第4話

「はっはっはっ! 」


 家族で晩ごはんを食べているとき、お父さんが大声で笑った。お母さんと妹も一緒にくすくすと口を両手で抑えていた。俺が今日起きた出来事を話したんだけど、それが面白かったみたい。


 特に爆笑してたお父さんは、涙をぬぐって俺にこう言った。


「お前、すごい小説考えたな! 」


「ち、違う。本当にこういうことがあったんだ」


 俺は少しいらいらして言い返した。


 誰にも信じられないとは思ってたけど、まさか大笑いされるとは予想してなかった。


「ほひいちゃん(おにいちゃん)? 」


 すると、隣に座っている妹が肉をくわえたまま俺の肩をつんつんしてきた。なんとなく、ニヤニヤした表情で変なこと考えてるような気がする。


 妹は口の中の肉が全部なくなったところで、はなし始めた。


「ねえ、小学生の時、お兄ちゃん、すみれって人にフラれたんでしょ? その人使って妄想してるの? 」


 疑問形だけど、確実にからかう意図があるぞこいつ。小学生のくせして、生意気だな。


 で、便乗するように、お父さんがまた嬉しそうに口を開く。もう、やめてくれ。


「なあ、お前、高校二年生だろ? もうそろそろ脳がおっさんになってきてるはずだが、それくらいの創作ができるんだったら、お前ひょっとしてがんばったらプロの作家目指せるんじゃないか? いや、ここはひとつ絵を習って漫画家目指すのもいいなあ……」


「お父さん、駄目よ」


 すると、さっきまで見てるだけだったお母さんが突然会話に参加してきて、お父さんにこう言った。お父さんは妻にはなかなか逆らえないらしく、お母さんの言葉を聞いて、止まらない口を閉じた。


「たけるにはあなたみたいに不確実な人生を歩んでほしくないの。まずは勉強よ」


 お母さんは険しい顔だ。


 そう、俺のお父さんは投資家。決して安定した職業じゃないし、なんなら常に壊れる可能性と一緒に生きてるようなもん。お母さんはそういう生き方を子供たちにさせたくないらしい。


 けど、お父さんはその点はだいぶお気楽だった。だって彼は実際に成功してるし、そのおかげで俺たちはこの田舎町ではだいぶお金持ちな方だった(もちろん、上には上がいる)。ベランダのついてるまあまあ高い一軒家に住んでるし、俺と妹は両方私立の学校に通ってる。


 この辺はお互い相容れないとこだろうなぁ。


 そうしてごちゃごちゃ話してる間に、俺たちはごはんを食べ終えた。食器をかたずけるとき、妹はわざわざ近くまでやってきて、「すみれちゃんとの物語、続き楽しみにしてるね! 」と耳打ちしてきた。


 こいつ……


 それから、俺は風呂入って宿題やって、今日はいつもよりはるかに早い時間に就寝の準備ができた。ちょっと余裕あるから、俺は二回の広いベランダまで行って、ハンモッグに寝っ転がって夜空を見ていた。


「きれい」


 俺は無意識に、こう小さな声で言った。まるで、イルミネーションみたいに並べられて光る星たちは、幻想的だ。


 そしてずっと星を見ていると、なんだかそこから声が聞こえるような気がしてきた。いや、俺が勝手にそう感じてるだけだけど、なんとなく呼ばれてる気がする。


 流れていく夜空が、俺を手招きしてるみたいに。


「おいで……おいで……」


 そうやって俺を呼ぶ声が、だんだんと強くなってくると、俺は意味もなく立ち上がって、うつろな目でどこかを見つめた。ここから下って、あっちの田畑のほうから声が聞こえる。夜空から聞こえてると思ってたけど、違う場所から聞こえていた。


 なんだか俺は無性にいきたくなった。


 一階に降りて、俺は家族が自分の部屋に戻ってたり風呂に入ってたりしてるのを確認してから、家の扉を開けた。そして声がするほうへ、何も思わずにかけていった……



 田畑に着くと、俺は周りを見渡した。さっきまで俺を呼んでた声は消えていて、誰もいない暗い場所にぽつんと、立ってるだけだった。


 あれ? 俺、なんでこんなとこきたんだっけ?


 意味が分からなくなって、来た道を引き返して戻ろうとしたとき、そのときになってようやく、声が聞こえてきた。でも、今の俺は冷静だった。嫌な予感を感じて、俺は今日神主さんに言われた言葉を思い返した。


「今日の夜、お前さんを呼ぶ声がするが、反応してはならん」


 もしかして、それ? 神主さんの言う通り、霊獣が俺を殺しに来たってこと?


 びくびくして、俺は声のするほうを振り向いた。すると、そこには人魂みたいなのがあって、その真ん中にひとりの女の人がたっていた。


「……な、なにか御用でも? 」


 ごますりみたいに、俺は言った。すると女の人はにやりと笑って、舌をベロっとやった。


「久しぶりの、おごちそう」


 そういうと、女の人から今日神主さんからも出てた黒い邪気が、あふれ出した。まずい、まずい!



 「うわああぁぁあああ! 」


 もうとっくに手遅れで、目の前には巨大な化け物、霊獣がよだれを垂らして雄たけびを上げていた。



 


 


 


 


 


 


 


 


 

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