ぼくはずっとひとりぼっち

僕はいつも一人だ。

僕と遊んでくれる子が何人か過去にいたことがあったけど、みんなすぐに僕の前からいなくなってしまった。

友達なんてできたことなかった。

友達ほしいなぁって思うことが何度もあったけど、いらないって強がった。

だって、僕に友達なんてできるはずがない。

きっと、ぼくはずっと一人なんだろうなぁ。

そういう運命なんだろうなぁ。


でも、ひとりでいることが運命だと思っていたのに、

ぼくのまえに一人の女の子が現れた。


「君はいつもひとりだね」

「うん」

「そこで何してるの?」

「なんにもしてないよ、ただこうやって自然の風景をぼーっと眺めているだけ」

「それ、楽しい?」

「楽しくないよ」

「たのしくないのになんでそんなことするの?」

「だって、ほかにすることないから」

「遊んでくれる友達はいないの?」

「友達、といえるかどうかはわからないけど、遊んでくれる子は何人かいたんだ、

でも、みんなすぐいなくなっちゃうんだ」

「薄情な子たちだね」

「ううん、僕が悪いんだ」

「じゃあさ、私が友達になってあげるよ」

「え?」

「私と一緒に遊ぼうよ」


それから僕と彼女は遊ぶようになった。

いろんなことをして遊んだ、鬼ごっことかかくれんぼとか。

たった二人だったけど、それで十分だった。二人だけで僕は幸せだったのだ。


ある日、遊ぶだけ遊んだあと、帰る前に彼女は言った。

「楽しいね、こんな時間がいつまでも続けばいいのにね」って。

「うん、そうだね、それは最高だね」

なんて言ったけど、ぼくはそれは無理だってわかってたんだ。


さらに月日が経って、彼女と日が暮れるまで遊んだ日のことだ。


「本当はね、この森には入るなって、お父さんとお母さんに言われてるの」

「どうして?」

「ここには化け物が出るんだって、それで襲われるかもしれないからって」

「じゃあどうしてここにくるの? 化け物に襲われるかもしれないのに」

「だって、君がここにいるから。あ、そうだ、君もここから出ればいいじゃん」

「だめなんだ、それは」

「なんで?」

「なんでって……」

「まぁいいや、きみがここにいるなら私もここにいるから」


 そう言って、鬼ごっこを続けようと走り出した彼女だが、途中でピタッと止まった。


「あ、もうこんな時間、パパとママに怒られちゃう、じゃあね! また明日!」


彼女は眩しい笑顔を見せて、帰っていく。

彼女が帰って僕はひとりになってしまった。

このひとりの時間は寂しくて嫌いだ。

と思ったら、誰か来た。

大人二人組だ。

心配そうに、誰かを探している。

そういえば、お腹がすいてきたな、と思った。


次の日、彼女は泣きながら、僕の元へ来た。

びっくりして、どうしたの? と訊いた。


「お父さんとお母さんがね、死んじゃったの」

「あ……そうなんだ……」

「わたし、ひとりになっちゃった」

「ひとりじゃないよ、僕がいるよ」

「そっか、そうだね、でも、もう、わたしには君しかいないんだ。ねぇ、きみは、私の前からいなくならないよね?」

「……うん」

「よかった」

安心した表情の彼女。

僕の心の中はそんな彼女とは正反対だった。


その日の夜は、ずっと苦しかった。


次の日の朝、また遊びに来た彼女に僕は言おうとした。

「ねぇ、実は僕ね」

「うん、なに?」

「ば……」

「ば?」

「ごめん、なんでもないや」

「変なの」


言えなかった。言ったらすべて、終わるだろうから。

でも、言わないのもそれはそれで苦しかった。

だって、君の両親は……。


それからも君と二人で遊ぶ日々が続いた。

遊べば遊ぶほど、君のことを好きになった。

同時に、食欲も増していった。


好きという気持ちが抑えられない。

食欲が抑えられない、

彼女が好きだ、好きだから食べたい。

でも、同時に好きだから食べたくない。

食べたいけど、食べたくないよ……。



たぶん、この先君といれば、もっともっと君を好きになるんだろう。

ああ、君とずっと一緒にいたいなぁ。いつまでもいっしょにいられたらなぁ。

でもさ、だめなんだ。

だって、ぼくは、ずっと君といる間、君を食べたいと思っていたんだ。

ぼくね、じつはこの森で恐れられている化け物なんだ。

人間を食う化け物なんだ。

僕に近づいたものはみんな食べちゃったからぼくはずっとひとりだったんだ。

近づいてきた人間の中でこんなに長い間食べずにいた人は、君が初めてだったんだ。

君を好きになればなるほど、食べたいと思う。

その一方で、君を好きになればなるほど、食べたくないとも強く思うんだ。

その矛盾した感情に頭が狂いそうになる。

僕はどうすればいいんだろう。

今は、君を食べたい衝動を抑えられている。

でも、もう抑えられそうにない。

次会ったら、きっと僕は君を食べてしまう。

だから、お別れをしよう。

君を食べてしまう前に、僕はどこかに行こうと思うんだ。



「あれ、どこ? いつもここらへんにいるのに? あれー?」


なんて無邪気な顔で言いながら、彼女はうろちょろしている。

そんな彼女を、僕は遠くの木陰から見つめていた。

僕は彼女に背を向けて、その場から去った。

さぁ、彼女に二度と会わないように、遠く遠くへ行こう。

さようなら、君といる時間は幸せだった。

僕のいないところで、どうか幸せになってください。

僕はひとりでこれからもずっと生きていこうと思います。

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