第3話 友達
夕食を済ませて一息ついた所。
俺は昨日と同様に葵とボイスチャットに勤しんでいた。
葵は今日の昼の出来事などなかったかのようにいつも通りで、様子が少し変だったのは気の
「多分、その装備だったらスキルは振り直した方が良いと思う」
「了解」
今も葵の助言通りゲームを進めていた。
いつも通りの声色とその知識豊富なトークは普段の葵そのもので、やはり俺が気にしすぎなだけだろうか。
葵の悩み事を溜め込み過ぎる性格を考慮すれば、気にかけるのは悪いことではないかも知れない。が、葵ももう高校生だ。
昔みたいに過干渉というのもうざがられるし、俺もいつも通りを演じるに至ったわけで。
「はる、時間大丈夫?」
「あ~、そろそろお開きにするか」
「分かった、チャット切るね」
「おk」
「おやすみ」
「おやすみ」
すっきりしないままボイスチャットを切ろうとした時、
「──待って」
「葵?」
葵の声で通話終了ボタンから指を離す。
「今日さ──いきなり変な事言ってごめん」
「......」
「はるの事、あんまり考えてない発言だったかも......」
「全然気にしてないよ」
それは謝罪だった。
やはり今日の一件は葵自身も思うことがあったのだろう。
俺も別に怒っているわけではなく、どちらかと言えば何故様子が変だったのかが気になるわけで。
「それより何かあったの? 例えば日向と何か──」
「──っ!」
「葵?」
通話先の方でガタッとした音と共にノイズが走る。
葵は携帯電話を落としてしまったのだろうか。
俺の『大丈夫?』の声に遅れて『大丈夫』と返した葵はそれきり黙ってしまった。
数秒後、沈黙を破ったのは葵だった。
「何となくだけど、その、はるとお姉ちゃんが遠くに行っちゃうような気がして......」
「なんだそれ?」
「はるももう高校生だし、彼女とか作るのかなって」
彼女......か。
確かに俺もそういったことを考えないわけじゃない。
彼女がいれば──何て妄想もするし、彼氏彼女の関係に憧れだってある。
でももし、俺に恋人が出来たら葵と日向との関係も今のままじゃいられないよな。
そういった点では葵の言葉にも合点がいくか。
「あ~、なるほどな。だけど、その話に何で日向が出てくるんだ?」
「だって、はるとお姉ちゃんお似合いじゃん」
「お似合い......か?」
俺と日向がお似合いかと言われれば、甚だ疑問が残る。
だって、日向は可愛いし、実際にめちゃくちゃモテるのだ。
何の取り柄もない俺なんかと全然釣り合ってないからな。
まぁ、何をもってお似合いと言うのかは難しいところではあるが。
「うん。付き合ってるんじゃないかって噂もあるし」
噂......ね。
確かにいつも一緒にいるから、そういった噂があっても不思議じゃない。
でも、それだったら葵とだって噂になっても可笑しくないよな?
まぁ、実際はただ仲が良いだけで何もないんだけど。
「飽くまで噂だろ? そんなの気にする必要── 」
「──でも、はるだって満更じゃないんでしょ」
俺の言葉に被せるように葵はそう言った。
満更じゃないって......。
確かに日向は可愛くて、女子力高くて、彼女に出来たらきっと幸せなのだろう。
だけど、そうじゃない。そうじゃないんだ
だって俺は葵の事が──
「じゃあもし、本当に俺が日向と付き合ったら──葵はどうする?」
そう呟いて、俺は「やってしまった」と後悔する。
本当はこんな事を聞くつもりじゃなかった。
だって、俺はこの質問の答えを葵から聞きたくない。
葵の返答次第で俺は本当に傷ついてしまうから。
「私は......」
それなのに、ほんの少しの可能性に期待して俺は黙ってしまう。
もしかしたら否定して、ヤキモチを焼いてくれるかもしれない。
そんな自分に都合の良い甘い妄想をしてしまう。
だけど──
「私は──二人を応援する」
あぁ............聞きたくなかったよ。
「────っ! ......そうか」
「だからもし、お姉ちゃんと付き合う事になってもさ、まぁ、仲良くしてよ。私たち幼馴染みで友達なんだから」
友達......友達......。
その言葉が空っぽな俺の頭の中で何度も反芻する。
聞きたくなかったはずなのに、何故か胸のつっかえが取れたような、そんな不思議な感覚だった。
「そっか、そうだよな。俺たち友達だもんな......」
「......うん。その、それだけだから......ごめんね、呼び止めちゃって。おやすみ」
「......おやすみ」
俺は今度こそ、葵とのボイスチャットをきって、スマホを枕元に投げた。
「はぁ~~~~~っ」
ベッドにうずくまった俺は、今世紀最大の溜め息をつく。
「ははは......告白もしてないのに失恋ってとこかな」
まぁ、そうだよな。初恋は実らないって言うし。
俺と葵は幼馴染みでただの友達。
うん。別に今まで通りだよな。
「明日から葵の顔見て話せるかなぁ」
そんな事を考えながら、俺の長い夜が始まった。
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