第7話 夢は現実となる
ワープ床のある自宅まで戻る。お母さんに「学校はどうしたの」と声をかけられた。「それどころじゃないから」と息も絶え絶えに返事をする。変な言い訳なんてする必要はない。私がこれだけ血相を変えられるものなんて、この世に一つしかないのだから。
「何ができたの?杖?」
久々にアリスの家に上がり込んだ。相変わらず、森の匂いがする。野性的だが、どこか風情がある。なんだかんだこの空間は好きだ。
「似たようなもんかね」
「もったいぶらないで教えてよ」
「焦るでない。……今回だけは、あんたの頑張りに免じて、タダでくれてやろう」
そう言って差し出したのは、やっぱり魔法の杖だった。別に杖なぞなくても魔法は出せる。最近は自身が魔法さえ使えれば、対応しているスマホからも出せるそうだ。スマホウ、とかいう正気の沙汰ではないキャッチコピーは、かなり評判が悪かった。
厳かな面持ちで、その杖を受け取る。木の材質はなんだろう。かなり上等なもののように感じる。杖の目利きはできないので、あくまでも素人目ではあるが、割と気に入った。
試しに杖を軽く振る。しなやかな感触が腕に伝わる。それと同時に、なんだか息苦しさを覚えた。呼吸を深くするも、酸素があまり送られていないような気がする。全身が水で覆われているようだ。
「どうだい。何か変わったかい」
ニヤニヤと自信気な笑みを出している。
「ちょっと息苦しい。それと、思うように動けない」
「ほう。それはそれは。どうやら上手くいったようだね」
「どういう仕掛けなの」
「習うより慣れろってやつさ。試しに魔法を詠唱してみな」
言われた通り、まずは魔力を溜めるために目を閉じる。
「なにやっている。魔力を溜めるな」
「え。でも、溜めなきゃ発散しちゃうじゃん」
「その”溜め”をなくすための仕掛けなんだよ」
頭のはてなは取り除かれないが、言われるがままに詠唱を開始する。とりあえず簡単なものから。杖を前に構えて。
「───ファイアー」
そこそこ大きい火の玉が、杖の先から景気よく飛ばされた。すぐさまアリスの水魔法により空中で消火される。
「あんた、この家を燃やす気かい」
こんな感覚は初めてだ。これは驚いた。あまりの感動に言葉を失う。
私は今、魔法を使った。
今までの人生で叶うことのなかったことを。妄想でしかなかったものを。現実にした。喉の奥がヒリヒリと悲鳴をあげたがっている。
「どうやら上手くいったようだね。仕掛けとしては単純さ。体から発散される魔力を逃げないように包んで、体の周りに蓄積させる。その魔力を元に、魔法を繰り出す。杖を振ると、目には見えない薄い膜が、全身を覆うようなつくりさ」
「あ、あ、あり」
ようやく絞り出された言葉は、ロケットのように発射された。
「ありがとうございます!!!」
「これしきのことで、うるさいねえ。まあ、礼を言われるのは悪い気がせんがね」
何世紀ぶりかねぇ、と柄にもなく人間くさいアリスを尻目に、次はどんな魔法を試そうか、子供のように想いを募らせていく。
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