晴彦って呼べよ

「晴彦、またお昼それだけ?」


「うん」


 あんぱん一個とミルクティー。モグモグと甘ったるいパンと飲み物をほおばる晴彦に、私はお節介を焼いた。


「もう…そんなんばっか食べて…栄養取らないから、そんなにヒョロヒョロなんだよ。それに猫背、治しなよ!」


「へいへい」


「もう!」


 全く聞いていません…と装いながら、笑顔で私を見る晴彦。



 ―――…、そう呼ぶのは、私には簡単な事ではなかった。私は目立つタイプではなかったし、男子と積極的に接する方でもなかった。それなのに、私が坂本晴彦を、と呼び捨てにしているのは、全く私の意志ではなかった。



「坂本君、今日、リーダーのノートの提出日なんだけど…」


「あぁ…そうだっけ?やってないや…薫、見せて」


(かっ!薫!?)


 いきなり名前を呼び捨てにされ、私は飛び上がりそうになった。嬉しくてじゃないよ?本当に驚いて。


「さ…坂本君…頭いいんだから、私のノートなんて見なくても…」


「晴彦って呼べよ」


「え?」


「薫は、晴彦って呼べよ」


「よっ呼べないよ…」


「なんで?」


「え?だって…そんな…は…恥ずかしいし…」


「へー。やっぱ薫って可愛いな」


 私は、もう戻れない。そう、思った。その日から、私は坂本君の事を

 と強制される形で、呼ぶことになった。

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