森に生きるモノ
第16話 全速前進!魑魅魍魎!
僕達は目的の物を買い終え、ついでに財布が潤い、万々歳の結果を得られたのがさっきまでの出来事。
全く入っていなかった財布の中には90枚の銀貨がギラギラと光沢を輝かせ、使ってくれと言わんだばかりだ。ドンペリでも買おうか?!
当たり前だけど、ミアちゃんから貰ったお金は除外してある。
子供のお金を貰うようなことはしないよ。
お年玉を預けられた母親じゃないんだから。
キッチリと全額返す気でいるさ。
そして現在、前の街に向けて森の中を駆け抜けている(アテスが)……だが。
「なんか魔物の数多くない?」
アテスにおんぶされてながら思う。ていうか言った。
森に一歩足を踏み入れて数秒後の出来事だった。
駆けているアテスの横から、狼の魔物が突然飛び出して、頭を噛み砕こうとしてきた。
無論、難なく対処出来た。来るのがわかっていたのだろうか?
それはともかく、最初は何も思わなかった。森の中だから魔物がいて当然だから。
でも、頻度ってのにも加減があるわけだ。
一体倒したと思ったら、次から次へとまるで総当たり戦をやるかのように絶え間なく襲って来る。
一昨日、ここを通った時は魔物と遭遇なんてなかった。
だからこそ異常だとわかる。
「おそらく、西の方にいた魔物がこっちの方に流れてきたのだと思います」
「結構な大移動だね。引越しでもしてるのかな?」
「……そうですね。あるいは何かから逃げているのか」
ボケを無視されて、真面目な回答が出て来るあたり、この状況は滅多にないことなのだろう。
しかしながら、アテスは僕をおんぶした状態を維持しながら、バッタ、バッタと薙ぎ倒している。
このままで行けば、多分街の方までは戻れるだろう。
「……すみません。1つお願いがあるのですが」
「はい。僕に出来ることなら何なりと」
「腕を首に回して、足を体に巻き付けてください」
「裸締めをしろってことか!」
「OK、私達の旅はここまでのようです」
あ、この世界にも裸締めは存在するんだ。
まあ元の世界でも、万国共通だったからあり得るか?
「と言うのもですね。片手だけでは対処しきれない状況に追い込まれてるようなんです」
そう言うと、アテスは走るのをやめて、周囲の警戒を始める。
ピコンピコンとアテスレーダーに反応してるらしい。
「ちょっとこれは……厄介ですね」
その言葉を聞いて、僕は言われた通りに彼女を抱きしめるように手足を回す。
見計らったように草むらから狼が飛び出して、大きな口を開ける。
僕のお尻を支えていた手を魔物に向け、小さく一言。
「吹き飛べ」
短い言葉だった。でも、それが何を意味するかはすぐにわかる。
手から見えにくい風魔法を放ち、魔物に命中させる。
隙間風のようなフュオーと音が鳴り終えた後、細切れとなって爆散する。
一瞬、血がブワーって出たのが見えて、目を瞑ったけど一連の流れはこうだった。
アテスが戦闘している姿はこれが初めてかもしれない。
魔法初心者の僕でもわかるほどの精度って言えば良いのかな?美しく、無駄のない魔法だった。
そんな呑気に感想を述べている間に、周囲は魔物に囲まれて逃げ場を失う。
「ア、アテスさん!大丈夫なんですか?これ!」
「……」
主は何も返さない。その代わりに腕をパンパンと叩いて来る。
無言は肯定……と言うわけでもないようで、敵に集中しているのと、僕が彼女の首を絞めていたことが原因みたいだ。
「あっ」とそれに気づいて、すぐに緩める。
「すぅーーー、はぁーーー」
「ご、ごめん」
「だ、大丈夫です。少し意識が飛びかけただけです」
「本当にごめんなさい」
今ここで意識がなくなったら、僕たちの命は本当に終わる。
戦闘力5しかない僕だと、今の状況を打破出来る未来が見えない。
彼女だけが頼りなのだ。
「少し手荒に行きますよ。しっかり捕まっててください……でも首は閉めないでくださいね」
「は、はい」
前回の反省を活かし、自分の肘あたりをグッと掴み、出来る限りアテスと腕の間を開ける。
だが足は彼女の体を思いっきり締め付け、決して離れないと体が示す。
「では、参ります!」
掛け声と共に走り出し、剣を抜く。
自ら魔物に近寄って、通り魔の如く魔物達を切りつけて倒していく。
まさか特等席で目にも止まらない剣技を披露されるとは思わなかった。
僕がいるせいで大きくは振れないけど、それでも美しいとわかる技だった。
ブレのない剣捌き、的確に急所を狙う正確性。どれをとっても一流といえるだろう。
しかし、そんなことをしても活路が見出せずにいた。
次々と魔物達が押し寄せ、ついには絶体絶命のピンチを迎える。
「これは面倒ですね。リンさん、ちょっとだけ本気をだします。しっかりと捕まっててくださいね!」
「うん」
僕は自分の肘を思いっきり掴む。爪が食い込んで痛くなるほどに。
そして、アテスは剣に手を添え囁く。
「
彼女の持っていた剣に風がグルグルと渦巻き始める。まるで小さな台風のようだ。
だがそれを見れたのは一瞬。アテスは場で回転切りをしたのだ。
景色が急に変わったから何が起きたのか理解するのに時間がかかったけど、とりあえず彼女のしたことは全て目では追えた。
だが何をしたのかはわからなかった。
でも、その答えはすぐに出る。
周囲の魔物は動きを止め、体が突然爆散して魔石をポロっと落とす。
明らかに剣が届かない位置にいた魔物さえも魔石に変わった。
遠距離攻撃かと思えば、周囲にある草木には切り傷などなく、強風に吹かれたように靡いるだけだった。風なんて吹いてないのに。
アテスはそれを見届けることなく再び走り出す。
僕は振り落とされぬよう、彼女のお腹にキュッと足を締める。
さっきまでの魔物達が嘘のように消え、怖気付いて逃げたのかと思ったが違うようだ。
小さいながらもキランと光る魔石を見逃さなかった。
周りに人はいない。ならこれをやったのは誰だろうか?
そんなのは決まっている。アテスだ。
あの一撃は、一体どこまでの範囲を攻撃したのか想像もつかない。
「アテスさんや?さっきの技はなんだい?」
「変な喋り方ですね。まあ良いです。詳しい話はまた今度で」
「はーい、師匠」
これで勉強会での内容がまた貯蓄された。
理解できるかは置いといて、彼女との勉強会は意外と楽しみだったりする。
「しかし、何故ここまで魔物達が移動してきたのか検討もつかないですね」
「異世界初心者の僕には何が何やらだよ」
一応、考えてはいるのだよ?
でも、アテスがわからないのなら、僕に解答なんて見つかるわけがない。
推測と考察で物事を考え、暫定的に今の答えを導き出すしかない。
つまりだ、想像は自由!ありもしない可能性を提示しても良いわけだ!(錯乱)
「もしかして、近くにドラゴンとかいるんじゃ」
「その可能性は大いにありませんね」
「ないのかよ!ある感じだったじゃん今」
ちょっと期待した僕がバカだった。
「そもそも、この世界にドラゴンって存在するの?」
「それはもう滅茶苦茶いますよ。ですが、ここには来ませんね」
「どうして言い切れるの?」
「理由としてはここに来る意味がない。遠い。縄張り意識が高いことが挙げられます」
「でも、縄張りから追い出されるかもしれないじゃん?」
「あり得ませんね。奴等は基本的に、仲間意識が強い傾向にあります。だから、仮に追い出そうと動くとなると、殺すことが多いです」
こわ。
しかし、イメージしていたドラゴンとは結構違った。
もっとこう……孤高の存在であり、暴虐無人みたいな感じだと思っていた。
けど、この世界では手を出さなければ、割と温厚そうな感じだ。
「でも、ごく稀に生きながらえる化け物も存在します」
「……リンチから生き延びた個体?」
「言い方はアレですがそうです。そいつは群れという拠り所を失い、自暴自棄になり、破壊の限りを尽くす化け物になります。通常の個体と比べて、何度も死地を潜り抜け、骨格から肉体まで変貌し、もはや生物としての領域を超える存在になる可能性があります」
何だそれ?蠱毒か?
いや、結構違うな。アレは毒を持つ生物を瓶の中に入れて、最終的に生き残った奴が蠱毒になるのだ。
今回の場合は、何かしらが原因で殺される奴が偶然生き残ってそうなったのだから、過程は違えど結果は同じか?
「どれくらいの強さなの?」
「一晩あれば、国1つは消滅します。実際に記録として残っているのは、たった一体で5つの国を消し去りました」
「え、ヤバ」
動く災害。それが1番しっくりくる例えだ。
「そんな奴をどうやって倒したの?」
「えーっと、確か記録によると……リンチをして、敵のトラウマを蘇らせて、精神的に追いやってから殺したと」
「まさかの精神攻撃!流石に可哀想だよ」
国を滅ぼした巨悪でも、流石にそれは同情というか、可哀想だと思えて来る。
「冗談です。本当はゴールド級の冒険者の人達が命を賭して戦い、長い月日をかけて討伐したと記されています」
ゴールド級ってのは冒険者ランクを示すもの。
僕達がギルドで冒険者登録をした際に貰ったこの銅板。これが階級を示すもの。
依頼をこなすと上がっていく。
僕はブロンズ級。1番下の階級である。
1番上がプラチナ級と呼ばれて、その下の階級がゴールド級である。
つまり、かなりの実力者達が束になっても倒すのに苦戦をしたということだ。
「何故嘘を……大事な記録なのに」
「正直に話してしまうと暗い雰囲気になりそうだったので」
アテスなりの気遣いらしい。いや、正直今更だよ。
ドラゴンの話からちょっと変な空気だったよ。
「とりあえず、ドラゴンの可能性はないってことで良いよね?」
「それはもちろん」
「じゃあ何なんだろう」
アテスの反応からして、魔物の習性ってわけでもなさそうだし……うん、考えるのはやめようか!
素人が首を突っ込んで痛い目を見るのは明白だ。
生態調査はプロに任せて、僕達は依頼のことを頭に入れよう。
「……後ろから魔物の気配。私達を追いかけています」
「まさか標的にされたの?!」
「わかりませんが、とにかく奇妙ですね。アレほどボコしたのに」
「もしかしたら、助けを求めているのかも?」
「……あり得ないとは言い切れないかもです」
歯切れの悪い解答。
一応、魔物は魔石が体内に存在する動物って認識だから、動物としての本能が残っているのならあり得るかもって考えた。
しかし、アテスさんの言い方を見るに基本的にそんなことはないのだろう。
だからこそ彼女も、もしかしたらの可能性を見たのかもしれない。
助けを求めている。そう解釈すれば、魔物が僕達に執着するのも理解できる。
「しかし、奴らが助けを求めたとしても、私達を襲ってきたことは変わりません」
「うーん、どうにか対話出来れば良いんだけどね」
「残念ながら、そう言う魔道具は存在しないので諦めてください」
「なら僕達で作っちゃう?」
「嫌ですよ。面倒ですし」
「アハハ、だよね」
魔道具の作り方なんて知らないけど、何となく大変そうなのはわかる。
「とにかく、この件に関してはギルド上層部に任せましょう。これほどの異常事態なら、近いうちに解明するはずです」
「うーん、歯痒いね」
「まあ原因の居所はわかりますよ。空間把握に1つ異常な反応を見つけました」
「多分それって、さっきの街の西の方だよね」
ゴレイグさんが教えてくれた方角。
さっきの魔物達もそっち方面から流れてきたとアテスが言っていた。
「その通りです。そしてそこには、何やら不穏な魔力を検知しました。今もそうです」
「え、結構距離あるよ?わかるの?」
「ギリギリですよ。後1、2歩地面を蹴れば消えます。はい、消えました」
「急だな」
でも、謎の生物はコッチには近づいてこないようだからひとまず安心。
しかし、ピンチなのは以前変わらず。
逃走中ばりの走りを見せるアテスと見えないハンター(魔物)。
この鬼ごっこ状態を維持しながら、やっとの思いで前の街に辿り着く。
街に入って、城門前に下ろされた。
ふと背後が気になって振り返る。
近くにある草木の隙間から見える血のように赤い眼光。
奴等は街の中に入って来ることはないけど。
いつもは恐ろしいとさえ感じたそれは、どこか悲しそうな目をしているように思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます