涙の理由
朝六時、寝巻きのままリビングに降りると人の姿があった。この時間、人がいることはふつうだが、今日は日曜日。唯は遅くに出勤すると聞いているし、父は休日に早起きはしない。となると、一人しかいないか。
「おはよう、早いね」
私から声を掛けたが返事はない。
「鈴、おはよう」
少し大きな声を出すと、その女は両耳からイヤホンを抜いて振り向いた。
「あ、お姉ちゃんおはよう」
少し潤んだ瞳でこちらを見る。
「一回呼んだのに」
と小言を吐くと、彼女は平謝った。やはり瞳が光っている。一体、何があったというのだ。
「てか鈴さ、泣いてる?」
そう言うと、彼女は笑いながら説明した。
「あーまあね、でも全然大丈夫だから。好き
だったラジオ番組が終わっちゃったの。そん
な予感はしてたんだけどね。週一の時から聴
いてたから…って、今は月一ね。それで改編
の時に」
「あぁもう大丈夫」
熱が高まってきた彼女を抑制し、涙の理由を飲み込んだ。
ある日、唯が泣いて帰ってきた。いくら妹と言えど二十六歳の女がワンワン泣いているのを無視はできない。
「唯、どうした?」
と、百人いたら九十九人が言うであろう言葉を掛ける。
「なんでもない」
と、百人いたら五十八人が言うであろう返事をされ、彼女はそのままリビングを出ようとした。私は「ちょっと!」と彼女の後ろ姿を目で追うという百人いたら八十二人がするであろう行為をする。すると彼女も少し強めに扉を閉めるという百人いたら…って、もういい。今は彼女の涙の理由が知りたいのだ。
数十分後、唯は何事もなかったかのようにリビングへと降りてきた。
「あ、唯」
「ごめんね。さっきは」
突然謝られて驚いた。だがしかし、姉として慌ててはいけない。
「何があったか教えてくれたら、許してもいい
けど?」
そう言ってみると、彼女は説明を始めた。
「映画を観てきたの。極上の恋愛って感じの。
大学生の話で、私とは全然重ならない筈なの
に、なんか気持ちわかっちゃって。でもその
人は輝いてて、私は格好悪くて、それで」
「あぁもう大丈夫」
妹の恋バナを聞くのは、少々恥ずかしいので言葉を遮った。
「いや、え?」
「うん、もう大丈夫。涙の理由は大体分かった
から」
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