第4話 アオイ気持ち
これは私がはるとボイスチャットを始める少し前の出来事。
「葵~、今時間へいき?」
コンコンというノックの音と共に、お姉ちゃんのそんな声が聞こえてきた。
「うん。あと、三十分くらいは」
「じゃあ、ちょっと入るね」
ガチャリという音と共に、湯上がりのパジャマに身をつつんだお姉ちゃんが私の部屋に入ってきた。
「横、座っちゃうね」
そう言いながら、私の座るベッドの隣に腰を下ろしたお姉ちゃんを見て思う。
「やっぱりお姉ちゃんには勝てないな」と。
その整った顔立ちも、私より大きい胸も、誰にでも優しいその性格も。
全てが魅力的で、私なんか一つも勝っているところがない。
唯一、お姉ちゃんに勝っている所があるとすれば、ゲームの腕前くらいかな。
かと言って、お姉ちゃんが妬ましい、嫌いかと言われればそんな事はない。
そんな姉が自慢で、誇らしくて、私はお姉ちゃんが大好きだった。
「そういえば今日学校で食べたケーキ、どうだった?」
「凄く美味しかったよ、はるも喜んでたし」
「そっか、作って良かった~」
そういえばお姉ちゃんは料理も上手だったね。
お姉ちゃんの作る料理は絶品で、はるだっていつも喜んでいた。
そう。
はるはお姉ちゃんの料理が好きで、お姉ちゃんははるの事が......
「お姉ちゃんはさ、はるの事好きなんだよね......?」
「──そうだよ」
本当は前から気づいてたんだ。
お姉ちゃんは、はるの事が好きだって。
だけど、それを言葉として伝えられたのが昨日の夜。
確か、お姉ちゃんがパウンドケーキを作り終わった後の事だったかな。
もう一日経ったのに、私は未だに気持ちの整理がついていない。
「葵ははるくんの事、好きじゃないの?」
私はまだ気持ちの整理がついていない。
「別に......嫌いではない」
だけど、はるの事は嫌いじゃない。
どちらかと言えば多分──好き。
だけど、お姉ちゃんほどこの気持ちが本物なのか私にも分からない。
「私ね、明日はるくんに告白しようと思ってるの」
「──っ!」
やっぱり嘘。
きっとお姉ちゃんの方がはるの事を好きなんだ。
だってお姉ちゃんは自分の気持ちをこんなにも素直に言葉として表せている。
私のちっぽけな想いと、お姉ちゃんの本気の想いと比べるなんて失礼だ。
「ねぇ、葵。本当に私が告白してもいいの? 葵だってはるくんの事が── 」
「──私は違うっ!」
それなのに何でこんなに胸が苦しいの?
これじゃあまるで、私が本気ではるの事を好きみたい。
「私は違うから......」
でも分かっている。この気持ちのほとんどが友情なんだって。
「私はね、はるくんの事が好きだよ。ずっと、ずーっと前から好きだった」
きっとお姉ちゃんのものとは違うから。
「だから、お互い後悔はなしだよ?」
そうだよ。私はお姉ちゃんが大好きなんだ。
きっとはるよりもずっと──お姉ちゃんの方が大切だから。
だったら、最初から私の気持ちなんて決まってたんだ。
考える必要なんて、心の整理なんていらない。
「......私は応援するよ、二人の事。きっとはるもお姉ちゃんの事が好きだから」
お姉ちゃんの幸せが私の幸せだから。
「......分かった。告白は明日の放課後にしようと思って──」
だけど、二人が遠くに行ってしまうような気がして────ちょっと寂しいな。
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