第006話 初めての戦闘
砦の前には三人の盗賊らしき人物が巻物を広げて何かを唱えている。
「あれは分身の魔道書……」
ゲンは一瞬にしてそれらの魔道書を回収した。
「これで分身を保てないだろう」
盗賊たちは突然目の前の魔道書が消えて驚いている。
「貴様か。我らの魔道書を奪ったのは」
盗賊はゲンの持つ魔道書に目をやり、僕たちを睨みつけた。
「奪ったのはそっちだろうが」
僕は強気に言い返した。
「レン、気をつけろ。分身自体は難しい魔法じゃない。一つのものがイメージできればそれを複製するのは簡単だ。だが、作った分身それぞれに意思を持たせるのはかなり高度な技だ。魔道書を使っていたとはいえ、なかなかのテダレだろう」
「え? そ、そうなの?」
そうでなくても僕は弱い。いまさら何を言っているのだろうと、自分に呆れてしまった。
「くる!」
ゲンがそう言うと、三人の盗賊が襲いかかってきた。
僕は突然で石すら出すことができなかった。
「錬金魔法、鉄剣!」
盗賊は三人とも自ら出現させた鉄の剣を装備してこちらへ走ってくる。
「レン、君も剣や盾くらい出せるだろう?」
「そんな、急に、無理だよ!」
「しょうがないな」
ゲンは何かを唱えることもなく銀色の剣を出し、僕に渡した。
「さっきと同じだ。自分の腕を信じろ。相手の剣が自分の剣に引きつけられるイメージをするんだ。そして力を込めたときに相手の剣を強く弾くイメージ、その瞬間、斬れ!」
僕は当然、そんな急なアドバイスを理解できるはずもなく、最初の剣を引きつけることだけを意識することとなった。
敵が振り下ろす剣を僕は銀の剣で受けとめた。その瞬間、大きな金属音が響く。
敵と剣を交えたまま押し合いになった。
一方、ゲンのほうは敵を例のごとくバリアに閉じ込めていた。
ラキはというと、その姿が見当たらない。敵はキョロキョロと辺りを探している。
僕は目の前の敵に意識を集中した。
ふと気づくと敵の剣が光りだしている。
「錬金魔法、魔法剣!」
その瞬間敵の剣が輝きだし、光沢のある銀色の剣になった。
そして、今度はその剣が赤くなっていく。
「魔法剣、炎」
敵の剣が炎に包まれた。
僕は直感的にヤバイと悟り、敵の腹を蹴飛ばした。
敵は後ろに下がり、剣を構えている。そして、その離れた距離から剣を振り下ろした。
その瞬間、弓形に反った炎が剣から放たれ、僕の方へと走ってくる。
僕は何かで防がなければと思い、一瞬の間にあれやこれやと考えていたが、炎の刃が目前に迫ってとっさに出た言葉が例のあれだった。
「石壁!」
それは突如として現れた。地面を突き破り、下から巨大な石の壁が出現した。
炎が壁に当たって形を失い、その切れ端が石の淵から見え隠れしている。
そしてまもなく炎の気配は消え去った。
僕が安堵の息を漏らすと、石の壁はシュウッと幻となって消えてしまった。
「チッ」
盗賊は舌打ちをすると、再び剣に炎を宿らせた。そして今度は自らが走って向かってきた。
おそらく石壁が使えない距離で直接炎を叩き込むつもりなのだろう。
僕は次の攻撃にどう対処するか考えあぐねてオロオロしていると、突然敵の周りを青白いバリアが囲んだ。
「ゲン?」
「やるじゃないか。一発で石壁を出せた。いまの君にしては、まあまあといったところだな」
ゲンは自分の張ったバリアの方へ向き直ると、次の技をかけた。
「剣魔法、強制発動」
ゲンがそう言った瞬間、盗賊の剣に宿っていた炎が放たれ、バリアに跳ね返された。
そしてバリアの中を
「レン、斬らないと焼かれるよ。まだ
「いや、躊躇とか、それ以前に僕にはそんな力はないよ」
「そんなことはない。君は本気になっていないだけだ。自分、あるいは何かを護るため、君が恐れや不安を捨てたならば、君は強い相手ともまともに戦えるはずだ」
ゲンの敵はとっくにくたばっていた。生きているのか死んでいるのかは確かめないと分からない。ゲンのことだから、きっとトドメはさしているんだろうけれど。
残る最後の一人はまだ戦っていた。どう戦っていたのかというと、ラキの高速移動とタックルの連携に対して鉄の剣を持ったまま右往左往していた。
「レン、ラキの力を拝見させてもらおうじゃないか」
ゲンはそう言うと、僕の肩に肘をもたせかけてニヤッと笑った。
ラキは高速移動で距離をとり、後ろに回ってはタックルで攻撃している。
しかし盗賊もなかなかしぶとい。というか、タックルばかりでは
「錬金魔法、鉄鎧!」
盗賊が戦法を変えてきた。
盗賊は鉄の鎧を身にまとい、防御をガチガチに固めた。
ラキがいままでどおりにタックルすると、鉄の固さに弾かれ、地面に倒れてしまった。
盗賊はいまがチャンスとばかりに剣を持ったままラキの方へ詰め寄っていく。
「ゲン、助けなきゃ!」
「大丈夫だよ。きっとラキは勝つ」
僕は不安ながらにラキを見守ることにした。
幸いにして盗賊は鎧のせいで歩みが遅かった。
ラキは立ち上がるとすばやく高速移動で距離をとった。
「ちょこまかと逃げまわりやがって。逃げるならとっとと町へ逃げ帰れ、小娘め」
「もう逃げる必要はないわ。これで終わりにする」
そう言ってラキは呪文の詠唱に入った。人差し指と中指を天に突き立て、それから敵へと向けた。
そしてラキは魔法の名をその口から解き放った。
「
その瞬間、目が
蜂が尾針を突き立てるような鋭い攻撃的意志がそこにはあった。まるで殺意の具現化。
盗賊はよろめき、片膝をついた。
だが、体勢を立て直し、再び立ち上がった。
「そ、そんなぁ。あれが効かないなんて……」
ラキは立ちつくしている。
盗賊がラキへと詰め寄ろうとしたそのとき、盗賊をこれでもかという炎が焼きつくした。
「
ゲンだった。ゲンが盗賊を始末したのだ。
ラキは恐怖からの開放で腰が抜けたらしく、地べたにペタンと座り込んでしまった。
まだ呆然と焼け焦げた盗賊の姿を見ている。
「いまのはレン、君が邪魔したんだ」
突然の言いがかりだった。僕には何のことだかさっぱり分からない。
「君は頭がいい。それが邪魔をした。いろいろと余計なことを考えすぎなんだ。君はこう考えた。電撃は鉄を伝って地面へ流れてしまう。だから人体へのダメージが少ないのではないか。君がそう考えたから本当にそうなってしまった。君の思考の影響力は本当に強いんだよ。仮に異世界の理屈でも、君がそうだと思えばそれはこの世界でも実現してしまう。君が余計なことを考えていなければ、あの稲妻は確実に盗賊を打ち抜いていた」
まあ、なんとなく理解はできた。
僕はラキのことを信じていなかったのかもしれない。
反省させられた。
僕はラキの元へと歩み寄ると、開口一番に謝った。
「ごめん」
「なんで謝ってるの? 意味分かんない」
ラキは泣いていたかもしれない。
僕の角度から顔は見えなかったし、声も涙声を感じさせなかったので、真実は分からない。
「私、やっぱり邪魔だよね。足手まといだよね。あんなこと言っておいて、結局、助けてもらったもんね」
「邪魔なんかじゃないよ。僕だってゲンに助けてもらったし、君のおかげで誰かが二人を相手にすることもなかったんだ。君が悪かったことなんて一つもないよ」
「でも、ゲンは本当にそう思ってるの? ゲンなら一人でも全部やれたんじゃないの? やっぱり私は……」
「そんなことない!」
僕は思わず叫んでいた。それにはラキを励ます以上に、ゲンの気持ちを知ってほしいという気持ちがあったと思う。
ラキは少しだけ顔をこちらへと向けた。
「ゲンは僕よりもずっと君のことを信用していた。でも僕が君のことを心配っていうか、不安を持っていたから、君の邪魔になったんだ」
きっとラキには、何のことを言っているか分からないだろう。僕のせいで盗賊が倒せなかったなんて思いもよらないだろう。でも、僕がラキのことを信用してないことは伝わったかもしれない。
あの悪戯っぽい印象の強いラキが真剣に戦い、敵を倒せず真剣に落ち込んでいる。意味不明な言葉をかける僕に、ラキはきっと怒っているだろう。
しかし、ラキからは意外な言葉が返ってきた。
「ごめんね。気を使わせちゃったね」
気づくと僕のほうが握った拳を震わせていた。
「いや……」
僕は拳だけでなく、声まで震わせていた。
「怖かった。あの電撃でも倒れない敵を相手にしていると思うと、目の前が真っ暗になった。でも私、もう怖気づいたりしない。もう足手まといになったりなんかしない。頑張るから、最後まで一緒に行かせて」
ラキは振り返って
僕はその顔をまともに見られなかった。僕が情けない顔を見られたくなかったのだ。
「レン、ラキ、実戦に慣れていないのは分かるけど、これくらいで浮き沈みしているようじゃ、この先やっていけないよ」
ゲンが歩み寄ってきて、僕たちに言葉をかけた。
おかげで空気が引き締まり、本来の目的を思い出した。
「さぁ、これからが本番だ。砦の中に親玉がいるはずだ。ほとんどの盗賊は町への襲撃に出払っているだろうから、砦の中は手薄なはずだよ」
ゲンは砦の方へと向き直った。
そしてひと声、力強い言葉を放った。
「行くぞ!」
そして僕もラキもそれに力強く答えた。
「おう!」
「うん!」
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