美しい花

「なんて美しい花だ」


 素敵な男性が私を見て、近づいてきた。


 ああ、だめ、私をそんなに見ないで、

 私、本当はそんなに美しい花じゃないの。

 ダメよ、近づかないで、醜いのがばれちゃう、

 だめ、だめよ、来ないで!

 だめ……!


「ひっ!」


 あーあ、

 だから近づくなって言ったのに。

 私は目の前の男を大きく開いた口で、飲み込んだ。

 ぐちゅぐちゅ、ばくばく、ごくん、

 あー、おいしかった、ごちそうさま。


 またやっちゃったわ、私。

 でも、近づかれると、衝動を止められないのよね。

 しかたないわよね、うん。


 これまでも、たくさんの男を食べてきた。

 そして、これからも、そうするんだろうと思っていた。


 なのに……。


 ある日、全然好みじゃない、ブサイクな男がこちらに来ました。

「なんて美しい花だ」

 よく言われることを彼は醜い顔で言う。

 はいはい、そんなことあなたに言われても喜ばないんだから。

 近づいてくるけど、あなたはたべないわ、このみじゃないもの。


 彼は次の日も、私の元へ来た。

 また来た、と思っていると、

 私のすぐそばまで来て、私に水をかけてくれた。

 ふん、そんなことしても、嬉しくないんだから。


 彼はその次も、その次の日も、私のところへ来て、水をかけてくれた。

 私はあきれた。

 よくあきないわね、あんたも。

 もし、あなたが私の醜い姿を見たら、どう思うのかしら?



 ある日、久しぶりに、好みの男が私の元へ来た。

 「なんて美しい花だ」

 とまたお決まりのセリフを吐いた。

 不用心に近づくその男を、また私は醜い姿を曝け出して、ぱくりと食べてしまった。

 ごちそうさまでした、おいしかったーと思っていると、視線を感じた。


 あのブサイクな男が少し離れたところで、私を見ていた。

 あーあ、ついに見られちゃった。

 これでもうあいつは来なくなるでしょうね。

 まぁ別にいっか。全然好みじゃないし。

 これでせいせいしたわ。


 しかし次の日、

 なんとあのブサイクな男は私の元へ来た。

 「なんて美しい花だ」

 と言って、私の傍へ来て、水をかけてくれた。


 なによ、こいつ、なんでまだくんのよ。

 なんで私をまだ美しいと言うのよ。

 本当の姿、見せたでしょ、もう来ないでよ。


 もう来てほしくないのに、彼はそれからも来た。

 全然好みのタイプじゃないのに、だんだん彼を食べたいという思いが出てくる。

 でも、食べたくないとも思った。

 よくわからないわ、食べたいのに、食べたくないとも思うなんて。


 彼はそれからも私の元へ訪れる。

 このままじゃそのうち、抑えられなくなる。

 お願い、もう来ないで。


 もうだめ、もう抑えられない、

 次に来たら、私はきっと彼を食べてしまう、

 そう思っていた時、私の元に作業服姿のとこたちが来た。


 手になんらかのスプレー缶を持っている。

 嫌な予感がした。


 彼らはスプレーを私に一斉にかけた。


 ああああああああああ!

 いたい、いたいいたいいたい!

 やめて、なにこれ、ああああああああ!


 急速に体から力がなくなっていく。

 数分後には、私はしおしおになっていた。


 作業服姿の男たちが去ったしばらく後に、あのブサイクな男が来た。

 彼は私を見て、泣きだした。


 バカな人。

 ああ、私、あなたを食べなくてよかった。

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