第3話

 なんか、すごく濃いの見ましたわ…。リョウさん大丈夫かしら、何だろうこの気持ち…トゥンク…。あっヤバイですわ、お握りをお届けしないと悪い予感がするんですわ!慌てて民宿に戻り、鮭入りのお握りを作ってもらい、お地蔵様があった場所まで戻ると、お地蔵様にあげた帽子は転がっているものの、どこにもお地蔵様の姿が無い、いえいえいえいえいえ、怖い怖い、怪異は割とぶっ倒せばいいんですが、お地蔵様とかはちょっと話が通じなさそうで怖いんですわ。うぅ…仕方ありませんわ、帽子が落ちている場所に鮭入りお握りをタッパーのまま置いて震えながら手を合わせる。

「お、お許しください…」

「大丈夫ですよローズお嬢様、きっとまごころは伝わっております」

「ホントですの…?」

「それより、島の催しがあるそうで、今度こそ本当に本物の祭りがあるそうで、見に行きますか?焼肉、あるそうですよ!お好きでしょう」

「まぁ!楽しみですわ~!」

 さっきまで青くなってたお嬢様がもう笑ったですわ~!お地蔵様が化けて出られたらその時はその時ですわ!焼肉大好きですわ~!バトったからお腹も減りましたわ、じゅるる…ハッ!私としたことがよだれが…。とりあえず帽子はその場に置いて、タッパーに入っていた鮭入りお握りにかぶり付きますわ。モグモグですわ~!美味しいですわ~!


 るんるんしながら岩場を歩いていると、先ほどのカオルとダイが船着き場のような桟橋で、二人で密着して座ってますわ、若いっていいですわね。思わず草場に隠れ見ていると、いい雰囲気になっている。カオルさんリョウさんはいいの?太陽がさんさんと降りそそぐ真昼間だというのに、ンマァ~お盛んですわ~。


「ローズお嬢様デバガメはいかがなものかと…はしたない…もう、祭りが始まりますよ」

「シッ!良い所なのよ!…ん?」


 南国の透明度の高い海の中を巨大な黒い三角がゆっくりと二人に近づく、まさか、あれは、いや、大きいわ、大きすぎない?またなの?二人は気が付いてなくてイチャイチャしていますわ。

「カオル、俺は、お前を…」

「…ダイ」

 重なる二人、サメ歯を揃えた巨大な口がその二人をすっぽりと包むように広がった。

「ローズお嬢様!」

「仕方ないですわね! 野 薔 薇 ロ ー ズ の 名 に 掛 け て ! ぶっ倒しますわ!」

「それでこそローズお嬢様!」

「破ァーッ!!野薔薇流バトルアックス術!二の名「水平貝合わせ」!!ですわー!」

 ぐるぐるとバトルアックス共々体を水平に回転し、横からズバアー!と巨大サメの口からしっぽまで上下に切り裂く技ですの。その切り口は二つと同じものが無く、複数の怪異で貝合わせゲームができますわ。懐かしい、おじいさまとよく遊んだものですわ。


「お見事です!ローズお嬢様!」

 感極まってセバスチャンが泣きながら手を叩いてますわ。

「おい、なんだよあんたら、邪魔すんなよ!」

「きゃっ!」

「あ、おい、カオル~どこいくんだよ!もう!逃げられちゃっただろ!」

 二人は自分たちがどんな危険だったかなど知る由もない、民衆から疎まれるのもハンターの定めなのですわ。

「素晴らしい手管、おじいさまもさぞやお喜びでしょう」

 セバスチャンたら大げさですわ、フッ海風が目に沁みますわ…。

「ごきげんよう、ダイさん、お祭りがあるそうですよ!」

「祭り、そこに行ったのか?クソっ今度こそ、まってろよカオル!」


 なんて独り言の多い人でしょう、そんなことより私も祭りに行かなくては、焼肉を食べそこないますわ。


 まだ日が高い島の中心地の広場では巨大な藁で出来た人型と馬を模した人形が焼かれ始めていましたわ。


「まぁすごい!迫力ありますわ~」

「いい時期に来ましたねローズお嬢様!」

「焼肉のいいお匂いですわ~」

「あの人形の中にお肉を入れて焼いてるんですよ、藁で焼くから美味しいんですよ~」

 皿いっぱいに焼肉を乗せ、デンタさんが話しかけてきた、なんという大食いキャラ、私も負けて居られませんわ。パクパクですわ~!美味しいですわ~!


「技を繰り出すと、おなかがすくんですわ」

「沢山ありますね、しかし、何肉ですかな、豚のようですが、柔らかくて美味しいですな!」

 セバスチャンが料理を褒めるなんて、素朴ながらも美味しい料理法ですのね。

「今度帰ったらお屋敷でもやりましょう、レシピを聞いてこないと…」

「セバスチャンは真面目ですわね。モグモグ」

「そういえば、アイコちゃん見なかったですか?はぐれちゃって、見かけないんですよね~」

「ああ、あの語彙力のな…ゴホンゴホン純粋な子ですわね、見かけたら教えてあげますわ」

「ありがとうございます~僕の連絡先です~!」

 デンタさんは、リョウさんとお揃いのブレスレット型の通信機器で連絡先を交換すると、人込みに消えていきましたわ。あの5人はみんな同じブレスレット型の通信機器を持ってましたわ、全員お揃いなんて仲が良いんですわね。暫くお肉に舌鼓を打っていると、今度は肉皿を持ったアイコさんが現れた。


「あっローズ、さん?さっきはどうも!」

「ごきげんようアイコさん、先ほどデンタさんがあなたを探していましたわモグモグ」

「えぇ、あたしのほうがデンタを探してるのに~もう!どこいっちゃったのよ~!…あっ?!デンタ~!?」

「アイコちゃん~~~!僕はここだよ~!!ゲホゲホ」

「エッなんであんな所に…」

 今まさに火がつけられた人形の中にデンタさんが入ってますわ!

「よく燃えそうだハハハハハ!」

 松明を持った、島の青い精霊に扮した仮面の若者が、デンタさんの入っている藁の人形を燃やしていますわ!

「燃えろ燃えろ~!アーーッハッハッハッハ!」

「やめなさーい!野薔薇流バトルアックス術!三の名「薄皮布切」!!」

 高速でバトルアックスを回転させ繊細な技術で人間の着ている服だけを切り裂く、まさに野薔薇家の不殺の真骨頂技ですわ~!

「うわっ!たすかっ…って!服が…恥ずかしい!」

「デンタ大丈夫?!無事で良かった~」

「無事じゃないよ~」

「デンタ様これを…」

 セバスチャンがアイアンメイデンサイズのトランクケースから私のひまわりのプリントされたビキニの水着を取り出し手早くデンタさんに着せてしまいましたわ、お気に入りでしたのに…。

「これはこれでおかしくない?!」

「大丈夫です。よくお似合いですよデンタ様、パレオが付いております」

「パレオがあったらOKなの?!ウッまあ確かに隠せてるけど!!」


「邪魔するなー!」

 精霊に扮した若者は仮面から覗く目を血走らせ、片手斧を両手にそれぞれ握りこみ、襲いかかってきましたわ。完全に正気を失ってますわ。バトルアックスで一撃目の攻撃を受け、ついで、もう一つの片手斧を振り下ろされ、それも私ほどのハンターなら、バトルアックスで簡単にいなせますわ。しかし、相手は生身、ぶっ倒す訳に行きませんわ、何かに操られているかもしれない、ん、しかし、この状況なら正当防衛では?


「ハイーッ!野薔薇流バトルアックス術!四の名「絶気空白」!!」

 ひゅんひゅんと風を切り、相手の周りの空気を掻き乱し真空状態を作り出す、これも不殺の技ですわ!ギリギリ不殺ですわ!

「ハイハイハイハイハイハイイーー!ですわーー!」

「うっ…ぐお…ぐう」

 精霊に扮していた若者はその場で倒れましたわ。仮面を取ると、見覚えがある。船で一緒に来ていた若者の一人ですわ、完全に操られていたようですわね。

「ふう…さっき食べたばかりなのに、お腹が空きますわ、なんですの、この島は次から次へと…」

「ローズお嬢様、まだ終わっていないようです」

 セバスチャンが言う通り、他にも仮面を被った精霊に扮した者がずいと前に出てきましたわ。

「民宿のおじいさま!」

「この島はおしまいじゃ…、今夜、脂ののった若者を一人、贄に丸焼きにせねば、大いなる災いが降りかかる…、贄にぴったりの若者だったのに…」

「失礼だな!僕は、ぽっちゃりだよ!」

 デンタさんがひまわりのパレオ付きビキニで憤慨している。

「おじいさま、大いなる災いとはなんですの?」

「海から、海からくるんじゃ…誰も、あんなもの、相手に出来ん」

 脱力して、地べたに座り込む民宿のおじいさま。

「物理なら、殴ってなんとか、なりますわ!」

「流石です!ローズお嬢様!五七五になってる!完璧です!不肖セバスチャン、お供いたします」


「どこから何が来るって言うの?!」


「なんもならん、どうしょうもないんじゃぁ…数年前、母子を車ごと贄にした、焼けてなかったからか、その時は大分イカられたんじゃ…」

「なっ?!なんだと?!じいさん、まさかそれは…!!マリの事か?!」

「リョウ!」

「しかたないんじゃあぁ島を守るには…他に手がなかったんじゃあ…」

「車に細工をしていたのはお前だったのか?!答えろ!うぉおお!カオル離せ!!」

「離さないわ!!」

 カオルは力の限りリョウの腕にしがみつき、首を振った。

「リョウ、カオル…」

 ダイさんはリョウさんとカオルさんの二人を、ただ呆然と見つめるしか無かったんですわ。

「殴るなら、殴れぇ。全部、ぜーんぶ…わしが悪いんじゃ…」

「うう……くそっ!!」

 リョウは民宿のおじいさまを地面に投げ捨てましたわ。そこにはただ無力な老人が居るだけですわ…。


「民宿のおじいさま。……私を、その場所へ、案内してちょうだい!」

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