第010話 対決

雷光らいこう一閃いっせん!」


「バカめ。それは避雷針がある以上、絶対に俺には当たらん」


 ラキの発した電撃はあっけなく避雷針に吸い寄せられてしまう。


業火ごうかきらめき!」


「ウォーター・バリア」


 水の壁に包まれたリフトは、足元から上がった炎をもろともしなかった。


「無駄だ」


「くそっ。これでもくらえ」


 僕は石ころを出現させ、それを投げた。

 できることならラキのように何らかの魔法でも出したかったのだが、僕にはそんな力はない。


「おまえ、まさか石ころしか出せないのか? 雑魚め、さっきはよくもやってくれたな」


 リフトは錬金魔法で鉄の剣を出し、襲いかかってきた。振りかぶったところで僕にできる唯一の防御魔法を唱えた。


「石壁!」


 ガキンッという剣が石を叩く音が響いた。


「チッ、鬱陶うっとうしい」


 リフトは壁を回り込んで再度襲いかかってきた。


「石壁!」


「またか、下等魔法しか使えない雑魚のくせに小賢しい」


 リフトは再度回り込んで僕を見つけ、剣を構えた。

 だが、僕は閃いた。リフトは石壁を壊せない。石壁も使い方によっては、防御以外の効果を発揮できるのではないか。


「石壁、石壁、石壁、石壁!」


 僕は石壁を立て続けに出した。

 デタラメに出したわけではない。リフトを囲って閉じ込めたのだ。


「何だこれは」


 剣で石壁を叩く音がする。


「ラキ、水の魔法で溺れさせたりできる?」


「無理よ。私のあれは私が発生源だもの。レンこそ、細い石壁とかであいつを押しつぶせないの?」


 そうだ。その手があった。


 僕は細い石壁をイメージした。細い石壁。壁を細く。そうだ、幅は太くしなきゃ。


 そして僕の中でそのイメージは完成した。これだ、僕の新しい魔法。下から敵を突き上げる攻撃の魔法。


「石柱!」


 石の塊がせり上がる音がする。


「突き上げろ!」


 そう叫んだ瞬間、大きな音が響いた。


「ぐはぁっ」


 僕が石壁のイメージを解くと、リフトを囲んでいた石壁は消え去り、丸い石の柱が天井へと伸びており、リフトを天井へめり込ませていた。


 僕が石柱のイメージを解くと、リフトはドサッと地面へ落ちた。


「畜生が」


 しぶとくもリフトは立ち上がった。


「まだやるってのか」


「三倍にして返す」


 僕は少し後ずさって間合いを開けた。

 そのとき、リフトの出した避雷針が目に映った。


「まだあったのか……」


「下等なおまえと違って、俺の錬金魔法は簡単に消えたりはしないからな」


 リフトは勘違いしている。というか、錬金魔法で出したものを自分では消せないものだと思っているらしい。

 僕は確かに消すつもりで石壁の魔法を解いたんだ。


「どうだ。その避雷針がある限り、雷魔法は俺には効かん。炎も風も防げる。おまえの物理魔法の攻撃力にも限界がある。おまえらに勝ち目はない」


 リフトは再度剣を持ち、僕の方へと詰め寄ってきた。

 たしかに石柱なんかじゃ攻撃力が知れている。もっと尖っていれば威力は上がるかもしれない。

 僕はそう考えた瞬間、ハッとした。そうだ、尖らせれば。


雷光らいこう一閃いっせん!」


 突然ラキが電撃を放った。

 それはリフトめがけて飛んでいった。


「おっと、危ない」


 リフトは間一髪のところでかわした。ラキの電撃はリフトの後ろにあった避雷針に吸い込まれて消えた。

 ラキは避雷針とリフトが直線状に並ぶように移動して雷撃を放ったのだ。


「避雷針の位置を利用して狙ってくるとはな。だがもうその手は通用しない」


 リフトはラキの方へと歩みを変えた。

 きっと魔法が使えるラキを先に始末しようと考えたのだろう。


 ラキの得意な雷光らいこう一閃いっせんは避雷針の尖った先端にすべて吸収されてしまう。邪魔な針だ。


「針? それだ!」


 僕はまたしてもいいアイデアが浮かんだ。針ならイメージするのも簡単だ。

 僕は手のひらサイズの針を難なく創造することに成功した。


 しかし、それをどうするかで迷った。

 手で投げるか。それじゃあ大した威力は出ない。魔法のように飛ばせれば。

 やってみよう。イメージをするんだ。


 僕は目を閉じて懸命に想像した。

 すると、手のひらから針の感触が消えた。


「浮いた……」


 あとはこれを飛ばすだけだ。

 僕は針が飛んでいくのをイメージした。すると針はゆっくりと動き出した。

 だがこれじゃ駄目だ。もっと速くしなければ。速く、速く、もっと速く、もっと。


「速く!」


 その瞬間、針がリフトへと一瞬で飛んでいき、その肩に刺さった。


「いてっ!」


 リフトが振り返って僕の方を睨みつけた。


「貴様、まだ錬金魔法が使えたのか。やはりおまえから片付けてやる」


 リフトが僕の方へときびすを返した。

 僕はもう一度針をイメージした。だが、一本の小さな針では攻撃力が低い。

 そう思ったとき、ゲンの言葉が脳裏をよぎった。たしか、一つのイメージができたら、それを増やすのは簡単だと言っていた気がする。


 そうだ、一つをイメージして、それがたくさん増えるイメージをするんだ。

 たくさん、たくさん。針をたくさん。これだ!


「針千本!」


 約千本の針が僕の正面で空中を漂っている。

 リフトが驚いて足を止めた。

 これならいけるかもしれない。


「行け!」


「ふん。錬金魔法、鉄盾」


 千本の針が次々とリフトをめがけ、飛んでいく。

 それはすべて盾で防がれてしまったが、僕はすぐに次の技を思いついた。


針千本之枡はりせんぼんのます!」


 千本の針が約一メートル四方に等間隔で並び、それがリフトへと飛んでいく。リフトはまた盾で防ぐが、盾からはみ出した足に何本も刺さった。


「くそう! こしゃくな」


 リフトが僕の方へと駆け出す。

 僕は焦った。これほどまでにしぶといと倒せる気がしない。


 気がつくとリフトはもう目の前にいた。リフトが僕に向かって剣を振りかざしている。

 僕は慌てて間合いを取ったが、振り下ろされた剣が肩をかすめ、服に切れ目が入った。


雷光らいこう一閃いっせん!」


「おっと、危ない。また貴様か!」


 またラキは避雷針とリフトが直線状に並ぶ位置に移動して雷撃を放っていた。


 リフトがラキを睨みつけている。

 僕の目に映るのは、ラキの電撃を吸い込んだ避雷針。


「そうだ、これだ!」


 僕の叫びでリフトが僕の方を振り向いた。また臨戦態勢に戻っている。


「ラキ、もう一度、電撃を! そこからでいいから、もう一度!」


「ふん、無駄だ。避雷針がある限りはな」


 いや、いまの僕は針を出現させることができる。それも好きなところに、好きな針を。


 ラキは突然のことで戸惑っていたが、どうやら僕を信じてくれたらしく、魔法の準備にかかった。


 リフトはもう一度、剣を振り上げた。


「今度は確実に斬ってやる」


 リフトがそう言った瞬間、ラキの魔法が発動した。


雷光らいこう一閃いっせん!」


「いまだ。寄雷針きらいしん!」


 僕が生み出したのは雷を寄せる針。

 つまるところ避雷針とまったく同じものであるが、それをリフトの腹に突き刺さった状態で出現させた。


「ぐわぁああああ!」


 ラキの放った電撃がリフトに直撃した。

 さすがにこれは効いたらしく、リフトはよろめきながら後ずさりした。


「なんだ、これは……。こんな場所に錬金できる魔法が、あるのか……」


 リフトは片膝をつき、腹に刺さった針を抜き取った。

 そして苦しそうに僕を見上げる。


「それは魔法じゃない。ただ、おまえが魔法という形でしか自然の摂理を知らないだけ」


 僕もよく知っているわけではないが、自然とゲンのよく言うセリフを口にしていた。


「僕らの勝ちだ。降伏しろ」


「まだだ……」


「しぶとい奴だな」


「錬金魔法、投げナイフ」


 リフトは投げるためのナイフを数本出現させ、そして構えた。


「ラキ! もう一度」


雷光らいこう一閃いっせん


「もう寄雷針は抜いた」


 ラキの電撃が引き抜かれた寄雷針へと向かって飛んでいく。


 だが僕は確信していた。いまの僕なら、それを導けると。

 信じることがこの世界の摂理であり、信じることが現実となる。

 ゲンの言葉をヒントに、実戦の中で少しずつ、本能的に学んだことである。

 いまの僕ならば疑うことなく、確信を持って信じることができる。

 僕ならやれる。もう寄雷針なんてチャチなものは必要ない。


「撃ち抜け、雷光らいこう一閃いっせん!」


 僕の放った言葉に反応するように、ラキの放った電撃が光を増し、方向を変え、リフトの胸を貫いた。


 電撃が消え去った後、リフトの胸には頭の大きさよりも大きな穴が、その淵を焼き焦がして空いていた。


「勝った……。勝ったね!」


 ラキは疲れきっている様子だったが、とてもほがらかな笑顔を見せた。

 僕もだいぶ疲れていて、思わず大の字になって仰向けに倒れた。


 僕は開放感に浸りながら、異次元へと想いを馳せていた。


「ゲンの奴、遅いなぁ。珍しく、てこずっているのかな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る