昔の話
父は過去の話をしたがらない。何も疾しいことがあるわけではない。ただ恥ずかしいとのことだ。
「人というのは、日々進化し続けているという
が本当にそうだろうか。私はあなた達を育て
る上で、昨日よりも今日、今日よりと明日と
いうように…」
「お父さん?どうしたの?」
姉が止める。
「実は三人、あ、いや四人に話さなければいけ
ないことがある」
私達と椿原さんは驚いたが、父の顔を凝視した。
「父さん、病気になってしまった」
父は笑みを浮かべながら言った。だからか、私達は一瞬理解ができなかった。
「病気って、」
椿原さんが口を開いたけど、言葉が続かないようだ。
「こうなったからには色々話しておきたい。三
人と椿原君のために」
父は丁寧に説明した。母がこの世を去る時に私達の色々を父に優しく教えたように。
それから一年、私達は手術の日を迎えた。
「充さん、俺、充さんがいなかったら、今日ま
で生きてこれなかったと思う。だから、必ず
生きて。お願いします」
謎の男だったはずなのに、私は泣いていた。何も知らないのに、これからどうなるのか、想像もついていないのに。
「お父さん、私達がついてるから大丈夫だから
ね。それに、先生も心配してないって」
凛は父の手を握った。
「私はお父さんとずっと一緒にいたい。良い先
生になるために、まだ一緒にいて」
唯はこのあと仕事に行く。
私はその姿を病室の端で見ていた。
手術は成功した。
年齢が年齢だからこそ心配は大きかったし手術が失敗する可能性もなくはなかった。でも、見事に成功した。癌が転移せずに済んだ。治療は少し続くけど、これが原因で命を落とすことはほぼないだろうとお医者さんは言った。
それからというもの、私たちは心底安心して今までの生活を取り戻した。これからも四人と母、そして京さんで楽しい日常が創っていけると思うと涙が溢れた。
「お父さん、生きてくれて、ありがとね」
すると父はゆっくり笑って言った。
「鈴はな、一番薫子に似てるよな。見た目もそ
うだけど、性格が。父さんのこと"充さん"って
呼ぶのも一緒だしな」
それから話された充さんの過去の話はどれも素敵だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます