公爵令息はどうしても斧を振り回したい

ばにらぱるむ

第一章 眠れる美少年編

第1話 斧が好きな人

初投稿!

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 俺はおのが好きだ。剣や刀よりも斧が好きだ。ハルバードやトマホークも好きだ。槍よりも好きだ。斧投げの体験にも行ったことがある。的に当たったら爽快感があって良かった。家には手斧もある。そのぐらい俺は斧が好きだ。

 

「オラオラァ!!てめぇら全員死んじまえええ!!」


 いつものように街へ出掛けていると、通り魔がいた。しかも斧を持っている。


 あの斧、ネット通販で買えるキャンプ用のやつじゃないか?こんなところで振り回すなんて、馬鹿馬鹿しい。


 俺はその場から離れようとした。しかし、


「オラァ!」

「あ――」


 後ろの路地の中からもう1人が飛び出してきた。そいつの振るった斧は俺の頭に直撃、衝撃が俺の身体全体に伝わり、周りに誰かの悲鳴が響き渡った。


 こんなところで死ぬなんて…。まだ親孝行も何もしてあげられていないのに。友達にも別れの言葉を伝えていない!


 次の人生は強くなって斧を振り回したいなあ。あとついでにイケメンになりたい。


 そんな馬鹿なことを考えている俺の意識は段々遠くなっていった。







 その日、1人の貴族の子が前世の記憶を思い出した。


「おお!なんとも愛らしい子だ!髪の色は俺に似て金色で、瞳の色もアリスに似て金色だ!男の子なのだろう?」

「ええ、とっても可愛いでしょう?私たちの子は」

「そうだな!よく頑張ってくれたアリス!」


 ——なんだこれは…。一体どうなっているんだ?なんかダンディーな男に抱きかかえられてんだけど。


 突然起こったことに俺は困惑した。


 ——もしかして、これ巷で話題の異世界転生ってやつ?マジ?


 ダンディーな男の人にアリスと言われた女の人は俺を見て微笑みながら言った。


「この子の名前はアルスにしましょう。アルス・ルクサス」

「良い名前だ。将来どんな子に育つか楽しみだな!」

「ふふっ、少し気が早いわよ」

「それもそうだな!あっはっは!」


 ——アルス・ルクサス。俺の名前か。このダンディーで傷だらけの男の人が俺の父で、そっちの妖精のような感じの人が俺の母か。


 現実味がない感じもするが、なんとなく心地良い気がした。


 ——にしても笑い声がでけえな。


「うええええん!」


 ——あっ。泣いてしまった。まだ成長していないから自分でコントロールできないな。


 少し広く、暖かな日差しが窓から来ている部屋に俺の泣き声が響く。


「おっとっと、よーしよし」

「もう、あなたは笑い声が大きいのだからもうちょっと抑えてといつも言ってるでしょう?」

「む…そうだったな」


 父さんが肩をがっくしと落とした。それがなんだか面白かった。


 ——何というか…笑顔の多い人たちだ。きっと幸せなんだろうな。この人たちの子として生まれたことは嬉しいなあ。


 俺は幸せそうに笑った。


「あうあー!」

「アリス!今この子が笑ったぞ!見ていたか!」

「見ていたわ!ああ、なんて可愛らしいの!」

「ご主人様、奥方様、一回落ち着いてください…ご子息がもっと泣いてしまいます」


 その時そばにいたメイド服を着た女の人が両親を宥めていた。


 ——この人、もしかしてメイドさん?メイドさんがいるってことはうちはお金持ちなのかな?


「あら、ごめんなさいね、マリア。少し興奮しちゃって…」


 母さんがしょんぼりした。


 ——母さん若いな!なんで可愛く見えるんだ?


「それでいいのです」


 マリアと呼ばれたメイドさんは困ったような表情をしていた。いや、それよりも…


 ——母さんをいじめないでやってくれ!


 そんな俺の思いが通じたのか、父さんは、


「まあまあ、いいじゃないか。なんたって今日はこのルクサス公爵家に長男が産まれたのだからな!」


 ——ん?公爵家?それって中世とかの貴族のなかで一番偉い人じゃない?


 俺の顔は驚愕に染まる。すると、父さんは不思議そうな顔で俺の顔を覗き込んだ。


「ん?どうした?何かあったか?」

「どうされました?」

「いや、この子が驚いているような顔をしていたのでな」

「ご主人様の顔が怖いので驚いてしまったのでは?」

「お前じゃなかったら怒っていたぞ」

「どうかご容赦を」

「…はあ」


 父さんはマリアさんにイジられてため息をついた。


——仲がいいな。まるで漫才だ。


 ——コンコンコン。

 雰囲気が良い空間にドアをノックする音が響き渡る。父さんは、


「どうしたマルロー」


 と言い、ドアの向こうから返事が返ってくる。


「至急、連絡が」


 ハスキーな感じの声がしてから、父さんは言った。


「入れ」


「失礼致します」


 そうすると、60代ぐらいの髪が白くなっている男の人が入ってきた。


「ご主人様、王城からの便りが届いております」

「見せてくれ」


 マルローという人は父さんに王城からの便りというものを渡す。


 ——というか王城って。中世的な感じの世界に転生したのか!


 便りを読んでいた父さんの表情は段々厳しくなっていっていた。そして、


「すまない。少し行ってくる。」


 母さんは心配そうな顔を浮かべて、


「そうなの…?まだこの子に会ったばかりじゃない」


 ——そうだそうだ!あ、俺生まれてからどのくらいだろう?髪が生えてるから6ヶ月ぐらい?


「国境で小競り合いがあったらしい。抑えてくる」


 父さんがそう言うと少し重い雰囲気になる。


 ——えっ?戦争なの?やばくない?というか父さん、貴族なのに最前線に行くの?


「絶対に生きて帰ってきて」

「分かっているさ」


 父さんは母さんにキスをし、部屋をマルローさんと共に出て行った。


 ——心配だなあ…。


 悲しい気持ちの俺を見て、母さんは優しげな表情で、


「お父さんが心配なのね?大丈夫よ。あの人はこの国で一番強いんだから。…でもごめんね、お父さんにあまり会わせてあげられなくて。」


 ——今まで俺は父さんにあまり会っていなかったのか?ん〜でも一番強いんだったら戦争してる国は使いたいよな。しょうがないか。


 俺は不安な気持ちを抑えて精一杯の笑顔を浮かべた。


「ありがとう。これから一緒に楽しい思い出を作っていきましょうね」


 そう言って微笑む母さんを見て、俺はこんなに良い母の子に生まれて良かったと思うのだった。


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あとがき

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