第004話 依頼

 僕たちは町のカフェで話をすることにした。

 オープンカフェの、パラソルのついたテーブルに着いていた。


「あははー、ゲンとレンねぇ。レンっていうくらいだから、レンは錬金魔法とか使えるの?」


「僕は石ころくらいしか出せないよ」


 僕は苦笑いするしかなかった。

 ゲンと比べられたら、僕の劣りようには目も当てられない。


「うっそぉ。私より大したことないじゃん」


「こら、ラキ! 失礼だぞ」


 やっぱりだ。僕はこれでもかと肩を落としてみせた。


「こいつはこれからだよ。ものすごい大物になることは僕が保証する」


 ありがとう、ゲンよ。もはや本心でもお世辞でも、どちらでもいいよ。


 ラキはふーん、と頬杖をついて僕の方をじっと見ている。


「な、なに?」


「頑張ってねー」


 ラキの顔はイシシとイタズラっぽさを曝け出していた。


「あ、ああ、頑張るよ」


「それにしても、ラキという名はセブンさんがつけた名ですか?」


 ゲンが突然名前についての質問をした。


「いえ、いまは亡き、この子の母親がつけたものでして。ラッキーからとった名前だとか」


「そうか、そういうことになっているのか。やはりこの人たち……」


 ゲンは一人でつぶやいていた。


「ラッキーのラキとセブンって、縁起のいい名前ですね」


 僕も自嘲じちょうから抜け出し、会話に入ることにした。


「そうでしょ?」


 ラキは名前を誉められると嬉しいらしく、目を輝かせている。


「私のフルネームはね、アン・ラキっていうんだよ」


 僕は一瞬考えてしまった。

 アン・ラキ? アンラッキー? それって不幸な名前じゃないか。


「なるほど、なるほどなぁ」


 ゲンよ、何に納得し、何に感心しているというのだ。


「そろそろ本題に入りましょう。倒してほしいあいつらとは?」


 ゲンは唐突に切り出した。

 セブンは元々正しかった姿勢を改めて正し、神妙な面持ちで語りはじめた。


「はい。今日もうちの店でひと悶着もんちゃくありましたが、この町には魔道書を狙った盗賊団が頻繁に出没するのです。奴らは一つの巨大な組織のようで、その中から数人がグループで町に魔道書の強奪に来るのです」


「なるほど。その盗賊団を壊滅してほしいということですね」


 気のせいか、そう言うゲンの口元が嬉しそうに緩んでいるように感じられる。


「はい。ですが、無理にとは言いません。ただ仲間がやられたとあっちゃ、向こうも黙ってはいないと思うんです。実のところ、我々もこれ以上魔道書を持っていかれると困るので、盗賊団討伐をくわだてていたところなのです。よければ力を貸してもらえませんか?」


「いいですよ」


 ゲンはなんの躊躇ちゅうちょもなく答えた。


「ゲン、大丈夫なの?」


「大丈夫さ。僕は強い。そして君も強くなる」


 やはり僕も強制参加らしい。

 石ころしか出せない僕がどれほど強くなれるというのだろうか。それ以前に、僕なんかがしゃしゃり出て無事で済むのか。


「パパ、私も行く!」


 ラキは強い眼差まなざしでセブンを見つめている。


「おまえは駄目だ。私が行くから、店の留守番をしていなさい」


「嫌だ! 私だってやれるもん」


 セブンがラキに何か言おうとしたとき、それよりも先にゲンがセブンに言った。


「セブンさん。あなたも残っていてください。ラキを一人残すのも心もとないでしょう」


「ですが、奴らは相当に手強てごわいですよ。だからそれなりの戦力がいると思うのです。私ならば魔法がたくさん使えますので……」


 セブンの話を切って、ゲンが意見を通した。


「町を護る人材も必要になると思います。僕たちが敵地へ乗り込んでいる間に敵が攻めてくるかもしれません。そのときに町を護れる者がいなければ、町はどうなります?」


「たしかにそうですね。しかし、たった二人で大丈夫ですか? 町にはほかにも強力な魔法を使える戦力が何人かいます。だから、攻め手の人数をもっと増やしたほうが……」


「大丈夫ですよ。僕は賢者、そしてレンは勇者なのですから」


「あなた、賢者だったのですか? それは、それは。どうりでお強いはず。ところで、そちらの勇者とは、どのような種族なのでしょうか?」


「そうですね。賢者が陰ならば、勇者とは陽といったところでしょうか」


「はぁ。そのような高等な知識は私ごとき下々の民には分かりかねますが、そうおっしゃるのなら、お任せしましょう」


 僕はセブンやラキには聞こえないよう、そっとゲンに質問した。


「陰とか陽っていうのは何?」


 するとゲンのほうもひっそりと答えてくれた。


「べつに意味はないよ。テキトーに言っただけ。ただ君が僕くらいすごいと信じてもらえればよかったからそう言ったんだよ」


「またテキトーにものを言っちゃって……。僕のことを勇者とか勝手に言われても困るよ」


「勝手に? 君はまったく分かってないな。この世界を創造した者に神と名づけたのは賢者だ。その賢者が君のことを勇者と呼んだ。それは魔法にいい加減な命名をすることとは別物で、大義なことなんだよ」


 僕は返す言葉が見つからなかった。

 賢者であるゲンは僕に何を見いだしているのだろう。それとも、あらかじめ決められた何かを知っているのだろうか。

 どちらにしろ、彼は僕のことを本気で賢者と対等だと思っているらしい。


「それでは、明日の明け方にでも出発することにします。そのときは、町の者総出で町を護ってくださいね」


 話はそれで決着した。僕たちは盗賊団退治を任せられたので、この町の施設は何でもタダで使わせてくれるということになった。


 僕らは町にある宿屋で一泊することにし、僕にとっては初めての外泊をすることになった。

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