第2話 魔術
俺の名前はアルス・ルクサス。ルクサス公爵家の長男である。
俺には前世の記憶がある。日本という国で、一人の男として人並みの幸福を得て生きていた記憶が。
そこで俺は頭をかち割られて死んで、この世界に転生した。
そして今…
「キャー!可愛いわアルスちゃん!すごいわアルスちゃん!」
「う〜」
俺は歩きの練習をしている。ちょっと前から歩けるようになったのである。喋れるようにもなっている。ちゃんと喋れはしないが。
前世の記憶が戻ってから三ヶ月、俺は一歳になった。
歩いている俺を見て嬉しそうに叫んでいるのは俺の母さん、アリス・ルクサスだ。
髪はライトブルーで、背中の真ん中あたりまで伸ばしている。優しげな垂れ目で瞳の色は金色、容姿端麗でまるで妖精のようだ。
そんな母さんの横に立っているのはメイドのマリア。茶髪緑眼。こちらも大変容姿がよろしい。
——ガチャッ。
ドアを開ける音がする。
「おお!もう歩けるようになったのか!」
そう言ったのは俺の父さんである、ルイ・ルクサス。
髪は俺と同じ輝くような金髪で短く切り揃えられている。キリッとした目で、瞳の色はサファイアブルー。とても顔が整っていて、ガタイがいい。
「ぱぱ〜」
試しにパパと言ってみる。
「っ!うおおおおおお!アルスゥゥゥゥ!」
抱きついてきた。
こんな感じで少し親バカだが、とても良い両親である。
「まま、ぽわぽわ!」
「ん?ポワポワとは何だ?」
「ふふっ。
「なるほど!まだ一歳なのに魔術に興味があるのか!」
「アルスちゃーん。はい、【
周りの魔力が集まっていく気がし、それは手のひらぐらいの大きさの光の球として現れた。
そうなのだ。この世界には魔術がある。魔術があるので前世では考えられないことも簡単にできる。
また、この世界の人は地球の人よりも身体能力が段違いである。
例えば、父さん。父さんの脚力は家の屋根に軽くジャンプするだけで登れるし、俺たち家族が住んでいる屋敷の中を一瞬で走り抜けられる。そのぐらい違うのだ。
…父さんがおかしいのかもしれないが。
まあ考えていてもしょうがない!つまり前世では考えられないほど強くなれるということだ!
よーし!斧使って無双するぞー!と思ったが、俺は一歳、斧なんてまともに持てるわけがない。
そこで!俺はこう思った!
——魔力を鍛えれば良いのでは?
俺には魔力の流れが少しだけ見える。
だから俺の中にある魔力にも気づくことができた。
——うわ。なんか温かいのがある!もしかして、これが魔力か?
それから俺は、魔力を自分の身体に張り巡らせたり、外に出してみたり、魔力をどんどん練っていくイメージで密度を高めていったりした。毎日繰り返していき、一ヶ月すると、
——あれ?前よりも魔力の量が増えてる?
赤ん坊は出来ることがほぼ無いので、俺は毎日魔力トレーニングに時間を費やしていた。
これで分かったことは、魔力は死ぬほどトレーニングしていくと増えていくことだ。
それを理解した俺はもっと気合いを入れてトレーニングしようとしたが、この身体は赤ん坊なのだ。疲れたらすぐ寝てしまう。
また、魔力を外に出しすぎたりすると、眩暈がしたり、身体がだるくなったりした。恐らくこれが前世のラノベでよく見た
しかし、魔力不足を繰り返すことで魔力の保有数が上がっている気もするのだ。
「アルスちゃん?どうかしたの?」
【
「あうあうあうあ(なんでもないよ)」
…ぼちぼち頑張っていこう。
◇
夕方。
誰もいなくなった部屋で、俺は母さんがさっき見せてくれた
「あうあーあー(【
——ポワッ
俺の舌足らずな言葉と共に、部屋に小さい光の球が無数に現れる。
最初に【
——百個って一般基準でどのくらいの凄さなんだろう?
もちろん部屋の中には誰もいないので、答えてくれる人はいない。
——俺的には、何だか凄い気がするな!…………あっ、眠い。
赤ん坊は寝るのが仕事と言う通り、すぐに眠たくなってきた。
【
——ご飯……食べ終わったら…また……やろ…う
俺は深い眠りに落ちた。
俺はこんな日を毎日繰り返す。
そして月日は流れ………
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