第15話 美咲ちゃん
山下新之助が開けたドアの向こうには、椅子に座って本を読んでいる高校生くらいの少女が居た。
そしてその傍らには見慣れた家庭用ゲーム機くらいの大きさの機械が・・・
「や、山下さん・・・これって、この子って、あの、ひょっとして山下さんが造って、あの機械で・・・」
「はい・・・でも坂口さん、これ見ただけでそこまで分かるって事は・・・やっぱり坂口さんの所にも・・・」
「う、うん・・・実は私の部屋にも居るんです・・・同じようなヤツが、ハハハハ」
「「ハハハハハ・・・・ええ~~~っ!?」」
「本当ですかっ!」
「マジでっ!」
どういうこと?
何なの?
何から話せばいい?
混乱する・・・
ベッドに座っていた女の子は私たち二人に気が付くと顔を上げてニコッと微笑んだ。
か、かわいい・・・まさに”美少女”じゃんか!
「ほら、美咲、坂口さんにご挨拶して」
山下新之助がその少女に向かって優しく話しかけると、彼女は私を見ながら
「はーじーめまーしてっ、みーさーきですっ」
と言いながらピョコンとお辞儀をした。
すげえ!
ちゃんと挨拶してる!
ウチの珍之助なんかまだ挨拶どころかマトモに会話できねーぞ。
ちょっと九官鳥入ってるし。
「あの、山下さん、この子っていつ届いたんですか?」
「えーっと・・・先週ですね。あけぼの飲料の広告撮影の2、3日前だったかなあ?」
ウチに珍之助が来たのと同じくらいだ。
という事は、この子も第3フェーズが終わって成長途中なハズ。
「坂口さんのお宅にも、居るんですよね?」
「は、はい、ウチにも居ます。ウチのは男ですけど・・・あの、この子の名前、『みさきちゃん』って言うんですか?」
「え、ええ・・・子供の頃、近所に好きだったお姉さんがいて、そのお姉さんの名前を付けました。ハハハ、ちょっと恥ずかしいな」
「そんな事無いですよ、可愛い名前じゃないですか」
「坂口さんの所に居る、えっと、彼氏でいいのかな?何て名前なんですか?」
ヤベェ・・・
名前の話なんてするんじゃなかった!
新之助、いや、珍之助なんて、言えるワケねぇ!
どどどどうしよう・・・
「え?あ!?な、名前ですか?」
「はい、何て名前にしたんですか?」
「えっと~~・・・(小声で)ちんのすけ・・・」
「はい?」
「ち、ち、珍之助ですっ!」
「珍之助?ですか?」
「はい!そうです!」
「あー・・・ははは、珍しい名前ですね・・・」
私達の間に漂う微妙な空気・・・
リアクションに困る山下。
顔から火が出そうになって俯く私。
相変わらず椅子に座ってニコニコしている美咲ちゃん。
「あの・・・坂口さんちの、珍之助君?は、もう喋ります?会話とかちゃんと出来ます?」
「いやぁ、それが・・・喋る事は喋るんですけど、会話となるとトンチンカンな事ばかりで・・・美咲ちゃんはどうですか?」
「うーん、美咲はまあまあ会話も出来るんですが…喋り方が変なんですよ」
「変?変って?」
「ちょっと会話してみましょうか? 美咲、今日は何食べたの?」
「うーばー」
「何を注文したの?」
「ちゃーはぁーん、ぎょーざぁー」
「ね?変でしょ?語尾が伸びちゃうんですよ」
いや、変な喋り方だけど、何だかすごくカワイイよ!
見方によっては『ちょっとアホな子』に見えなくもないが、何と言っても外見が超絶美少女だから、ちょっとくらい変な喋り方でもむしろそれが可愛く感じる。
ん?今、美咲ちゃん何て言った?ウーバーを注文したって?
「山下さん、美咲ちゃんって自分でデリバリーの注文できるんですか?」
「はい、一回教えてやったら覚えちゃったので、最近は勝手に注文させてます。僕の仕事って不規則じゃないですか?自分でやってくれると助かるんですよね」
そうか!その手があったか!
でもなぁ、珍之助にそんな事させて大丈夫か?
勝手にステーキ10人前とか頼まれたら困るしなあ。
つーか、何で美咲ちゃんはこんなに会話できるんだ?
「美咲ちゃんってどうやって言葉を覚えたんですか?本を読ませたとか?」
「特別な事はしてないと思うんだけど・・・言語メモリーカードでしたっけ?あれを読み込ませて、あとは適当に雑誌とかを読ませただけですけど」
「日本語の勉強ドリルとか、小学校の国語の本とか、読ませてないですか?」
「いや、読ませてないですねー、特に勉強とかもさせてないですし」
そうか・・・
特に何もしなくても会話くらい出来るんだ・・・
って事は、ウチの珍之助って・・・
ただのアホか・・・
まあいい。
子は親に似るって言うからな。
いや、親じゃねぇよ!
「でも何で美咲ちゃんが山下さんのところに来たんですかね?あ、そうだ!この子が配達されてきた時、いきなりハゲた小汚いおじさんが現れませんでした?」
「ハゲた小汚いおじさん?いや、僕の所に来たのは女の子でしたよ。いきなり爆発音がしてその子が部屋の中に居たのでメッチャ驚いたんです」
「女の子?・・・それって、金髪で胸が大きくて美人だけど口がすごく悪い子じゃなかったですか?」
「そうそうそう!その子!美人なのにヤンキーみたいな口のきき方するんですよ、あの子。あれ?ひょっとして坂口さん、あの子の事知ってるの?」
メルティーだ!
あいつ、山下新之助の所にもキットが送られてるなんて一言も言ってなかったよな。
どういう事だ?
何か隠してるんじゃないか?
怪しい、スッゲー怪しい・・・
それにしてもちょっと不可解な事がある。
彼氏の居ない寂しい独身OLの私の所に珍之助が送られてきたのは、まあ理解できる。
でも、山下新之助の元に美咲ちゃんが送られてきたのはなぜだ?
今をトキメク人気俳優、山下新之助だぞ!
女なんてより取り見取りじゃん。
彼女製造キットなんて必要ないじゃん。
「あの・・・山下さん、こんなこと聞いたら失礼かもしれませんけど、山下さんって・・・彼女居ないんですか?」
「えっ!彼女、ですか!?あ~、あははは、今は居ないですねー」
まぁそう言うよな。
一流芸能人が私なんかにそんな事話すワケねえか!
「坂口さん、お腹空きません?良かったら食事しませんか?って言ってもデリバリーとかですけど・・・どうですか?」
うぉ~~!
山下新之助と食事だぁ!
二人っきりで、彼のお部屋で!あ、二人っきりじゃねえか、美咲ちゃんも居るか…
「私も少しお腹空いてきちゃったけど…ご一緒していいんですか?」
「全然構いませんよ!何食べます?えーと…… あ!ピザとかどうですか?」
「私はピザでも構いませんけど、美咲ちゃんは食べられます?ピザ?」
「あはは、あいつ、ピザ大好きなんですよ。おーい、美咲ぃ、このピザ2枚とこれとこれと、そうそう、ウーバーで注文して」
「うーばー?ぴざぁー、えるさいずぅーの、にまいのー、ちゅうもんー」
美咲ちゃんはタブレットでピザを注文している。
カタコトの外国人みたいでかわいいなあ・・・
着せている服もどこかのブランド物でお洒落だし、仕草も可愛い。
それに引き換え、ウチのは・・・
スーパーで買ったTシャツとダボダボのジャージ、背はちんちくりんで歩く時は爺さんみたいにヨタヨタしてるし、『バックします』とかワケわかんない事言うし。
同じ時期に造り始めたのに何でこんなに差が出た?
アタシのせいか!?
それにしても美咲ちゃん、普通に歩いたり座ったりしてるな。珍之介はまだヨロヨロしてるのに。
何か運動でもさせているのだろうか?
「美咲ちゃんって何か運動とかさせてるんですか?」
「運動ですか?ああ、隣の部屋にルームランナーとか色々な運動器具があるんですよ。本当は自分用に揃えたんですけど、今はもっぱら美咲が使っちゃってます」
ああそうか、だからか。
珍之助も身体動かさないといつまで経っても爺さんのままだよなあ。
よし、そろそろ運動させるか!
しばらくしてデリバリーのピザが届いた。
リビングの大きなダイニングテーブルの椅子に座ると、目の前には山下新之助。
あの山下新之助とお食事・・・夢なのか!?これは夢なのではなかろうか?
美咲ちゃんが居るから二人きりではないけど、まあいい。
その美咲ちゃんは「ぴざー、おいしいね、ぴざー、おいしいね」と言いながら嬉しそうにピザを頬張っている。
マジ可愛い。天使か。
食事をしながら山下新之助と色々な話をした。
ほとんどは美咲ちゃんと珍之助に関する話題だったが、時折芸能界の愚痴や、一般人が知ることの無いエピソードなんかも話してくれた。
私もだんだんと緊張が解れ、引きつっていた笑顔もいつもの調子に戻っていたような気がする。
心なしか山下新之助も楽しそうだった。
そしてメルティーの件だが・・・
山下新之助と相談した結果、私達が会ってこの件を話し合った事はメルティーやハゲには秘密にしておくことに。
恐らく彼らにも何か考えがあっての事だろうし、今しばらくはこのまま様子を見ようと言う事になった。
「坂口さん、僕も珍之助君と会ってみたいなぁ。今度珍之助君を連れて遊びに来ませんか?美咲に珍之助君を会わせたらどんな反応するか見てみたいし」
えっ!珍之助に会いたい?
え~、困ったな・・・
あんなちんちくりんを見せるのはちょっと恥ずかしい。
もっとマトモな服も買わなきゃだし、それに今のままじゃまるで言語障害の爺さんだし・・・
「あ~、そ、そうですね、でもウチのはまだ体力があまり無くて・・・もう少しトレーニングして身体が出来上がったらぜひとも・・・」
「そうですか!楽しみだなあ!」
「あははは・・・・」
何だかんだ言って、時間はもう23時になろうとしていた。
夢のような時間は一瞬で過ぎて行く。
かたくなに「僕の車で送ります!」と言う山下新之助の申し出を断り、私はタクシーで帰った。
そりゃ送って欲しいのはヤマヤマだけどさ、そこまで図々しいのも気が引ける。
それよりも「今後も色々と情報交換しましょう!」と言われ、山下新之助のLINEをゲットしたのだ!わはは!
「ただいまー」
アパートに着いて部屋のドアを開けると、床で爆睡する珍之助の横でメルティーが柿の種をつまみに缶酎ハイを飲みながら携帯を弄っている。
「あれ?メルティー、まだ居たの?」
「おねーさん、おっせーよ!どこほっつき歩いてたんだよ!」
「いやぁ~、ちょっとね、野暮用で・・・」
「何だよ?野暮用って。あ~、どっかの男とホテルにでもシケ込んでたんじゃねーの?この淫乱OLが!」
メルティー、もうどうでもいいけどさ、アンタの話す内容ってどこかのヤバいオヤジそのまんまだよ。
黙っていれば超絶美人なのに。もったいない。
「ホテルなんて行ってないよ!(確かに男と一緒に居たが)ちょっと用事!それよりもさ、珍之助はちゃんとご飯食べた?」
「ああ、コイツすげー食欲でさ、炊いたコメ全部食っちまったよ。そんでさ、さっきコイツの身長測ったら150cmあったよ」
「ホント!?じゃあ初めにアプリで設定した138cm超えたんだ!やったぁ!」
「それよりもさ、おねーさん、アタシに何か言う事無いの?」
「あー、今日はホントにありがと!マジ感謝してるよ、ありがとー!メルティー愛してる!」
「ったくよう、こんな事してもアタシ残業手当付くわけじゃねぇんだよなぁ・・・」
「ごめんね、今度何か埋め合わせするから」
「埋め合わせ?何してくれんの?」
「何がいい?」
「そーだなー、まあ何か考えとくわ。じゃあアタシ帰るから。それから、あのキーホルダー、ちゃんと持ってるよね?」
「キーホルダー?うん、ちゃんとカバンに着けてあるから、いつも持ってるよ」
「カバンなんかじゃダメだっつーの!」
「え~・・・じゃあスマホに着けておくよ」
「それな、ぜってーに無くすなよ!いつも持ってろよ!じゃな!」
---ボンッ!!---
メルティー、相変わらず口が悪いなあ。
でも私が帰るまで待っててくれたんだ、何だかんだ言って優しいじゃんか!あのツンデレ。
でも最近やけにキーホルダーの事気にしてるな、何でだろう?
そうだ、山下新之助に『無事に帰りました』報告しておいた方がいいかな?
でもそれってちょっと図々しいか?何か”彼女気取り”っぽくないか?
『ほんの数時間一緒に居ただけなのに、馴れ馴れしい』って思われないか?
うーん・・・
Rinko------
今日はありがとうございました
先ほど部屋に着きました
Shinnosuke------
こちらこそ
ありがとうございました
珍之助君はどうしてますか?
Rinko------
珍之介は爆睡してます
美咲ちゃんは?
Shinnosuke------
美咲も爆睡です(笑)
Rinko------
また何かあったら
いつでも連絡ください
Shinnosuke------
ありがとうございます
これからもよろしくです
それでは おやすみなさい
Rinko------
はい おやすみなさい
クゥ~~~!やったー!
山下新之助とLINEしたった!
今日はなんてスバラシイ日なのだ!
よーし、今日は久々にストロングでも飲んじゃうか!
冷蔵庫を開けて中を見ると・・・
無い!
昨日買って冷蔵庫の中に入れておいたストロング酎ハイが、無い!
冷蔵庫の横には空になった酎ハイの缶が3本転がって・・・
メルティー、飲みやがったな!
楽しみにしてたのに、3本全部飲みやがったなぁぁぁ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます