第012話 出発

 僕たちは魔法の町へ帰ってきていた。

 町の人々と盗賊団の戦いは、初めは町の人々が押されていたものの、盗賊団四天王の作り出した分身が消えたことで、町の人々が逆転勝利をおさめた。


 ゲンの持ち帰った魔道書はそれぞれの持ち主へと返され、魔法の町には平穏が戻った。


 町に帰ってきた次の日、朝から僕とゲン、ラキ、セブンの四人は、以前と同じようにカフェで話をしていた。

 ラキの今後についての話し合いである。


「お願い。私も行っていいでしょ?」


「ワガママを言うな。旅は大変なんだぞ。おまえにやっていけるとは思えん」


「やっていけるもん。この二人がついているんだから」


「それはそうだが……」


 この二人だけでの話し合いでは、なかなか話の決着がつきそうにない。

 僕はラキへの助け舟を出した。


「僕からもお願いします。ラキの気持ちをんでやってください」


「そうですか。ゲン殿はどのように考えておられるので?」


「賢者として言わせてもらえれば、ラキは旅立ちの時を迎えたのだと思います。宿命とでも言いましょうか、ラキはいまがその時なのです」


「左様ですか。賢者殿がそこまでおっしゃられるのなら、いたしかたありませんな」


「えっ、それじゃあ、いいってこと?」


「ああ、そうだ。我が町は彼らの救済に何かしらの形で報いなければならない。だからおまえが旅をしつつ、町の人々の代表として恩返しをするということにしよう。どうだ? 文句はあるか?」


「ううん。それでいい。私、頑張るわ」


 こうして僕とゲンの旅はラキを含めた三人の旅となった。


「ところで、この町を出たらどこへ向かうのですか?」


「とりあえずは魔城の方へ行こうと思います。城下町にはたくさんの魔道書がありますので、ラキやレンが経験を積むにはいいのではないかと思いますから」


「経験ですか。やはり旅は過酷だからというわけですね。あなた方の旅の最終目標というのは――」


「神に会うことです」


 ゲンはセブンが言い終わる前に言った。


「神に!? それは畏れ多いことを。ラキなどがいてもよろしいのですか?」


「はい。それも神の導きです。僕は導きの賢者。僕がレンやラキを導くということが、神が僕へ与えた導きです」


「そうですか。それではラキをどうかよろしくお願いします」


「もちろんです」


 セブンが丁寧に頭を下げたので、ゲンも頭を下げた。

 僕も一緒になって頭を下げた。


「ではそろそろ出発するとします」


「そうですか。お気をつけて」


 僕たちは別れの挨拶を笑顔で済ませた。

 僕たちが去ろうとすると、セブンが思い出したようにひと言付け足した。


「そうそう、最近、町の外では黄色い野生のブタが出没するそうですよ。とても獰猛どうもうで、怪我人もたくさん出ているという話を聞きます」


「ご忠告ありがとうございます。では」


 僕たち三人はついに魔法の町を後にした。

 ラキはなぜかとっても楽しそうにしている。


「ねえ、魔城ってどこら辺にあるの?」


 僕は気になったことをそのままゲンに訊いた。


「そんなに遠くはないよ。速く走ればね」


「じゃあ走ろうよ」


「なんで?」


「だって……」


「ブタが怖いとか?」


「せっかくセブンが忠告してくれたしさ」


「いや、賢者としては黄色いブタの現状を確認しておかなければならない。君にとっても刺激的な体験ができていいんじゃないかな」


「でも、ラキは……」


「私はいいよ。移動するときくらい魔法を使わないでゆっくりしたいもん。旅っていうのは楽しまなきゃ」


「ラキまで……」


「ほらね」


 二対一。僕は肩を落とした。

 しょうがない、彼らに従おう。

 仮に黄色いブタに出くわしたとしても、所詮はブタだ。いまの僕なら軽くあしらってやれるだろう。そう信じたい。


「ねえねえ、ゲン」


 ラキは黄色いブタと聞いてからずっと目を輝かせている。

 ラキがなにをそんなに楽しそうにしているのか分からなかったが、次に出てくる言葉がそれを教えてくれた。


「黄色いブタって食べられるの?」


「たぶんね」


 どうやら昼飯か夕飯は黄色いブタの狩りをしなければならなさそうだ。


 僕は見慣れたゲンの微笑と、ラキの楽しそうな笑顔を見て、僕だけが憂鬱ゆううつな顔をしていることに気づく。

 二人のマイペースぶりには呆れるものがあるが、自分自身の悲観的思考には余計に呆れてしまう。


 しかし、親友と新しい仲間の会話を耳に入れているうちに、いつの間にか僕にも笑みがこぼれていた。

 結局のところ、僕もどこかで旅を楽しんでいるのかもしれない。

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