「おやすみなさい」

 階段を上り、自室に向かう鈴は私を見ずにそう言った。

「おやすみー」

 一人になったリビングで、私は締め切りが一週間後に迫ったエッセイを書き上げる。テーマは「家族」若い頃だったら思いつきもしなかっただろう。あのころはフィクションの世界ばかり見ていたし、それが正解だと思っていた。それはそれで良いことも今はわかる。その時代、その人に合った正解がある。

 父、充は定年退職で仕事を辞め、絵を描き始めた。唯は、異動で中学校が変わったタイミングで元同僚の先生とお付き合いを始めたらしい。鈴は、自身が立ち上げたアパレルブランド「Smell&Bell」のアクセサリーやコスメが大ヒットし、様々なメディアにも取り上げられた。

 こんなノンフィクションの世界が私の前には広がっているのだ。わざわざフィクションを追い求める必要はない。この日常は、今までのどんな賞よりも輝いている。

 何か楽しい会話はなかったか、と家族のグループメッセージを開くと、突然電話がかかってきた。

「もしもし凛さん?椿原です。もしかして、寝て

 ました?」

 一番フィクションな男からだった。

「起きてましたよ。どうかしました?」

 彼は申し訳なさそうに言う。

「今から行ってもいい?一晩泊めてもらったら

 朝には帰るから」

 私は少し笑って言う。

「もちろん、大丈夫ですよ。一日中いてもらっ

 ても構いません」

 彼からの感謝の言葉を受け取り、私は執筆活動に戻った。


「順風満帆?そんな事はない。でも、私の家族

 は皆、それを目指していて未だ届かない」

 と。

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日常はラララ 鷹園十一 @s2o3t4r8o

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