「ここかな？」

「ここですね」

　今、葉倉さんと二人で看板に「大宮楽器店」と書かれたお店の前に立っている。

　俺は躊躇うこと無く店の中に入って行った。

「こんにちはー」

「お、来た来た」

　お店の広さはコンビニの二倍くらいの広さだ。

　店の奥から大宮と、何故かエプロン姿の希乃さんが顔を出した。

「小堀は上で待ってるよ。階段ソコだから上がって待ってて」

　葉倉さんはお店の奥へ……俺は、陳列されている楽器やアンプを眺めていた。

「うおっ！　このギター扱ってんの？　いち、じゅう、ひゃく、せん、……。ｶﾞｯｸｼ　　お？　こっちのアンプは結構お手頃価格だ。ちょっと買っちゃおうかな？　―――ん？」

商品を吟味してたら、葉倉さんが二階から降りてきた。

「———欲しいんですか？」

「まあね。このメーカーのなんかは結構人気あって皆欲しがるね」

「そうなんですね？」

　興味全く無さそうな反応だ。そもそも、ギターに限らずこういうアイテムって、男でも使わなければ全く興味示さないからな。

　葉倉さんも、精々「ギターなんて形と色が違うだけで音は同じじゃ無いの？」くらいにしか思っていないんだろう。

　俺は葉倉さんに背中を推されながら二階へ上がった。

　部屋に入ると、一階と同じ広さの空間があった。商品が無い分、広く感じる。

「ちわっす」

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「葉倉さん堅苦しいよ。仲間なんだし気軽にね」

　———仲間……いいね。今までそう言える奴って居なかったから、なんか新鮮だ。

「結構広いんですね。どこもこんなもんなんですか？」

「大体こんなもんだと思うよ。他のとこ行ったこと無いからよく分かんないけど」

「そうなんですね」

　部屋の一角にはドラムとキーボードがセットされてあり、それにアンプが三つ置かれて……ちょっと待て。なんで、こんな狭い空間に100W級のアンプが三つも置いてるんだ？100Wって言ったら、大ホールで使うようなクラスだぞ！　こんな狭いところで使ったら音でガラス割れるんじゃね？

　因みに言えば、ここなら50Wもあれば十分だ。

　部屋にある物を眺めていると、下の階から希乃さんの声が聞こえた。

「葉倉さん、トゥエルブさんコーヒーと紅茶どっちいい？」

「紅茶でお願いします」

「俺はコーヒーで」

　葉倉さんと紅茶……似合うね。イメージどおりだ。因みに俺はコーヒーを頼んだが……

　俺と葉倉さんは上着を脱いで洋服掛けにかけた。

「———お待たせー」

　希乃さんが飲み物を持って来た。

「へへー、実は隣の喫茶店、私んちなんだよ」

「そうだったんですか？」

「『喫茶希乃音（ののん）』って言うの」

「———早く言ってよ。昼飯超大盛りな定食ガッツリ食べちゃったよ」

　俺は一気に疲れが襲って来た。喫茶店なら、ほどよい量のナポリタンが食べれた筈だ。

「ふふ、ここで食べれば良かったですね」

「次回から宜しくね」

　そして持って来て貰ったコーヒーを一口———。

「（―――ニガッ！）」

俺は、皆に見えないようにこっそり砂糖を―――。

「―――トゥエルブなに砂糖三つも入れてんの！」

やばい！見つかってしまった！

「苦い」

　葉倉さんは呆れた顔をしたが、直ぐ、可愛らしく笑ってくれた。ホントこの子可愛いな。　

　・

　雑談も終わり、準備も済んで早速練習に入った。

「それじゃあ、一曲目いってみよう！」

“———カッ♪ カッ♪ カッ♪ ジャガジャーン♫”

「♬—♪♫——♬♬♫♩———♩———……」

　今日も絶好調だ。って言うか、彼女の声が更に俺達の音を乗せてくれる感じだ。しかし、彼女凄いな。今日初めてバンドで歌って、ここまで声出せるなんて……

「♬♬♬—♬♫♫—♫♬♪———……」

　うわぁ！　サビに入って、キーが上がったら　また、昨日のカラオケみたく脳天突き抜けてきやがった―――最高だ！

　・

　そして一曲歌い終わると、俺を含め、皆ビックリした表情で葉倉さんを見ている。葉倉さんは、俺達をキョロキョロと見て、またなんかやらかした？　って顔をしている。

　希乃さんが葉倉さんに尋ねた。

「初めてなんだよね？　バンド組んで歌うの」

「そうですよ。———どうかしたんですか？」

「———うんとね、カラオケって歌の部分のメロディーが聞こえるから誰でも歌いやすいのね。で、今の演奏って、歌の部分のメロディー入って無いんだよ。要は、葉倉さん自身で音階保たなきゃダメなんだけど、普通、初めて歌う人ってギターとかキーボードの音に引っ張られて音程取れなかったり、ウチらの演奏の音量に声量が負けて聞こえなかったりするの。でも、葉倉さんの歌い方って、初心者のそれじゃ無いもんだから、皆ビックリしてんの」

「そう言うもんなんですね？　確かに最初歌いにくいなって思ったんですけど———そう言う事だったんですね？　納得しました」

　なんか、葉倉さんご満悦だ。

　この調子で次の曲を歌い、そして歌い終わると入口に一人のおっさんが腕組みして立っていた。その後ろには小さい女の子が立っていた。