、何故笑うのか。

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　朝からやり始め、既に昼は過ぎていたが、終わりも見えていたので最後までやり切った。

「ふ———、こんな感じでしょうか？」

「ありがとう。お蔭で床に座れるようになったよ」

「この状態……キープして下さいね」

「はい、分かりました」

　って言ってるけど、多分、俺が居ないときに丹菜が掃除しちゃうんだろうな。正直申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。

　一緒にご飯を食べ始めてまだ三日だが、既に色々と楽をさせて貰っている。

　平日のバイトは六時から八時まで。なので夕飯は九時頃になる。

　土曜日は夜九時までバイトしている。なので帰ってくるのは十時近くだ。

　どっちにしても食事の事を考えないで済むだけで俺の生活の負担は激減したと言える。

　食事の後もギターを引く時間は十分あるので何も文句はない。文句が有るとすれば食事の片付けだ。俺が片付担当なのに、何で丹菜も手伝ってんだ？　肩を並べてキッチンに立つのは悪く無いが、片付けだけは俺にやらせて欲しいところだ。一緒にやるのは料理でいい。そっちはなんか楽しそうだしな。

　食器を片付け終わると丹菜は部屋に戻る。大体十時位だな。

　バンドの練習は、先日の一回しかまだやっていない。来週土曜日ステージに立つので、一週間は練習したいところだ。

　一つ気がかりな事がある。メンバーに大して、俺の正体を伏せている事だ。流石にそれはロックじゃない。———明日から、四時頃から一時間半程練習やるから、その時にでも打ち明けるか……。

　そう言えば、学校から大宮楽器店へ直接集合するんだよな？　ギターどうしようか……学校には軽音部もある。それにギター持って来てる奴は何人か見かけたことがあるから、持って行く事は問題ない。ただ、俺が持ってきた事で話しかけられるのは勘弁願いたい。

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　———月曜日になり、まだ、二人で意識しないように意識した、まだ習慣付かない朝の通学。今日も電車の中で丹菜が密着している。因みに俺はギターを背負っている。

　しかし、丹菜は電車で毎回くっついてくるけど、気にならないのか？　俺としては嫌じゃないから拒みはしないけど……男として見られてないのかな？　

　駅を出れば関係性が全く無いクラスメイトの二人になる。いつもの学校生活だな。

　教室に入ると丹菜と陽葵が挨拶をして何か話しかけようと振り返った。いつもの光景だ。

“———ガタッ”

　俺が席に座ると、陽葵は俺が背負って来たギターを見て、何か言いたそうな表情をしている……でも、彼女も学校ではバンドをやっている事は内緒にしているので下手な事は言えないようだ。ここまでは計算どおり！

　そう思ってたら違うところから声が聞こえて来た。

　丹菜のあっち隣の席の「高瀬玲央名（たかせれおな）」だ。

「———あれ？　御前君、ギター持ってきて……何？　弾けるの？　てか、バンド組んでるとか？」

　うぜ———。それ知ってお前はどうしたい？　こういう奴には適当に答えとけ。

「———飾り」

　流石の陽キャ高瀬もこの言葉に対して会話を続けるのは無理のようだ。我ながらナイス塩対応。

　丹菜はなんか複雑な表情をしている。

　陽葵は俺のギターに一言言いたい表情だ。今日の放課後まで待ってろよ。俺の正体教えてやるから。

　高瀬は何とも言えない表情で自席に座った。

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　学校が終わって、大宮楽器店に向かうのだが、ちょっと上手くない構図になってしまった。

　ずっと丹菜と陽葵の後ろを付いてったんだが、最寄の駅を降りて、彼女達は大地と空を待つため立ち止まったのだ。俺まで立ち止まるわけには行かず、そのまま目の前を通過。結果、メンバー四人の数メートル前を歩く状況になってしまった。

　俺の背中から声が聞こえて来た。

「丹菜ちゃん、あれ、御前君だよね？」

「そうですね」

「何で私達の目の前ギター背負って歩いてんの？」

「何ででしょう？」

「———え？　何で楽器屋入った？」

　俺は先に店に入って二階へ上がり、「学校の」御前正吾の姿のままギターをチューニングしていた。

　すると四人が二階に上がって来た。

　俺は、顔を上げ、皆の顔を見た。

　丹菜は当然、なんて事はない表情をしている。

　大地と空はクラスが違うから当然「誰？」って顔をしている。

　陽葵は同じクラスだ。席も近い。当然「御前正吾」を知ってるわけだが……。

「———御前君……何して……

　　　“ギュイ———ゥィンゥィンゥィンゥィン……ティラリラロラリリペレペレペレギュｨ———ガッ！」

　俺は彼女の言葉を遮るようにギターを弾いた。言葉より音で「御前正吾」を伝えたかった。

　大地と空は気がついたようだ。流石「ロックな奴ら」だ。

「トゥエルブ、お前、同じ学校だったんだな」

「ああ、今まで黙っててごめん」

　俺はそう言いながら、カチューシャで前髪を上げた。

　丹菜は口がフニフニしている。笑いを堪えているようだ。

　一番驚いてるのは陽葵だ。

「———み、み、御前君だったの？　トゥエルブって御前正吾だったの？」

「あ———……、そうでした。ハハ」

「メッチャびっくりだよ！クラス一根暗ボッチ……陰では『ボッチの権化』とまで言われているあの御前正吾が、ステージでは目立ちまくりのトゥエルブだなんて誰が思う！」

　ちょっと待て、何だその「ボッチの権化」って。

　大地と空は「へー」って顔をしている。

「何？　彼そんなに目立たないの？」

「私、教室で御前君の声聞いた事ない」

「あ、私も…私はありますね。『ノート出して』って」

「でも何で正体バラしたの？」

　陽葵が聞いて来た。そこは素直に答えた。

「メンバーへの隠し事は『ロックじゃない』」

　正体を知らない奴と共に何かを成すのはどう考えてもロックじゃなかった。それだけだ。

　しかし何だ、なんか照れ臭い。でも胸のつっかえが取れた気分だ。

「ところで『トゥエルブ』って名前は何で？」

「御前正吾（ごぜん十二時）ってわけだ」

「なるほど。しかし『トゥエルブ』ってちょっと痛い感じがしないでもないよね」

「そこはちょっと黒歴史になりつつある。あんまり触れないで欲しいところだね」

「で、今後もトゥエルブでいいのかな？」

「高校卒業まではそれでいいかなって。それから学校では出来るだけ無視して欲しい。陽葵が言ったとおりボッチだから、急に友達できるのも不自然だしな」

「今日、ギター持って来た時点で不自然だったよ」

「やっぱり？　でも、陽葵はそこ、触れられないでしょ？　だからギリ行けるかなって思ってたら、陽キャの高瀬が話しかけて来やがった……誤算だったよ」

　今後、ギターはここに預ける事にして、俺達は練習に入った。

　ついにメンバーにも正体明かしてしまった。正体は明かしたが———丹菜との半同棲生活は内緒にしないとな。