喧嘩のあとは

 ちょっと強く言われたくらいで私は悄気ない。それは相手が誰だろうと変わらない。

「用事があるならあるで言っとかないと駄目じ

 ゃない?」

 と、彼が詰めてきても、

「なんで私が美容室に行くってだけの用事を言

 わなきゃならないの?」

 すると彼は呆れたように言う。

「急に家来て、急に帰る、っておかしいだろ」

 盛るなよ、私が呆れるわ、

「自分が呼んだんじゃん」

 年下彼女は従順で歯向かわないとでも思ったか。彼は目を丸くしたのを誤魔化すように怒った。

「じゃあもう帰れ」

 私はその言葉には従順だった。いや、決して従ったわけではない。


 その日の夜、彼から謝罪の連絡がきた。

 "今日は申し訳なかった。鈴とまだ話したく、ごめんなはい。明日会えますか?"

 謝罪で誤字るな。あと、まだ許してもらってないのに次の予定を決めようとするな。と、そう思ったけどこれらを伝えたところできっと彼は平謝りを繰り返すだけだろう。

 "明日ね。十五時までは学校だから夕方だったらいよ。終わったら連絡する。"

 すぐに既読がつき、ありがとうという感じのスタンプが送られてきた。謝罪から一回のターンでスタンプは早い。言わないが。

 リビングには、お姉ちゃんが二人共いなかった。

「あれ、お姉ちゃんたちは?」

 台所の父に言うと、手を拭きながら答えた。

「凛は誰かとご飯に行くとかで、唯も同僚の先

 生とご飯食べて帰ってくるって言ってたぞ」

「そっか」

 すこし寂しい。二人に今日のことを話そうと思っていたから。

「どうした?父さんと二人じゃ嫌か?」

 そう言いながら二人分のキーマカレーを持ってくる父。

「いやいや。そんなことあるわけ…」

 その私の言葉を「冗談だよ」と笑い、遮る父。そして机を挟んだ私の左斜め前にゆっくりと腰を下ろす。

「いただきます」

 マイペースなのか、

「い、ただきます」

 私も遅れて食べ始める。二人で美味しい美味しいと言いながらそれを食べ、数十分が経ったときだった。

「凜と唯に話したいことがあったのか?」

 突然そう言われ、驚いた。

「いや、充さんでいいんだけど」

 父は逆に驚いた。

「父さん"で"いいってなんだよ」

 そんなことを言う父には、今日のことを少しだけ盛って話した。


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