坂本晴彦はイヂワル

     おんなじクラスの坂本晴彦

 坂本晴彦さかもとはるひこに初めて出会ったのは、高校の入学式。明らかに気怠そうに、新入生のくせに、校長先生の挨拶の時にあくびなんかしちゃって…。そんな姿が、ヒョロっと細くて、背が高いから、尚更目立っていた。猫背で、いちいち面倒くさそうに体を揺らす。


 印象…なんだか不真面目そう。それなのに、私は、そんな彼に、一目惚れしてしまった。その後、驚いたことに、新入生代表で壇上に立ったのが、彼だったのだ。


(頭…良いんだ…)


 私が、彼について、外見以外で知った最初の情報は、それだった。でも、その時、私はまだ、知らずにいた。彼と私がどんな関係になるのかを…。


「これから、先生方、先輩方のお力をお借りして、勉学、人との関わり、色々な事に挑戦する心を育み、精進していきたいと思います。新入生代表、坂本晴彦」


(…さかもと…はるひこ…)


 私は、心の中で呟いた。入学式が終わり、退場する学生の渦。教室に誘導される列の先に、ヒョロっとした猫背が見えた。私の胸が、ちょっと高鳴るのを感じた。





(うそでしょ…!?)



 そう驚嘆した私の隣には、坂本晴彦がいた。同じクラス?隣の席?なんの冗談だろうか…。思わず下を向く私に、坂本晴彦がこう言った。


「あんた、名前は?」


「へ?」


 いきなり、名前を聞かれて…いや、『あんた』と呼ばれた事に驚いて、素っ頓狂な声を出した私に、坂本晴彦はもう一度尋ねた。


「名前は?」


「あ…広瀬薫ひろせかおる…」


「ふーん。薫か。よろしくな」


 坂本晴彦は、いきなり、私の名前を呼び捨てにした。私が、どんなに泣きたくなったかも知らないで…。





 その日から、彼は、おんなじクラスの坂本晴彦。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る