新天地へ
第11話 新しい街……への道中……の準備
ミアちゃんのお母さん、いやお
では、街の外へーとはいきなりはならない。
流石の僕でも外の危険はもう知っている。
だから、前に剣を貸してもらった鍛冶屋に何か鎧のような物を借りようと、アテスから提案された。
そんなわけで…。
「うんうん、似合ってるよー。あたしの見立てに間違いなんてなかった!」
いや、さっきも聞きましたけど、それ。
一体何か起きているのか。
そう僕達は、現在進行形でリカちゃん人形のように何度も着せ替えをさせられているのだ。
「……はぁ」
あ、アテスさんが呆れてる。
ゴミを見るようなその眼差しは、色んな人の性癖を歪ませることだろう。……僕は違うからね!
にしても、なんて言うかその……結構際どい服を着せられてますね。
胸元を曝け出したビキニのような鎧に、引っ張ったら簡単に取れそうな
鎧としての役割を果たせそうにないその格好は、目のやり場に困ってアテスを直視できないでいる。
他人が見たら間違いなく痴女と勘違い……いや事実か。
「……何か?」
「いえ、別に」
背筋が凍りそうだった。代わりに冷や汗が伝う。
ここでからかったら、確実にその右手の剣で一突きだ。
コスプレ会場が、一気に殺人現場に早変わりすることだろう。今も相当事件性はあるが。
それにしても……久しぶりに見るな。奴隷紋。
アテスの胸元に描かれた赤い紋章。
彼女と初めて会い、初めて目の当たりにした奴隷という存在。
僕とアテスの関係を示すそれは、今まで誰かに見せたくないと隠してきたのだけど、メチャクチャに曝け出している。
アヤさんも結構驚いていた。まあすぐに着せ替えに戻ったけど。
あれを見ていると心がザワザワとする。多分罪悪感のせい。
「さあさあどれにする?」
「……無難に1番最初の奴でお願いします」
熟考する余地もなく答える。
アヤさんはつまんなそうな顔をしたけど、渋々要望に応えてくれる。よかった。
流石にアテスを今の格好で歩かせるわけにはいかない。これは僕の良心と命のためだ。
まあどんな服を着ても、あのクソダサお面のせいで帳消しだけどね。ハハハ。
アヤさんが持ってきてくれた服を再度着る。
僕のはメンズ物のちょっとダボっとした感じの服を基調とした鎧。
軽くて、動きやすさを重視してるので、装甲部分は少ない。
アテスの方は何と言いますか……結局露出はあるんですよね。
サバゲーとか軍事服とでも言えば良いのか、それを基調として関節部辺りに膝当てみたいなのをつけている。
ほぼ全身黒色に染まり、色気のいの字もない格好だ。
カッコいいと感嘆を漏らしてしまうほどには似合っている。多分、何着ても似合ってる。
ここまでの説明で不審な点はないだろう。一般人が聞けば普通に感じる。
僕も普通だと思う。
ただ、意味不明なヘソだし意外は!
「やっぱり変だよ、あれ」
「えぇー、可愛くない?あたしは気に入ってるんだけどなー」
アヤさんの耳元で囁く。
最初見た時、ドキッと心臓が跳ねたものだ。
綺麗な素肌を晒し、どこか
何故こんな設計にしたのって聞いたら、彼女の趣味とのこと。
アテスを見て思いついたそうな。
いやいや!体を守る物なのに晒してどうする!?と突っ込んだけど、安心しての一言で終わらされた。
これでも提供された防具の中では露出が少ない方なのだ。
「まあでも、あんな奇抜な格好させられるよりはいいんじゃない?」
「奇抜っていう自覚があったんですか」
奇抜もとい、身につけた物の半分がコスプレに近い服だった。
メイド服やら、女騎士やら、執事の格好まであった。
それを防具としてカウントするなら、露出が少なかったのは全身黒タイツの服だった。
実用性あるのか?と尋ねたところ、本人曰くあるらしい。本当か?
「……これ、やっぱりお腹が冷えますね」
「おや!気になるのかい!だったらこっちの方に」
「この服最高ですね。今までで1番かもです」
掌クルックルで笑いが込み上げてくる。
ロクな物がないのだから諦めろ。
「はぁ……まあ文句は言ってられませんね」
「そうだよ。これをタダで譲ってくれるんだから」
そもそも何故僕達がコスプレ……着せ替え人形になっていたのか。
話は単純。アヤさんがこれらを試着してくれたら、欲しい服をタダであげると言ってくれたのだ。
金欠の僕達にとってそれは、首を横に振るわけがなく、あっさり承諾した。
「しかし、何故僕達に良くしてくれるんですか?」
武器の件もそうだった。
結局あれも、気に入ったのならあげると言われ、貰ってしまったのだ。
出会って数日の我々にどうしてそこまでしてくれるのか気になる。
「うん?友達だったら普通のことでしょ?」
「いやいや普通じゃないよ!」
僕の感覚で言うと、物の貸し借りぐらいは普通の範疇に入るけど、上げるまでいくと普通ではない。
大体その場合は、いらないから上げるみたいなニュアンスが多いと思う。
しかし、貰った物を見れば、高値がつきそうなほど綺麗で、カッコいい物ばかりだ。
「そうなのかい?まあ気にしないで。こう見えて、結構稼いでるからね」
それは以外。
ちゃんとこの武器に価値を見出している人が多くいるってことか。
そうか、冷静に考えれば素人の僕でもこれが素晴らしい物だと瞬時にわかったんだ。
他の人が気づかないはずがない。
「それに、しばらく休業するんだし。ちょっとくらいはサービスしなきゃね」
「え、休業しちゃうんですか!?」
これにはアテスも少し驚いたようで、僕らに視線を向ける。
「何故急に?」
「別に急じゃないよ。元々決まっていたことだし」
「ああ、そんなんだ」
「大体、1年くらいで戻ってくるかな」
「へぇー、結構長いですね。どこに行くんですか?」
「新婚旅行だよ」
「えぇ!アヤさんって結婚してたんですか!?」
本日2度目のビックリ。
アテスを見ているせいで鈍っていたけど、アヤさんは一般的に見れば美人の部類に入る。
年齢はわからないけど、恋人の1人や2人いてもおかしくはない。……2人だと不純だな。
「あれ?言ってなかったっけ?アテス君には言ったはずなんだけどなー」
チラッと視線をアテスに向ける。あ、逸らした。
そんな面白そうな話を黙っていたなんて、僕は悲しいぞ!
……でも、この反応を見る限り、忘れてたっぽい気がする。
何があったのかは知らないけど、一旦アレは放置するか。
「へぇ、どんな人なんですか?」
「君たちは一度あったことがあるはずだよ」
「本当ですか?」
頭をフル回転させる。それはもう熱で神経が溶けるほどに。
しかし、思い返してもそれっぽい人とは出会ってない気がするんだけど……本当にあってるか?
「ヒント!ヒントを」
「アヤちゃん、そろそろお昼だよ」
アヤクイズのヒントを貰おうとした瞬間、扉の奥から幼い声が聞こえた。
どこかで聞いたことがあるようなーって思い出す暇もなく、その姿を現した。
「アヤちゃん、またお仕事に熱中してるの?」
ソッと優しく開かれた扉の向こうには、声の通り幼い少女の姿。
あ、僕達が泊まっているホテルの受付の人だ。名前は知らない。
その少女は僕達を見るや否や、礼儀正しくお辞儀をして挨拶をしてくれる。
「こんにちは、リンさん」
「どうもー」
育ちの良さの違いが出てるぞ僕!
「それで結婚相手って誰です?」
「ふふん、ヒントはすぐ目の前さ」
……え?まさかだよね?
「えーっと、ところで名前ってなんです?」
「あ、そう言えば名乗ってませんでしたね。ウチはキアラと言います」
「そのー、キアラさんはもしかしてだよ?アヤさんのお嫁さんだったりする?」
「はい!ウチはアヤちゃんのお嫁さんです!」
めっちゃいい笑顔で答えるじゃん!
アヤさんを見る。
こんな美人で優しくて、恋愛とか興味なさそうな人(失礼)が幼女と結婚しているなんて。
まさかロリコンなのか?!
「何か失礼なことを考えてるね」
「あ、すみません。……一応、お2人の年齢を教えてください。一応ですよ」
まだ見た目が幼いだけの成人だと言う可能性を信じて聞いてみる。
「あたしが18で」
「ウチは12歳です」
はーい、アウトー。僕の世界なら豚箱行きでーす。
この世界の法律は分からないけど、普通じゃないことはわかる。
「……それって犯罪なんじゃ」
「むむ、ちゃんと彼女の両親公認なんだよ。手もまだ出してないし。ギリギリセーフさ」
「手は出してないんですか……あ、じゃあ逆に手は出されてるんですね」
「…うっ」
顔赤!あからさまに動揺していらっしゃる!
冗談半分で言ったつもりだったけど、特大な地雷だったようだ。
そばでニコニコと笑顔を保っている少女。
……最近の子供って恐ろしいね。
「へ、へぇ……仲良しですね」
「茶化さないでよ」
モジモジと恥ずかしそうにする。可愛い。眼福、眼福。
「ところでアヤちゃん、この服は何?」
その言葉を聞いた瞬間、アヤさんの動きは速かった。
服の入った箱を奪い取り、背後に隠す。
この間1秒。残像だけが見えた。
「な、何のことかな?」
「ふーん……それでこれは誰が着るのかな?」
キアラさんの手には、先ほど見たメイド服をゆらゆらと揺らしていた。
それを見たアヤさんの顔は熱を帯びたのか、頬を赤らめて目を右往左往させる。
それを見た幼い少女は狡猾な笑みを浮かべ、アヤさんに近づいて行く。
「これは誰が着るのかな、アヤちゃん?」
「えーっとそれは」
「……アヤ?」
呼び捨てで呼ばれた瞬間、アヤさんはビクンと体を震わせた。
幼い少女は彼女の腰に手を回し、耳元で何かを囁く。
何を言っているのかわからないけど、段々とアヤさんの顔がこれ以上ないほど赤く染まっていく。
一連の行動はどこか妖艶な雰囲気を漂わせ、2人の関係性を表しているようだった。
……僕ここにいちゃダメな気がする。
「明日から旅行だったけど……明後日に変更ね」
「……はい」
「どっちが大黒柱かはっきりわからせてあげるよ」
「……うん」
そう言ってキアラさんは部屋を出た。
アヤさんはその場で腰を抜かしたように崩れ落ちた。
耳まで真っ赤にして何を言われたんだろう?
「何が起きたんです?」
あ、何も見ていない痴女がやって来たよ。
ちなみに、この痴女さんはずっと工房を弄り回していて、こちらにも見向きもしなかった。ちょっとぐらい興味持てよ!
しばらくして、アヤさんは立ち上がり言った。
「コホン、へ、変なところを見せたね」
何事もなかったかのように平静を装うけど、もう手遅れよね。
2人の上下関係が見えた時点で何かを察したよね。
「てな訳で、後はこれとこれと、ああこれもだね。はい!」
大きなバッグを渡された。
中には大量の服が入っている。しかも普通だ!
「これ……くれるんですか?」
「そうそう、いっぱいあたしの……何でもない!とにかく、またどこかで!お風呂入って来ます!」
そう言って、慌てて部屋から出て行った。
うん、なんか……ごめんなさい。
何に対して謝っているのかわからないけど、とりあえず僕らの目的は達した。
何ならそれ以上の成果だ。
でも、流石に貰いすぎは良くないから、どこかで出会ったらお金を渡すことにする。
「一体、何が?」
今だに状況が掴めていない痴女は放っておいて、僕達は鍛冶屋から退出していく。
今度こそ、隣町に向けて出発するのだった。
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