第8話 声の主
「…んん?」
俺は見覚えのある草原に一人で立っていた。見渡す限り草原しかないこの場所に見覚えがある。ここは太陽神と会った場所だ。
「確か、神眼を開放するとすごく痛くなって、それで気を失って、それから…」
『気が付いたかい?』
「ッ!!」
その声は忘れもしない憎い声、何も知らないようなのほほんとした声、さっき聞いたばかりの声だ。
その主は何もない草原の上の空から降りてくる。
「太陽神…!」
『そんなに怒らないでよ。怖いなあ』
「ならあれはどういうことでしょうか?なぜ神眼を開放したときに起こることを説明しなかったのか、答えてくれますよね?」
『いいよ。でも君気づいてるでしょ?』
「……」
そうだ。俺は明鏡止水を発動したときに気付いた。
俺の中に魔力で通り道が作られていることに。そこには俺の魔力が流れていた。
「あなたは俺の魔力を吸収し、自分の力にしようとしていた……違いますか?」
『大正解だよ』
でも、不思議だ。なぜ俺は魔力が減っていることに気付かなかったのか?
『そこは神の力でちょっとね』
「曖昧な答えですね」
『正直に答えると思う?』
あいつの体が揺らめき、気が付けば俺の目の前に移動していた。
「思いませんねッ!」
俺は顔面に飛んでくる拳を体を少し右にずらして避け、お返しにと素早く殴り込む。しかし、あいつは余裕の笑みを浮かべていた。
『でしょ?』
またしても見えないほどのスピードで距離を取り、不満げな表情で話し始めた。
『君の脳にはかなりの情報を送り込んだはずだったんだけど、耐えるとは予想外だね』
「この身体は強いですからね」
『思った以上に強いね。神に近づけるほど』
「神でも予想できないことがあるんですね」
『運命の神ではないからさ』
…神の能力は役割分担でもされているのだろうか。
『でも、そんなのはもう関係ない』
「は?」
『君はここで精神が死ぬんだから…』
精神が死ぬ…?
『ここは神界と言ったね。あれは嘘だよ』
「……」
『ここは君の精神世界。現実じゃないんだ、僕も君も』
「じゃああなたは一体…」
『もちろん僕の体は現実に存在してるよ。ただ君の精神に干渉してるだけさ』
…ということは、俺は気を失ったまま?
『そう。そして、この世界で死ぬことは精神の崩壊を意味する』
「俺をここで殺そうと——」
『うん』
俺が理解し終えた直後、突然息ができなくなった。
「ガハッ!!」
『そういうこと』
俺の腹には、あいつの拳がめり込んでいた。それがわかったと思った途端、俺の身体は吹き飛ばされた。
「うぐっ!」
10メートルほと吹き飛ぶと、あいつに首を掴まれ、締め付けられた。
『今ここで君を殺せば、君の精神状態は確実に壊れるだろう』
「う…!」
『でも安心して、多分治るよ』
だから何なんだ、生まれたばっかなのにまた死ぬなんて、たとえ精神だけでも真平御免だ!
「離せ…!」
『使徒が使えなくなるのは残念だけど、それ以上に君に力をつけられたら困る。僕は楽観的だったね』
首を掴まれたまま、地面に押し付けられた。
「ア」
『僕は大人しく力が溜まるのを待つよ』
痛い。こんなに痛かったことはない。でもそれ以上に、無性に腹が立つ!
「『
『おっと』
「『
俺を中心として大きな爆発が起きる。俺の眼がこれを知っていた。あいつは手を離して防御体勢をとったので、何とか立ち上がった。だが——
『ま、まだこの程度だよね』
あいつには何も効いていなかった。
「何で…」
『いや、僕のこと舐めすぎでしょ。太陽神だよ?力を手にしたばっかの奴に負けるわけないでしょ』
「チッ…」
完全に舐め切っていた。あんな言動と雰囲気の奴だから、思わず下に見ていた。
どうする…、斧は無い。あと太陽の力が使えるのはあと一回だけだと、俺は理解している。魔法は【
『言い忘れていたけど、ここで現実と同じことができるのは僕が神力を使ってあげてるおかげだからね?』
今そんなことはどうだっていいんだよ!!
『つ・ま・り』
「あ…」
目の前に来たあいつは、憎たらしいほどニヤニヤしていた。
『僕は圧倒的に有利なんだよ』
手のひらには、赤く轟々と燃える太陽があった。
『これでお終いにするには少しあれだから、もうちょっと君を動けなくしてからにするよ』
「は——」
拳が降ってくる。だが…諦めない!
「『明鏡止水』!」
その瞬間、アイツの動きは目に見えるほど遅くなり、俺は攻撃を受け止めようとする。
「捉えたっ!」
『さすがに使うよね。じゃあ…』
目の前にあった拳が無数に増えたように見える。ただ連続的に繰り出しているだけだ。焦るな、俺。
「『加速』、【身体強化】!」
咄嗟に回避の判断を取り、何とか後ろに下がりながら避けたが、やはり追いつかれてしまった。
『無駄だって』
「無駄じゃない」
『……』
アイツは警戒した。そして、足が止まった。それは1秒にも満たない時だった。
「『加速』=『明鏡止水』」
その瞬間、さっきまで慌てていた俺の脳は落ち着き、より深く思考が加速される。
「【身体強化】!」
『ああ、スキルをスキルに使ったのか。それと魔術の並列詠唱。予想済みだよッ!』
「どうかなッ!」
駆け出し、真正面から突っ込み、殴る。
『しぶといなあ君は!!』
「そっちこそ!!」
戦術もクソも無い、ただの肉弾戦。お互いの拳がぶつかり合い、身体のそこら中が痛む。スキルと魔術で底上げした身体能力は、弱体化したとはいえ、神にも届くらしい。
が、そろそろ限界かもしれない。
『ふふっ。君はまだまだ子供みたいだねぇ!!!どんどん体力がなくなっているのが手に取るようにわかるよぉ!!!』
「う…!」
そう。俺はまだ子供だ。身体も精神も神より上ではない。格闘技術だって、この世界ではまだ弱い方かもしれない。
だが、それがアイツの油断を誘った。
「【
『たかが光の玉如きに何ができるって言うんだい!?』
「ただの魔術じゃあないよ!!」
『ッ!?』
俺を舐めすぎたな。
「『
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あとがき
忙しい期間を何とか乗り越えましたので更新再開です!中途半端に更新停止して申し訳ありませんでした。
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