第2話 俺の気持ち
昼休み。
チャイムと共に騒がしくなる教室で、俺は近くの席を動かし、昼食の準備に取りかかる。
繋げた席の数は三つ。
一つの机に二つの机が向かい合う様に並べ、いつもの形は整った。
それと同時のタイミングで、お弁当袋を持った葵と日向がやってきて、当然の様に俺の 前に座る。
「お腹すいたぁ~。今日はデザートもあるから楽しみだね」
「はる、ご飯食べた後は作戦会議ね」
三人で机を合わせて昼食を食べる。
これも高校に入ってからは当たり前の様になっていた。
前を向いて食べないといけない小学校や班のクラスメイトと机を繋げて食べる中学校とは違う。
自由に好きな場所で昼食を取れる高校ならではの特権だった。
とは言いつつもメリットばかりじゃない。
先ほどからこちらに──いや、俺個人に向けて中指を立てる一部の男子生徒の姿がちらほらと確認出来る。
理由はおそらく葵と日向関係のものだろう。
冬崎姉妹はクラスだけでなく学年でもとびきりの美人だ。
小さい頃からずっと見てきた俺だって、葵と日向以上の美人をこの学校で見ていない。
その二人を独占するように昼食を取っているのだから、妬まれても仕方がないよな。
まぁ、慣れもあってそこまで気にならないので良しとするが。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね」
そう言って日向が席を立った。
日向が戻ってくる前に食べ始めるのも可哀想だ。
どうせならこの時間にゲームの話を進めてしまおうかと考えていた矢先、
「ねぇ、はるって好きな人いるの?」
葵の突発的な質問に俺は驚く。
「い、いきなりなんだよ」
「ちょっと気になって。いるの?」
「......いない」
俺は平静を装って何とか答える事に成功する。
いきなりどうしたんだ。
葵がこう言った話をするのは珍しい。
葵との会話はお互いの趣味の話がほとんどで、今までこう言った『恋ばな』のようなものは皆無であった。
からかわれていると思って葵の顔を見るが、至って真面目な表情の葵を見るにそれはないと考える。
葵とこんな話をするのは何だかむず痒い。
一刻も早く別の話題に軌道修正をかけるべく、頭を回転させていたのだが、
「......じゃあお姉ちゃんの事はどう思う?」
「え......?」
俺は続けて発せられた第二の突発的な質問に胃を痛くする。
日向の事をどう思っているか。
そう聞かれれば『好き』と答えるだろう。
ただし、恋愛的対象として好きかと言われれば正直俺も分からない。
日向とはずっと一緒に居たわけだし、一人の人間として彼女を好いているのは間違えない。
それが恋愛に発展した時、自分の中の正しい答えを俺は見つけられていない。
それに俺は──
「............」
「はる?」
「日向はモテるでしょ。明るくて、女子力も高くて、可愛いし、嫌いな男子はいないでしょ」
「......そっか。じゃあ、はるも好きなんだ」
「好きって言うか......嫌いに慣れる訳がない」
ずっと一緒にいたんだ。嫌だったらこんなに長く付き合いがあるはずがない。
それに関しては葵にも言えることで、二人の事はきっと好きなのだろう。
葵も俺の返答が予想通りだったのだろうか、表情を崩すことなく、いつも通り相槌をうちながら聞いてきた。
正直俺のライフもかなり削られたので、いい加減話題を変えて欲しいと葵に目で訴えかける。
だが、そんな俺の訴えも虚しく、葵の質問はエスカレートしていく。
「じゃあさ、はるはお姉ちゃんと......付き合うの?」
「なっ......!」
なんでそうなるんだ......
今日の葵はいつもの葵らしくない。
いつもならこんな質問はしないし、何やら焦っているような感覚を覚える。
それに葵は俺の返答を待ちながら、指先で自分の髪を摘まんでいた。
これは葵が緊張している時にする仕草だ。
やはり、今日の葵は少し変だ。
「そんな簡単に......日向だって好きな人いるかもだろ? 俺なんて別に──」
「お姉ちゃん、はるの事悪く思ってないと思うよ?」
「そうかも知れないけど──だったら俺の気持ちはどうなるんだよ?」
「はるだって、お姉ちゃんの事が好きって────」
「それとこれとは話がちが────」
「ふふふ。二人で楽しそうに何話してたの?」
そんな時だった。
日向が戻ってきたのは。
正直最悪のタイミングだったと思う。
当然こんな話、本人の前で話せる訳もなく、何とか誤魔化さねばならない。
日向に嘘をつくようで心が痛いが、流石にこれは話せない。
「いや、それは──」
「ゲームの話」
そんな俺の言葉に被せるように葵が素早く答えた。
俺も葵に便乗して話を合わせ始める。
そんな俺達の様子を見て日向は、
「二人は仲が良いよね~」
とにっこり笑った。
日向は特に話を深掘りすることなく、この話題は終わった。
その後、日向特製のパウンドケーキを食べたのだが、どうにも味の方は思い出せそうにない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます