第2話 それが日常

あれから一週間が経った。


「学校とやらには行きな。ずっと面倒見ていられないからね」と魔女アリスに言われ、今は地元に戻り、普通の高校生活を送っている。変わったことといえば、あの森には生息していない生き物や植物を採集し、転送機能のついた箱に入れるようになったぐらいだ。


「よくカエルなんて捕まえられるねー」


昼食を早々に終え、中庭で生き物を捕獲している私に向かってミオはありえない、と言いたげな目線を送る。可愛らしいミオからすれば、ゲテモノを見るような光景だろう。


「しかし、ずいぶん古典的だよな。今どき魔法薬を生き物から生成するだなんて」


トキは興味深いといった様子で何やら分析している。相変わらず、お堅いメガネ野郎だ。


この二人とは幼なじみで、たまにこうして食事をとることがある。男子であるトキはあまり気乗りしないらしいが、無理を言ってお願いした。事情が事情なだけに変な目で見られることはないだろう。


「こんなことで魔法が使えるようになるってほんとー?」

「あくまで教えて貰うための仕事だから。逆に、これだけで教えてもらって魔法が使えるなら、安いもんだよ」

「魔女に教えてもらうからといって、確実に使えるわけではないだろう。マホの魔法音痴っぷりは僕らがよく知っているはずだ」

「うーん。まぁ使えるようになるといいねー。がんば」


二人とも他人事だと思っている。今にみてろよ、と反骨心に火がつくには十分すぎた。


「それで、このカエルってここら辺にしかいないの?」


カエルを転送ボックスに入れながら、トキに質問する。


「だと思うけど。生物についてはあまり詳しくないから分からないぞ」

「魔法学は座学だけ学年2位なのに?」

「関係ないだろ」


トキは若干悔しそうに唇を結び、弁当をかきこむ。ちなみに、魔法学の座学トップは私だ。どれだけいい成績をおさめても通知表の「0」には変わりないのだが。先生からも「他の教科もそれだけ頑張れたらな」と愚痴られたことがある。やはり好きなものというのは、どれだけ努力しても苦にならない。特に今は、ようやく魔法を使えるようになる(かもしれない)段階まできているので、尚更だ。


「でもこの前の実技すごかったよー。教室の窓から見てたんだけど、箒に乗って空中で3回転しちゃうんだもん」

「見かけによらず運動できるよね」

「ねー」

「なぁ、そろそろ戻っていいか」


これだから来たくなかったんだと小声が漏れているのを私は聞き逃さなかった。ミオと二人で誘ったのは正解だった。いくら男子といえど、女子二人にお願いされれば何らかの圧力を感じて屈するだろうと考えたのだ。


トキは魔法学に精通している。とりわけ実技に関しては学年で右に出るものはいない。学校トップ、はさすがに言い過ぎかもしれないがそれだけの実績がある。アリスから直接教われない以上、今はこいつに頼っている。


「魔法学の先生に見てもらったらどうだ。僕より詳しいぞ」

「やだ。私、目つけられているし。それに、魔女アリスと会ったなんて言ったらどうせ騒ぐでしょ」

「歴史の教科書に載っているほどの人だもんね。ミオはまだ信じてないけど」

「同じく」


気づけば二人とも弁当を食べ終わっていた。信じてもらう必要なんてない。魔法使いにさえなれれば、それ以上のものはいらないのだから。


時計の針が進みすぎたようだ。キーンコーンと終わりのチャイムが鳴る。トキはこれ幸いと、足早に教室へと戻っていった。


「変なことされたら、早めに相談してねー」


ミオと一緒に教室まで戻る。転送ボックスが赤く点滅していることに、私は気づかずにいた。

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