好きって、知ってるんでしょ?
一目惚れをした私が言うのもなんだが、晴彦に惹かれていくのに、時間はかからなかった。隣の席に晴彦がいる事を良いことに、私は黒板を見るふりをしながら、ちらちら晴彦を見つめていた。机に頬杖をついて、ぼーっとノートを取るでもなく、真剣に授業を聞くわけでもなく、大あくびする晴彦。
横顔、くちびる、止まったままのシャーペンを持つ指先。
(あぁあ…好きだな…)
そう心の中で呟いた時、晴彦がくるっと首を傾げ、にやけた。なに?って。私は慌てて黒板に視線を戻した。そうしたら、隣で息だけの笑い声がした。
(笑われた…。何よ…勝手に視界に入ってくるんだから…)
私は思わずツンとした。授業終了のチャイムが鳴って、ぼーっとしてると、隣から、
「おい」
「…」
「おい、薫」
「え?」
「みんな立ってる」
「あ!」
礼をする為、みんなが私が立つのを待っている事に気が付いた。
「すみません!」
クラスにくすくすと笑い声がちらほら零れた。完全に赤っ恥だ。理不尽だけれど、私は晴彦を、恨んだ。先生が教室から出て行くと、隣でまだ晴彦が笑っている。私は、わざと気にしないふりをして、トイレに立った。…本当は少し、そんな日々に期待を抱いて過ごしていた。晴彦は、笑わない。特に女子には。そんな晴彦に、私は聴いた事があった。
「晴彦は…彼女いないの?」
「いないけど?」
「…ふーん…。なんで?」
「別に。めんどーだから」
「そっか」
そう言って、思わず晴彦に目をやると、晴彦はいきなり私の方へ手を伸ばしてきた。そして、何をしたと思う?晴彦は、平気な様子で私の黒髪を、左の親指と、人差し指と、中指で、一センチくらいの太さの束を握ると、
「薫の髪って、綺麗だな」
と、言った。心臓が…飛び出るかと思った。涙が…出そうになった。きっと、顔は赤くなっている。やばい、と思った。このままじゃ、好きだって、言ってしまう…。そう思った私は、
「馬鹿!女の子の髪、勝手に触んないでよ!」
つい、叫んでしまった。…今度はきっと、涙目だ。
「薫?」
「…………好きって……知ってるんでしょ?」
…私には、長すぎる沈黙だ。どうして?すぐ、ダメって、すぐ、ゴメンって、すぐ、ありがとうって、言えば…言えば良いじゃない。私は、震える手をグーにして、立ち竦んだ。
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