第11話 変化

 ―――俺が風邪で寝込んで、丹菜が看病して「俺=トゥエルブ」と身バレした翌日の朝。



 朝、布団の中で夢心地でいると身体を揺すられる感覚で目が覚めた。まだ戻らない意識の向こうで、澄んだ綺麗な声が聞こえて来た。


「……ご君起きて下さい。朝食出来ました」


「ん……―――ん―――おはよ……」


 目を開ける目の前には天使が俺の顔を覗き込んでいた。朝から最高だね。


「おはよう御座います。―――熱……どうですか?」


「―――うん……大丈夫っぽい」


「体温計どうぞ」


「ありがと――――――"ピピピピ……" ―――36度5分……平熱だね」


「平熱ですね。食欲ありますか? 無くても食べて貰いますけど」


「―――頂きます」


 俺の言葉に彼女は自分の部屋に戻った……俺は昨夜までお風呂に入っていなかったので、シャワーを浴び、制服に着替えてから丹菜の部屋へ―――前髪は上げてる。


「お邪魔しまーす」


 初めて女性の部屋に入った……第一印象は「部屋がロックじゃ無い綺麗」だ。そしていい香りがする。


「———おぉー…すげー美味そう」


 彼女は笑顔で俺を迎え入れてくれた。

 俺の為に作ってくれた料理と言っても過言では無い。俺は全力で美味しさを表現したいと思う。


 今日の朝食は、トーストと目玉焼きだ。あと少しのサラダ———健康的だな。そして今の俺には非常に豪華に見える。


「「いただきまーす」」


 一口口に含む…美味い。そして誰かと食べる食事は最高の隠し味だ。俺は全力で表現すると言ったが、それ以前に心の声が自然と口から出た。


「美味い……」


 ・

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 朝食もペロっと食べてしまい、役割どおり俺が食器を洗い、そして二人一緒にマンションを出た。


「駅まで一緒に行きませんか?」


 丹菜が俺の顔色を伺うように聞いて来た。


「さすがに難しいよ。この通りも結構ウチの生徒歩いてるし」


「う―――仕方ないですね。でもこれは受け取って下さい」


 凄く残念そうにしている。そんなに俺と一緒に行きたいのだろうか? それからマンションを出る前に紙袋を渡された。


「これって……弁当?」


「はい。私の手作り弁当です」


 俺が弁当持ってても誰も何も思わないよな? 


「———うん、ありがたく頂くよ」


 俺は素直に弁当を頂いた。今日から毎日手渡される事になる。


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 ・


 俺と丹菜は最寄りの駅まで離れて歩いたが、駅のホームでは俺の後に並んで電車が来るのを待っていた。電車に入る時、ジャケットの裾を引っ張られる感じがした。どうやら丹菜が掴んでたようだ。


 そして、電車が来て乗り込んだが……電車はいつも満員だ。押し込みまでは行かないが、それなりに隣の人と密着する。―――気が付けば俺の目の前には正面向いて丹菜が立っていた。


 俺と彼女の身長差は大体20㎝位だろうか? 俺が176㎝だ。感じから言って丹菜は160㎝無い位だろう。俺の鼻先は丹菜の頭の上にある。さっきからいい香りがしてる。結構好きな香りだ。


 電車が揺れるとその都度彼女の身体が俺にもたれ掛かって来るのだが———柔らかい。そして華奢。なんか支えたくなる気分だ。


 あと五分も乗っていたら理性が飛ぶところだったが、その前に電車を降りる事が出来た。電車を降りて学校へ向かうが、さすがにここから一緒に歩く事は困難だ。丹菜も離れて歩き始めた。


 学校に近づくにつれ、丹菜の周りには数人の女の子が集まっていた。さすが人気者は違うね。


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 教室に入ると一足先に着いた丹菜と陽葵が何やら話している。


 俺は誰にも声を掛けず、誰からも声を掛けられず、黙って机に座る。二日程休んでも誰も気に留める事はない———気楽でいいね。―――いつもはそう思うところなのだが……なんかちょっと寂しい気分になっている俺が居た。


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 ———LHR。


「———年度も半分終わったから席替えするぞ」


 そう言うと先生は黒板に四十本の縦線を引き、適当に横線を入れた。アミダくじで席を決めるようだ。そんな席決め見た事ない。線の下には左から順に数字が一から四十まで順に書かれている。


「それじゃあこっちの奴から上に自分の出席番号書いて、横線足していけ。横線は交差させてもいいぞ」




 全員書き終わり先生が更に横線を付け加え、くじを引き始めた。


 俺は「7」を引いた。一列七席。俺は窓際最後列と言う、最高の場所をゲットした。


 そして隣の席に来たのは……丹菜だ。葉倉丹菜が俺の隣の席になった。

 丹菜の前の席は希乃陽葵……俺はこの席の配列に得体の知れない力が働いてるのを感じざるを得なかった。


 最近、丹菜と陽葵の関わり方と今の状況が可笑しいのか嬉しいのか、自分でも良くわかっていない感情込み上げ、口元がニヤついて仕方なかった。


 それを必死に込み上げるものを抑えようとしていたら、不意に丹菜が声を掛けて来た。


「御前さん宜しくお願いします」


 今だったら俺に話しかけるのは不自然じゃ無いから別にいいのだが、ちょっとタイミングが悪い。

 俺は丹菜の挨拶に口元をフニフニさせながら応えた。


「ひょろしく」


 発音がバグった。丹菜も「ウプッ」って吹き出している。その様子を見た陽葵は不思議そうな顔をしていた。


 陽葵との距離も近いからそのうちコイツにも身バレしちゃうのかな? 気をつけよ。

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