第8話 音域
そこに立っていたのは、大宮の親父さんと妹だ。―――なんか、親父さん見た事あるような……。
「———お前ら……随分とぶっ飛んだな。やっとギターとボーカル見つけたか」
「あ、うちのオヤジな。後ろにいるのが妹。小4な」
「こんにちは」
「お邪魔してます」
「しかしお前ら三人に負けないギター初めて聴いたぞ」
「お兄ちゃん良かったね」
「———そうだ、葉倉さん達に言ってなかったけど、うちの楽曲の作詞は妹が作ってんのな」
「「は—————————???」」
俺と葉倉さんはらしく無いリアクションをしてしまった。
「この子があの歌詞書いてんの?」
「まー、正確には詩のベースだな」
「ベース?」
「こいつ、いつも一人で「〇〇〇ごっこ」みたいなのやって、ブツブツ物語喋ってんだよ、で、それを俺が書き写して、後で皆で言葉を取り替えたり比喩してみたり英語にしたりして歌詞にしてるんだよ」
「なる程。だからストーリー性を感じる歌詞になってるんですね」
「『大きなクリ』は、こいつがもっと小さい頃に歌ってた間違った歌詞をベースに作り上げた歌詞なんだ」
「それじゃあ、作曲って?」
「オヤジ」
「マジ?」
「ガッハッハ。昔取った杵柄って奴だ。若い頃バンド組んでてな、今でも現役でやりたいんだが、元のメンバー二人が海外行っちまってよ、今、休業中なんだ」
ん? どっかで聞いた話だなって、まさに俺の親父とお袋じゃん! もしかして、この親父さん……。
俺は親父さんの元へ行き小声で聞いてみた。
「あのー……その海外行った二人って、夫婦……じゃないですか?」
「おう、よく分ったな」
「御前
「そうだが……まさか……」
「みんなに内緒でお願いします。その二人、俺の両親です」
俺がそう伝えた瞬間、親父さんが大きな声で感激した。
「———そうだったのか! は———! 納得納得!なんか音って言うか弾き方似てんなーって思ったんだよ!」
「ちょっ、オヤジさん! しー! しー!」
俺は振り返り、皆の顔を見ると、みんな「キョトン」とした顔をしていた。
「そうだ、ボーカルのお嬢さん、いい声してるけど音域はどこまで出せるんだい?」
「えっと———すみません。良く分ってないんです」
希乃さんが慌ててフォローしてくれた。
「あ、彼女、今日初めてバンドやったんで、全然そのー……何もわかって無いの」
「何と! それじゃあ、さっき歌ってたのが初めてなのかい?」
「まぁ、はい。実際には二曲目ですけど……」
「か———、いるんだな、天賦の才持ってるやつ。試しに、どこまで出せるかやってみたらどうだ?」
「葉倉さん、私のキーボードの音に合わせて、『アー』でいいから声出してみて」
「分かりました」
「まず、低い方から」
・
・
・
「ちょっと……普通、低い声、女の子ここまで出ないんだけど……」
「そうなんですか?まだ行けますけど……」
「それじゃあ……」
“———♪(C3)”「ぁー」
“———♪(A2)”「ァー」
“———♪(G2)”「aー」
“———♪(F2)”「———限界ですね」
「早速凄いね。それじゃあ次は高い方行くよ」
“———♪(C6)”「あー」
“———♪(G6)”「アー」
「おい、ちょっと飛ばしすぎじゃね?」
「ごめんごめん、ちょっと調子乗っちゃった」
おいおい、普通、「E5」も出れば十分なのにいきなり「C6」の音出すなよ。しかもそ音に声合わせるなんてとんでもねえな。
「どうしたんですか?」
「ごめん、いきなり高音過ぎちゃった」
「全然大丈夫ですよ」
「マジ? それじゃあ続けるね」
“———♪(D7)”「ahhー」
“———♪(E7)”「Ahhhh———!」
“———♪(F7)”「AHHH———!」
“———♪(G7)”「h———っ!」
“———♪(A7)”「———っふー…だめですね」
皆唖然とした。葉倉さんが俺達を唖然とさせたのは何回目だろう?
「どうでした?」
「———葉倉さん……私、生の『ホイッスルボイス』初めて聞いたよ」
「なんですか?その『ホイッスルボイス』って」
「えーっと、海外のミュージシャン『キャライア・マリ―』知ってるよね?」
「知ってます。7オクターブの声の人ですよね」
「正しくは『5オクターブの音域の声』ね。あの人、高音出したときの声聞いたことあるでしょ? あの声が『ホイッスルボイス』って言うの」
「なるほど。私の声もあんな感じなんですね」
「で、いくらだった?」
「G2からG7。因みにキャライア・マリーは、G#2からG#7って言うからほぼ一緒だね」
「すげえな。和製キャライアじゃん。最後、超音波っぽくなってたけど、とんでもないな」
「えっと、さっきから言ってる『G』って何ですか?」
「『ドレミファソラシド』をアルファベットで表すと『CDEFGABC』になるの。で、『G』は『ソ』ってわけ」
「世界中の歌手が葉倉さんの喉、欲しがるね」
彼女の歌声……能力の限界はどこなんだろ? 俺達自身も一緒に上に連れてってくれそうな気がしてならない。
―――彼女に会ってから、俺の音楽の世界が色づいた感じだ。
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