第9話 眠る
『
この世界の神には名前がないらしい。何を司るのかが唯一の分ける手段だ。何故これを知っているのかというと……自分でも分からない。恐らく俺の眼からの情報だと思う。
決まった、と思っていた。
これでもう俺の神の力は限界だ、時間を空けないともう一度使えない。なるべくダメージを負わせたかったが——
『……やっぱりすぐ殺すべきだったね』
神は頑丈すぎた。
「………クソッタレ」
あいつはまだ立っていた。焦ったような表情を浮かべてはいるが、戦闘不能状態ではない。むしろこちらをすごい目で睨んでいる。
『つくづく僕は見誤るなぁ。お陰で危なかったよ』
「……」
……勝てない。今の俺じゃ、やはり無理だった。
『さっきはあんなに格好つけてたのに、どうしたの?』
「いけるかも、と思ったんですよ」
『ふふふ……ははははははは!!』
気持ち悪いぐらい笑うアレに、俺は思わず顔を顰める。
『舐められたもんだねぇ!!!この程度で死にはしないよぉ!!!』
見たことないほどキレている。何だか面白い。顔も真っ赤だ。
『はあ……』
「急に落ち着かないでくださいよ。気味が悪い」
『殺す』
めっちゃキレるじゃん。怖いわ。
『君に僕の邪魔はさせない』
俺の目の前に轟々と燃え盛る太陽が、俺よりも大きな黄金が現れ、俺に向かってくる。
今はただ、受け入れるしかない。次に戦うのは、何年先だろうか。
「お前を殺す」
『待ってるよ』
捨て台詞を吐いて、俺は太陽に呑み込まれた。
◇
アルスは精神世界で殺されたことにより、その精神は破壊された。現実世界では、アルスの気絶していた、たった5分の出来事だった。
「アルス?目を覚ましたのか………ッ!?」
最初に気付いたのはルイだった。アルスは目を覚ましたが、その目に光はなかった。
「閣下、どうされましたか?」
部屋に戻ってきたシルトもその異変に気付いた。
「わからん。目を覚ましたが、はっきりとした意識がない……」
「……この症状、まるでファランス症候群に似ていますね」
ファランス症候群。それは意識が長期間曖昧になってしまう病気。この世界にしかない病気で、発症する理由も分かっていない。
その名前はアスタニア王国南部に存在する迷いの森、ファランスの森から取られた。そう名付けられた理由として、その森の奥深くに入った者は魂を抜き取られるという御伽話があるからだ。
また、実際に森に立ち入った者の全てに同じ症状が出ている。
しかし、シルトは疑問に思った。
「アルス様は、ファランスはもちろん大樹海にも入ってませんよね?」
「ああ」
「では何故同じ症状が……。腑に落ちません。そもそも、神眼との関係性も不明ですし」
「そうだな」
「原因解明を続けるべきですね……閣下?」
シルトはルイの悔しがる表情が見えた。
「俺には……何もできない……!自分の子供の為に、してやれることがない!!」
「閣下のせいではありませんよ」
「分かってはいるが……!」
当然、ルイに責任などない。何もできなかった自分の不甲斐なさを恨んでいるのだ。もしこのままアルスが治らなかったら、王国の痛手となり、ルクサス一家は悲しみを生涯抱えたままになるだろう。
アルスのことはもちろんアリスとアイに伝えられた。彼女たちは、虚ろな目をした少年の前で泣き叫ぶ。
「何で……!何でッ!!」
「うう……。おきてよぉ!」
伝わることはない言葉を繰り返す彼女たちは、これからも祈りを続ける。アルスが復活する、その日まで。
———————————————————————
一旦アルス視点から変わります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます