第5話 二人きりで
六限終了の鐘が鳴った。
俺は気だるい身体を起こして伸びをする。
「何とか耐えきったか」
今日はいつにも増して授業がきつかった。
内容がきつかった──というよりは俺のコンディションが良くなかったのだ。
その理由は言うまでもなく寝不足。
昨日は色々と考えすぎて、全然寝れなかった。
それに、葵とだってまともに話せていない。
何となく、無意識の内に昨日の事を思い出して胸が痛かったからかもな。
「はるくん~」
「あぁ、日向」
「何か眠たそうだけど、大丈夫?」
「いや~、六限の古典で体力をごっそり持ってかれてな。もう一歩も動けない」
「ふふふ。そんな事言って、本当は遅くまでゲームしてたんでしょ?」
日向の発言は当たらずとも遠からずといったところか。
確かに俺は葵と遅くまでゲームをしていた。
だけど、寝不足の理由はそうじゃない。
「......まぁ、そんなところかな」
まぁ、言えるわけないよな。
葵と恋ばなをして、不覚にも自分のミスで勝手に自滅して、色々考えすぎて寝不足だなんて。
「それでさ、この後なんだけど、はるくん時間ある?」
「どこか行くの?」
「うん。その、ちょっとはるくんと寄りたい場所があってね」
寄りたいところか。
確かに高校生になってからは三人で寄り道をして帰る事も多くなった。
コーヒーチェーン店の新作を飲みに行ったり、ファミレスでダベったり。結構活動範囲が広がったのだ。
あぁ、でも思い返してみれば本当に俺達は三人一緒なんだよな。
昔も今も変わらず、一緒に遊んで、一緒に学んで、一緒に育って──
「分かった。それじゃあ、葵にも伝えて──」
「──私は行かない」
「......え?」
突然聞こえた葵の言葉に俺は驚く。
それは、いつもの葵にしては声色が──何となく怒っているように聞こえたからだ。
「......今日はちょっと先生に頼まれてる事があるから行けない。二人で先に帰ってて」
「すぐ終わりそうなら、終わるまで待ってようか? もし、大変そうなら手伝っても良いし」
「ううん、大丈夫。大丈夫だから。私の所為で二人に迷惑かけられないから......」
そう言いつつ、葵は一歩も譲ろうとはしない。
どうせなら、三人でやった方が早く終わるだろうに。
「......葵もそう言ってるし、二人で帰ろう?」
そんな葵の態度を見てか、日向が二人で帰る事を提案してきた。
「......分かった」
何か大切な頼まれ事かもしれないし、仕方ないか。
「うん、別にお店に寄ったりするわけじゃないから......」
「......どこに行くんだ?」
「それは......秘密」
日向はどこに寄るつもりなのだろう?
全く検討がつかない。が、後で分かるだろうし、気にするだけ無駄かな。
そういえば、何気に日向と二人で帰るのは久しぶりだよな。
葵が熱を出して、学校を休んだ時以来か。
葵の様子が少し気になるけど、それは俺が変に葵を意識し過ぎている可能性もある。
まぁ、いつもみたいに時間が経てば全部元通りになるだろう。
そう、全部。
****
俺達は二人で並んで歩きながら、名も知れぬ目的地を目指す。
「はるくんと二人で帰るなんて久しぶりだね」
「そうだな」
「私たち、いつも三人だったから」
「......そうだな」
やっぱり二人きりの下校というのは新鮮で、だけど、ちょっぴり寂しいような気がする。
「はるくんは私と二人きりじゃ......嫌かな?」
「嫌なわけないだろ? 嫌だったら、こんなに一緒にいないって」
「......うん、そうだよね」
本当に何となくだが、今日の日向は少しそわそわしているような気がする。
歩くスピードだっていつもはゆっくりなのに、今日は何だが早い。
何か焦っているのか?
それに、寄りたい所があると言っていたが、今のところいつもの帰り道と変わらないんだよな。
「それで、俺達はどこに向かってるんだ?」
「それは──ここだよ」
「ここ?」
そう言われ、辿りついたのは近所の公園だった。
別にこの公園は何か凄い遊具があるとか、映えスポットがあるわけでもない。
強いて言えば、俺達が初めて出会って、長い時間を共にした思い出の場所という事くらいだ。
「うん、ちょっと話していこっか」
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