第4話

「東の青の洞窟、澄み切った海の中の祠…そこに、…いるんじゃ」


 岩だらけの海岸を歩きながらぽつぽつと案内する老人は話し始めた。


「50年前、島は美しい海の神に愛されて、豊かな海と、豊かな放牧、豊かな作物でなりたっておった。外界とは遮断されていた、この島だが、十分人間が生きていける島じゃった…、美しい神の元、島の暮らしは素朴で良かった、だが、どうしても外界に行きたいと渇望する若者が現れ、島の外で暮らすのに、宝が欲しいと、美しい神の額にあった三つ目の瞳、それを美しい神が眠っている間に盗んだんじゃ。美しい神が目覚めると、三つ目の瞳を盗まれたことに激怒し、美しかった神は、恐ろしい姿となって暴れまわり10年に一度、この時期に贄を求めた。約束を守らねば、島の人間を食いつくすと脅してきたんじゃ」


「最初のうちはヤギを人間として偽り贄に捧げたが、見抜かれてしまった。同じ島の人間を贄にすることはどうしても出来なかった…。約束の期限まで、もう時間が無かった。その時、たまたまヘリでレジャーに訪れていた品の悪い、島の女とみればいくらかと聞いてくるような、下衆の金持ちが居て、たまたまヘリが故障して海の上で墜落し、それを贄とした。最初は事故だった…。それ以降、島の外の人間を事故に見せかけて、贄に捧げようと…。やってきた若者を利用して、贄を捧げると島で決めたんじゃ。してはいけない事だと判ってはいた、しかし、どうしょうもなかったんじゃ…。」


「他に方法は無かったのか?じいさん!」

 同行していたダイがたまりかねて口を開いた。


「島の外の者は島を汚す、車の排気ガスで空気を汚す、汚水を垂れ流し、プラゴミをポイ捨てじゃ。なら代償に、その命を貰おうとわしが決めたんじゃ」


「むちゃくちゃだ…」

「そうじゃ、むちゃくちゃだ、みんな狂っておる」

「開き直るなよ!じじい!」

「この島は呪われておる!」


「その、三つ目の瞳は無いんですの?お返しすれば、なんとかなりませんの?」


「それが、外界に焦がれた若者が持ち出したのか、隠したのか、どこにも見当たらないんじゃ」


「その三つ目の瞳を戻せば倒さずに済むかもしれないですわ、私でも神殺しは恐ろしいですわ、それに、最悪、この島が木っ端微塵ですわ、何が起こるか判りませんわ」

 バトルアックスを握る手が震える。武者震いですわ。


「もう、無くなった方がええんかもしれん…もう、次の世代がおらんのじゃ、島を見たじゃろう、若者は一人も居らん…爺婆ばかりじゃ。たまにやってくる事情を知らないぱーてぃぴーぽーしか若者は居らん」


「居座っとるのは…、わしら年寄だけなんじゃよ!うは、あは、ははは…」

 みじめな年寄は泣き笑いしている、もう何が大事だったのかも判らない。

「何がおかしい!!」

「ダメよダイ!」

「しかし…!!リョウお前も何とか言ったらどうなんだ?!」

「……………」

 長い沈黙の後、リョウは口を開いた。

「何をしても、マリはもう戻らない、戻らないんだ…」


「…すまん」


 いつの間にか、とっぷりと日は暮れ、懐中電灯の灯りが無いと、何も見えないほどの闇の中で空には満天の星空が広がり恐ろしいほどだ。まだ夜の7時頃なのだが、この島では夜が力を持っている。


暫く足場の悪い岩場を歩いていると、リョウが足を滑らせた。ここは、あの場所だ。

何かに足を取られたような転び方だった。


「う、あ、うわあ!!」

「リョウ!!!!大丈夫?!!!」

「あ、あああうう、いて…脚を挫いた…先に行ってくれ」

「リョウがここに残るなら私も残るわ!」

「カオル…」

「いいさ、二人でこのまま朝まで迎えればいい、俺たちは行くぜ」

「ダイ…!」

「ダイ…ありがとう…」

「へっ!」


遠くから子守歌と赤ん坊の泣き声と鈴の音が聞こえてくる…。だが、それは酷く穏やかに聞こえた。

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